租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

所得税法

完全子法人株式等の配当に係る源泉徴収制度の見直し

もうすぐ適用開始ですがボーっとしてると忘れてしまいそうなので意識付けのためにメモ。 完全子法人から親会社に配当をする場合などで源泉徴収は不要(令和4年税制改正)。 【改正の概要】 一定の内国法人が支払を受ける配当等で次に掲げるものについては、…

雑所得の損益通算が認められていない歴史的背景

雑所得で生じた損失を他の所得と通算することができない理由について深く考えたことはなく、まぁ中身が色々で往々にして家事的な領域にも近いものだしなという程度の認識でしたが、『税務事例研究』を読んでいて経緯の説明があったので「へぇー」と思いまし…

福利厚生費に対する給与課税

1.現物給与課税の根拠 会社が支出している福利厚生費に関して、従業員に経済的利益があるものとして給与課税するか否かという論点についてなんだかなぁと思うことがあったので気持ちを落ち着けるために少し前提の整理を。 前提中の前提として、お金をもら…

贈与税の取得費・必要経費該当性

「大阪勉強会からの税法実務情報」ブログを見て、贈与により土地を取得した際に支払った贈与税が取得費にあたるか争われている事案があると知りました。 上記によると審判所の判断は「通常必要と認められる費用ということはできず…」というもののようですが…

繰戻還付請求と「調査」

繰戻還付請求の規定 所得税法と法人税法には損失(欠損)が発生したときの繰戻還付請求の規定があります。業界内でこの規定について「使うと税務調査が来る」「税務調査が来る前提」という声を聞いたことがあります。 たしかにそれぞれの条文には「調査」を…

国外居住親族の扶養控除等

国税庁がPDFでQ&Aを公表しましたね。 令和5年1月からの国外居住親族に係る扶養控除等Q&A(源泉所得税関係) Q&Aによれば、国外居住親族について「扶養控除」の対象となるのは扶養親族のうち次の(1)から(3)にあたる者に限られ、適用を受けようとする場合…

相続人が不存在の場合の準確定申告

確定申告をしていた納税者が年の中途で亡くなった場合、相続人が共同して4ヶ月以内に準確定申告をするのが通常の実務です。 では、相続人(になり得る親族)が全員相続放棄をしてしまったら準確定申告はどうなるのでしょうか。 結論として、このような場合、…

6月までに死亡した納税者に予定納税義務はない

納税者が上半期に死亡した場合の予定納税 税務署は6月15日までに、予定納税の通知を送ってきます(所得税法106条)。 しかし例えば5月にその納税者が亡くなっている場合はどうなるのでしょうか。結論としてはこの場合、予定納税の納付義務はない、すなわち納…

〔書籍〕『裁判例からみる所得税法〔二訂版〕』

酒井克彦『裁判例からみる所得税法〔二訂版〕』(大蔵財務協会2021) 旧版の所有者ですが改訂版が出たということで早速ゲットしました。 本書はタイトルの通り裁判例を素材に所得税法を体系的に整理しています。 所得税法について知っておいたほうがいい裁判…

保険の名義変更プランに関する通達の改正

1.名義変更プラン 数ヶ月前実務界で大騒ぎだったものを今更記事にするマンです。 生命保険の名義変更プランに関する記事は読者の少ない本ブログのわりにはよく読まれている記事なので、たとえ今更であっても情報のフォローアップはしておくべきなのではな…

売買と交換

お客様から交換の特例(所得税法58条)について相談がありました。 しかし、会話をしていると、どうも噛み合わない様子。 「交換の特例を受けるためには、譲渡の時期を合わせた方がいですかね?」 「合わせる??とは???」 よくよく話してみると、お客様…

「副業で赤字を出して損益通算で節税」とか普通に否認されています

1.巷で言われる”節税術” どこが出所なのかはわかりませんが「サラリーマンが副業で赤字を出して事業所得として申告すればその赤字を給与所得から引くことができる」という”節税術”が時々話題になります。 残念ですが税理士から見るとこの”節税術”はダメで…

特定口座の所得は申告しなければ「合計所得金額」に含まれない

タイトル通りの記事です。確定申告本格稼働を前に自分への注意喚起の意味でも文章にして確認しています。 金融所得を特定口座(源泉徴収有)で受けている場合、自動的に20.315%で源泉徴収がなされ確定申告の必要はありません。この申告不要制度を採用してい…

〔裁判例〕個人事業主が自身が代表を勤める会社に支払った外注費の必要経費性

個人事業主は自分が代表を務める会社に外注費を支払えるか? 税務通信か何かで見かけて気になっていた裁判ですが、地裁・高裁の判決文を読んでみました。大阪地裁平成30年4月19日(控訴審:大阪高裁平成30年11月2日)判決です。 事案としては燃料小売業を営…

