租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

知識の盲点と思い込みを避けるための調査方法

最近同業者のX(Twitter)を拝見していて「調べ物をするときは自分なりに仮説を持ってから調べる」という方が複数いて「へぇー」と新鮮な気持ちでした。 というのも、私が調べ物をするときはむしろ「先入観を持たずにまっさらな気持ちで関連情報を見る」心持ち…

税理士の裁量労働制

レガシィは裁量労働制を導入していたのですね。不勉強にして知りませんでした。そして訴訟になったと(別に最近の話題ではないのですが、ふと目に触れたので)。 近似の労働判例 第25回 東京高裁平成26年2月27日判決 https://www.toben.or.jp/message/libra/…

申告をしたから取引の内容が決まるわけではない

税金の申告って、重要ですが、取引社会にとっては二次的なものといいますか…。 債務免除やら株式の移動やら、過去に行ったものとされている取引について、後から当事者の意思をよくよく確認してみると「実は債務免除したつもりはなかった」「実は株の贈与の…

返金をしない前受金の税務

1.事例 2.法人税 3.消費税 4.株価評価 1.事例 例えば年会費前払い制のスポーツクラブが、2年分の会費を先に払ってもらい、会員が途中退会しても返金しないというような場合があります。 この場合スポーツクラブの経理としては入金時点で全額を益金…

制作業務に係る人件費の仕掛品計上(をしないことについて)

設計やIT系の制作業務などで、制作期間中に決算日が訪れるような場合でも、中小企業の税務会計実務では人件費は単に期間費用(損金)として処理され、翌期の売上に対応する部分を仕掛品計上するという処理は取られていないケースが大半だろうと思います。 自…

接待を「受ける」ためのタクシー代は交際費ではない

メモ程度ですが、ご丁寧にこんな質疑応答もあるのだなぁと。 Q.他社が主催する懇親会に当社の従業員又は役員を出席させるために要するハイヤー・タクシー代(当社~懇親会会場、懇親会会場~自宅)は、会社の業務遂行上の経費であり、接待、供応等のために支…

税務会計専門書読み放題『丸善リサーチ』のここがスゴイ

今更ですが。そしてタイトルはちょっと大袈裟気味に。 先月くらいに税務会計系の専門書(電子書籍)がサブスクで読み放題になる『丸善リサーチ』が話題になっていたので登録してみました。 個人向けのスタンダードプランは月額3,500円ですがまずは無料でお試…

小規模宅地等の保有継続要件と申告期限前の売買契約

会の研修より。 相続税における小規模宅地等の特例では「申告期限まで引き続き当該宅地等を有し」ていること、いわゆる保有継続要件が求められることがあります(措置法69条の4)。 ここで疑問なのが「申告期限まで有している」というのは何を意味するのか?…

完全子法人株式等の配当に係る源泉徴収制度の見直し

もうすぐ適用開始ですがボーっとしてると忘れてしまいそうなので意識付けのためにメモ。 完全子法人から親会社に配当をする場合などで源泉徴収は不要(令和4年税制改正)。 【改正の概要】 一定の内国法人が支払を受ける配当等で次に掲げるものについては、…

雑所得の損益通算が認められていない歴史的背景

雑所得で生じた損失を他の所得と通算することができない理由について深く考えたことはなく、まぁ中身が色々で往々にして家事的な領域にも近いものだしなという程度の認識でしたが、『税務事例研究』を読んでいて経緯の説明があったので「へぇー」と思いまし…

法人が休眠している場合の均等割の扱い

ここでいう休眠とは法的な意味を持つものではなく単に「事実上稼働していない」状態とします。 休眠状態でも均等割を納めないといけないのかについては地方公共団体によって扱いが異なるようですが、地方税法的な整理としては「均等割は事務所又は事業所及び…

オーナー社長が配偶者を従業員にしてみなし役員認定される条件

少し前の「東京税理士界」の相談事例より、整理が簡潔でわかりやすいのでメモ的に共有。 「法人成りにより青色事業専従者がみなし役員と認定された場合の課税関係」(PDF) 相談事例は法人成りを前提としていますが新規に創業する場合でも同じで、会社法上の…

税理士変更時の会計ソフトデータ引き渡し

会計データ引き渡しのニーズ 会社が会計事務所に記帳代行を依頼しているケースで、会計事務所を変更する際に会計データを請求できるのかが問題となることがあります。 決算書や総勘定元帳を(紙やPDFで)もらえるのは当然として、微妙なのは例えば弥生会計の…

旧商号で記載された納付書で納めても問題なし

当たり前と言えば当たり前なのですが税務署に確認したので備忘メモ。 最近会社名の変更をした会社で、税務署に異動届は提出したのですがタイミングの問題でその変更が反映されておらず古い会社名で法人税や消費税の納付書が届きました。 お客様が気になると…

月次決算を極めれば経営が良くなるか

本日のお題はAmazonでたまたま見つけたこちらの書籍。 田村和己『税理士・会計事務所職員のための業績改善の基礎知識』(中央経済社2022) ひと目、会計事務所の業績を改善するための本なのかと思って手に取ったのですがそうではありませんでした。「業績改…

