租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

法人税法

返金をしない前受金の税務

1.事例 2.法人税 3.消費税 4.株価評価 1.事例 例えば年会費前払い制のスポーツクラブが、2年分の会費を先に払ってもらい、会員が途中退会しても返金しないというような場合があります。 この場合スポーツクラブの経理としては入金時点で全額を益金…

制作業務に係る人件費の仕掛品計上(をしないことについて)

設計やIT系の制作業務などで、制作期間中に決算日が訪れるような場合でも、中小企業の税務会計実務では人件費は単に期間費用(損金)として処理され、翌期の売上に対応する部分を仕掛品計上するという処理は取られていないケースが大半だろうと思います。 自…

接待を「受ける」ためのタクシー代は交際費ではない

メモ程度ですが、ご丁寧にこんな質疑応答もあるのだなぁと。 Q.他社が主催する懇親会に当社の従業員又は役員を出席させるために要するハイヤー・タクシー代(当社~懇親会会場、懇親会会場~自宅)は、会社の業務遂行上の経費であり、接待、供応等のために支…

法人が休眠している場合の均等割の扱い

ここでいう休眠とは法的な意味を持つものではなく単に「事実上稼働していない」状態とします。 休眠状態でも均等割を納めないといけないのかについては地方公共団体によって扱いが異なるようですが、地方税法的な整理としては「均等割は事務所又は事業所及び…

オーナー社長が配偶者を従業員にしてみなし役員認定される条件

少し前の「東京税理士界」の相談事例より、整理が簡潔でわかりやすいのでメモ的に共有。 「法人成りにより青色事業専従者がみなし役員と認定された場合の課税関係」(PDF) 相談事例は法人成りを前提としていますが新規に創業する場合でも同じで、会社法上の…

「不相当に高額」は私的自治への不当な介入か

松井さんはベトナム事業の成功を確信し、弟を専念させるため月2億5000万円の役員報酬を提示した。実際、2015年12月から4カ月で10億円を払った。松井さん自身も2015年10月からの1年間、月5000万円、年間6億円の役員報酬を得た。 国税当局は2018年、京醍醐味噌…

繰戻還付請求と「調査」

繰戻還付請求の規定 所得税法と法人税法には損失(欠損)が発生したときの繰戻還付請求の規定があります。業界内でこの規定について「使うと税務調査が来る」「税務調査が来る前提」という声を聞いたことがあります。 たしかにそれぞれの条文には「調査」を…

無償増資の処理まとめ

無償増資、過去に一度しか経験がなく知識が少しぼんやりしていたので税理士会の研修でおさらいしてみました。 「許認可や取引先との都合で、資本金を増やしたい」 「しかし払い込むお金はない」 「じゃあ、繰越利益剰余金を資本金に振り替えちまおう」 こう…

チェックリストで業務を確実に!

税理士業務はミスをする恐怖との戦いだと思います。 自分が知識・注意力の面でマッチョになれれば一番ですが、そうは言っても人間なので見落としの危険は常にあるもの。 そこで活用したいのがチェックリストです。 本記事では法人の決算・申告を念頭に、実務…

誤解していた資本的支出の考え方

税務通信の記事*1を読み、ハっとさせられました。 法人税法施行令第132条(資本的支出)により資産の修理改良等の支出はその資産の使用可能期間を延長させるか価値を増加させる場合には資本的支出となり、一時の損金になりません。これ自体は問題ありません…

退職した役員の給与を日割り支給してはいけないのか

「雇用契約である従業員と違って役員は委任関係だから、給与の締日とか日割り支給という概念がない。だから任期の中途、月の中途半端な日に退職したのであっても日割り計算で役員報酬を支給することはできない」 と実務上言われています。 「実務上言われて…

役員給与条文の読み方

法人税法34条1項の法律効果 法人税法における役員給与の規定について「定期同額給与(34条1項)に該当すれば、不相当に高額(34条2項)の規制対象から外れる」とする論文を目にしました。 それは違うと思うし中小企業実務にとっても大事なところなので、条文…

保険の名義変更プランに関する通達の改正

1.名義変更プラン 数ヶ月前実務界で大騒ぎだったものを今更記事にするマンです。 生命保険の名義変更プランに関する記事は読者の少ない本ブログのわりにはよく読まれている記事なので、たとえ今更であっても情報のフォローアップはしておくべきなのではな…

法人成りの研究(3)「節税」から「社会保険料の節約」へ

ミニマム法人あるいはマイクロ法人 前回は「税金だけでなく社会保険負担も踏まえた上で、どのくらいの所得なら法人成りをするのが得か」を計算しました。結論は、所得3,100万円以上という高いハードルでした。 taxlawlabyrinth.hatenablog.com 法人成りのハ…