通信費半額非課税の話

昼休みにスマホを見ていると日経新聞にこんなニュースが出ていました。 www.nikkei.com 「非課税に」と言葉で言うのは簡単ですが租税法律主義(中里実先生に言わせれば租税議会主義)ですから、議会で話し合いもしていないのに勝手に政府が金銭の支給を非課…

iDeCoの税制優遇は出口が重要

拠出非課税の意味 iDeCo(個人型確定拠出年金)の税制メリットとしては「拠出時非課税(所得控除)」が特に強調されます。金融機関や証券会社のウェブサイトで「所得控除でどのくらい節税メリットがあるか」をシミュレーションできるものもたくさんあります…

法人成りの研究(3)「節税」から「社会保険料の節約」へ

ミニマム法人あるいはマイクロ法人 前回は「税金だけでなく社会保険負担も踏まえた上で、どのくらいの所得なら法人成りをするのが得か」を計算しました。結論は、所得3,100万円以上という高いハードルでした。 taxlawlabyrinth.hatenablog.com 法人成りのハ…

〔書籍〕『小説で読む租税法―租税法の基本を学ぶロースクールの授業』

小説で読むシリーズ待望の租税法編 木山泰嗣『小説で読む租税法―租税法の基本を学ぶロースクールの授業』(法学書院2020) 木山先生の著作は全体的に難しいことをわかりやすく解説した良書ばかりですが、その中でも「小説で読む」シリーズは特に思い入れがあ…

法人成りの研究(2)税・社会保険負担の比較

前回の記事の続きです。前回は先行研究とネット上の説などを紹介しましたが、今回は自分なりに計算していきます。 taxlawlabyrinth.hatenablog.com 計算のアプローチ 今回の計算では「ビジネスによって得た収入から必要経費を引いた金額」を全ての基準としま…

法人成りの研究(1)導入編

問題意識 世の中ではよく「個人事業主も儲かってきたら法人化した方が節税になるよ」「フリーランスも所得〇〇円からは法人設立を検討した方がいいらしい」などと言われます。 税理士としてお客様からの相談も時折ありますが、実際どのくらいの所得があれば…

年末に年末調整制度について考える

税制審議会答申 『税理士界』第1395号に掲載されていた日税連から「税制審議会」への諮問に対する答申「源泉徴収制度のあり方について―令和元年度諮問に対する答申―」を読みました。 税制審議会は(特別委員)金子宏東大名誉教授を会長、中里実東大名誉教授…

税理士から見た中退共・特退共

制度の概要 顧問先から「従業員のために退職金制度を作りたいと思っているが、どのようなものが考えられるか」という相談を受けたことがあります。 その際に自分は中小企業退職金共済をオススメしました。似たものに特定退職金共済があります。 制度をざっく…

「副業収入20万円以下なら確定申告不要」の注意点

「センセー、今年〇〇の収入があるんですけど、確定申告必要ですかね?」といった会話をする季節になってきました。 ここで、給与所得者が給与所得以外の所得が20万円以下なら確定申告不要(所得税法121条)の規定を適用することは実務上結構多いかと思いま…

法人成りの新展開

2種類の法人成り観 興味深い論文を目にしたので、今回はそれをテーマに。日本証券経済研究所のウェブサイトで公表されている田近栄治先生の論文です。 事業体選択と社会保険料—増大する社会保険料への事業主の対応と帰結— この論文ではイギリスで横行してい…

源泉徴収義務と家事使用人

2人以下なら源泉徴収不要? 先日、以下の質問を受けました。 当方個人事業主なのですが、親戚の手伝い2人に少額の給料を払っているだけなら源泉徴収をしなくていいのですよね? これは誤解です。 この問題はおそらく所得税法184条・200条の「家事使用人」と…

年末調整の電子化

1.年末調整電子化の概要 あまりアンテナを張っていないうちに年末調整に関する手続きの電子化が色々と具体化されていました。 年末調整手続の電子化に向けた取組について(令和2年分以降) 年末調整手続きの電子化及び年調ソフト等に関するFAQ(PDF/2,6MB…

所得概念論を税理士実務に活かす

1.とある確定申告書 今回は所得概念と実務について思いつき程度に少し考えてみたいと思います。 考えるキッカケは今年の確定申告業務において新しくご依頼いただいたお客様の過去の申告書を見たことです。 そのお客様は個人事業主なのですが物を仕入れて売…

〔書籍〕『ホームラン・ボールを拾って売ったら二回課税されるのか』

浅妻章如『ホームラン・ボールを拾って売ったら二回課税されるのか』(中央経済社2020) 1.二重課税を鍵に課税を考える エッジの効いた知性と発言という印象のある、浅妻章如立教大学教授(ウェブサイト・Twitter)による初の単著だそうです。 タイトルは…

経費家事按分の原則論を確認する

1.実務上の取り扱い 確定申告の時期になったので個人所得税らしいネタで。 例えば個人事業主の車で、仕事とプライベート両方に使っているものがあるとします。 このとき、例えば「だいたい仕事とプライベート半々で使っているから減価償却費のうち50%を必…

個人事業と法人成りの税・社会保険負担に関する研究報告

今月の東京税理士会の会報誌「東京税理士界」を読んでいたら税務会計学会の研究報告が興味深いものでした。 実務研究「事業体選択と税・社会保障事例研究」(リンク先PDF) 個人で事業を行うのと、法人化して事業所得相当額の給与をとるのと、どちらが税制上…