「一応自分でも確定申告できるのに税理士に頼む意味はなんなのか」を考えてみた

先日、プライベートの場面で、とある個人事業主の方から以下のようなことを言われました。 「合ってる合ってないは別として、今はクラウド会計で画面を進めていけば一応自分で確定申告ができるじゃないですか。それでもなお税理士に頼む意味というのはなんな…

〔書籍〕『税理士の実務に役立つホットな話題』

関根稔 & taxMLのメンバー『税理士の実務に役立つホットな話題』(財経詳報社2022) 知る人ぞ知る、関根先生を中心としたメーリングリストのログを書籍化したもの。その性格上、良い意味でも悪い意味でも「博識な同業者と最近のトピックについて雑談できる」…

消費税の届出を出そうとしている期日が休日のとき

マルチメディア研修で聞いた誤りやすい事例として 課税事業者選択届出書や簡易課税選択届出書を次の期から適用しようとする場合において、その期間の末日が日曜日等にあたることから提出期限がそれらの日の翌日まで延長されると考えている。 という趣旨のも…

「不相当に高額」は私的自治への不当な介入か

松井さんはベトナム事業の成功を確信し、弟を専念させるため月2億5000万円の役員報酬を提示した。実際、2015年12月から4カ月で10億円を払った。松井さん自身も2015年10月からの1年間、月5000万円、年間6億円の役員報酬を得た。 国税当局は2018年、京醍醐味噌…

福利厚生費に対する給与課税

1.現物給与課税の根拠 会社が支出している福利厚生費に関して、従業員に経済的利益があるものとして給与課税するか否かという論点についてなんだかなぁと思うことがあったので気持ちを落ち着けるために少し前提の整理を。 前提中の前提として、お金をもら…

贈与税の取得費・必要経費該当性

「大阪勉強会からの税法実務情報」ブログを見て、贈与により土地を取得した際に支払った贈与税が取得費にあたるか争われている事案があると知りました。 上記によると審判所の判断は「通常必要と認められる費用ということはできず…」というもののようですが…

繰戻還付請求と「調査」

繰戻還付請求の規定 所得税法と法人税法には損失(欠損)が発生したときの繰戻還付請求の規定があります。業界内でこの規定について「使うと税務調査が来る」「税務調査が来る前提」という声を聞いたことがあります。 たしかにそれぞれの条文には「調査」を…

会社法から見た使用人兼務役員

使用人兼務役員という存在 税務においては「使用人兼務役員」というのは非常に馴染みがある用語で、税理士的にはその存在の是非を疑ったことすらない人は多いのではないかと思います。 しかし冷静に考えると役員(ここでは取締役とする)は株主の委任を受け…

国外居住親族の扶養控除等

国税庁がPDFでQ&Aを公表しましたね。 令和5年1月からの国外居住親族に係る扶養控除等Q&A(源泉所得税関係) Q&Aによれば、国外居住親族について「扶養控除」の対象となるのは扶養親族のうち次の(1)から(3)にあたる者に限られ、適用を受けようとする場合…

土地建物の一括譲渡と消費税

今日の税務通信(3717号)の〔裁判例・裁決例〕より興味深い裁判例(東京地裁令和元年(行ウ)第480号、令和4年6月7日判決)。 土地建物の一括譲渡(合計約10億)で契約書において土地・建物それぞれの対価が記載されていない場合について。 納税者:鑑定評…

「たま土地」の承認申請をやってみた

1.たま土地特例の趣旨 昔から持っている土地をたまたま今年譲渡したことにより、消費税の計算上、土地代金の非課税売上で課税売上割合がガクっと下がってしまうことがあります。 単発の土地譲渡以外は営業の実態に変わりがないのに低い課税売上割合で税額…

無償増資の処理まとめ

無償増資、過去に一度しか経験がなく知識が少しぼんやりしていたので税理士会の研修でおさらいしてみました。 「許認可や取引先との都合で、資本金を増やしたい」 「しかし払い込むお金はない」 「じゃあ、繰越利益剰余金を資本金に振り替えちまおう」 こう…

チェックリストで業務を確実に!

税理士業務はミスをする恐怖との戦いだと思います。 自分が知識・注意力の面でマッチョになれれば一番ですが、そうは言っても人間なので見落としの危険は常にあるもの。 そこで活用したいのがチェックリストです。 本記事では法人の決算・申告を念頭に、実務…

公庫「飲食店経営力磨き上げガイド」など

税務ではないのですが。 ふと公庫のサイトを見たときに「飲食店経営力磨き上げガイド」なるものが最近刊行されていたのを知り、見てみたところベーシックなことがわかりやすくまとめられていていいなと思いました。PDFで無料閲覧可能です。 その他にも「写真…

誤解していた資本的支出の考え方

税務通信の記事*1を読み、ハっとさせられました。 法人税法施行令第132条(資本的支出)により資産の修理改良等の支出はその資産の使用可能期間を延長させるか価値を増加させる場合には資本的支出となり、一時の損金になりません。これ自体は問題ありません…