法人成りの研究(2)税・社会保険負担の比較

前回の記事の続きです。前回は先行研究とネット上の説などを紹介しましたが、今回は自分なりに計算していきます。 taxlawlabyrinth.hatenablog.com 計算のアプローチ 今回の計算では「ビジネスによって得た収入から必要経費を引いた金額」を全ての基準としま…

法人成りの研究(1)導入編

問題意識 世の中ではよく「個人事業主も儲かってきたら法人化した方が節税になるよ」「フリーランスも所得〇〇円からは法人設立を検討した方がいいらしい」などと言われます。 税理士としてお客様からの相談も時折ありますが、実際どのくらいの所得があれば…

税理士から見た中退共・特退共

制度の概要 顧問先から「従業員のために退職金制度を作りたいと思っているが、どのようなものが考えられるか」という相談を受けたことがあります。 その際に自分は中小企業退職金共済をオススメしました。似たものに特定退職金共済があります。 制度をざっく…

法人成りの新展開

2種類の法人成り観 興味深い論文を目にしたので、今回はそれをテーマに。日本証券経済研究所のウェブサイトで公表されている田近栄治先生の論文です。 事業体選択と社会保険料—増大する社会保険料への事業主の対応と帰結— この論文ではイギリスで横行してい…

確定決算主義のお勉強

合同会社と確定決算 くどいようですが合同会社のことを考えています。以前に書いたように、合同会社には(デフォルトでは)株式会社でいう「株主総会」にあたる意思決定機関がそもそも存在しません。 そこで法人税法の確定決算主義(74条)との問題が起こる…

〔書籍〕『プログレッシブ税務会計論Ⅲ』

酒井克彦『プログレッシブ税務会計論Ⅲ』(中央経済社2019)。こちらもやっと通しで読みました。 本書では法人税法22条4項の「公正処理基準」に焦点を当て、種々の議論が展開されています。 第一章はまさに「法人税法22条4項における公正処理基準」と題して同…

〔書籍〕『プログレッシブ税務会計論Ⅱ』

1.法人所得計算の勘所 前回の『プログレッシブ税務会計論Ⅰ』に続いて、『プログレッシブ税務会計論Ⅱ』。 taxlawlabyrinth.hatenablog.com (前著もそうでしたがこちらも第1版を買って読み切れないうちに第2版が出ておりました…。22条の改正がありましたか…

〔書籍〕『プログレッシブ税務会計論Ⅰ』

1.税務会計論とは 尊敬する酒井克彦先生の税務会計本。ずっと積読というかつまみ読みの状態だったので、リンク先は第2版ですが読んだのは旧版です……。*1すみません……。とりあえず自分のノートとして。 巷に「税務会計論」と銘打った書籍は多数ありますが、…

クラウドファンディングの税務と課税要件

1.クラウドファンディングってなんだっけ 顧問先の帳簿でクラウドファンディングの支出を見つけました。 クラウドファンディングとは、おそらく厳密な定義は存在しませんが、一般的な用法としては「特定の目的のためにインターネットを通じて不特定多数か…

実現主義と売掛金の理屈についてよくわからないこと

1.実現主義の2要件 税理士試験の財務諸表論を勉強しているときから、実現主義の説明について何か腑に落ちないものを感じていました。自分が何か基本を勘違いしている気がしてならないのですが頭の整理のために少し書いてみます。 (新しい収益認識に関する…

『全ビジネスパーソンのための 分かりやすい「法人税法」の教科書』を読んで

法的な法人税法学習のベースキャンプ 税法をわかりやすく解説することに関して当代随一の感がある木山泰嗣先生による法人税法の入門書。私は以前から木山先生の書籍のファンであり本書も出版を楽しみにしておりました。前著の『弁護士が教える分かりやすい「…

個人事業と法人成りの税・社会保険負担に関する研究報告

今月の東京税理士会の会報誌「東京税理士界」を読んでいたら税務会計学会の研究報告が興味深いものでした。 実務研究「事業体選択と税・社会保障事例研究」(リンク先PDF) 個人で事業を行うのと、法人化して事業所得相当額の給与をとるのと、どちらが税制上…

会計事務所初心者向け決算・申告書作成の手引き本

1.意外にセオリーのない「決算」という業務 筆者が会計事務所(税理士事務所)に就職した当初困ったことのひとつに、「決算」及び「申告書の作成」という業務についてこれといったセオリーやマニュアルがないことがあります。 仮に簿記論や法人税法の試験…

理事等の役員に年に一度支給する報酬の事前確定届出

一般社団法人ナントカ協会といった団体で、理事や監事に多数の人が名を連ねており、毎月給与を払ったりはしないけれども、年に一度理事会やら総会を開いてお車代程度の意味合いで各人に5万円とかの報酬を支払う、といったケースは「あるある」かと思います。…

法人から個人への名義変更プランの課税関係についてのメモ(後編)

※2021年9月追記 本記事で議論している名義変更プランについては通達で手当てがされ、(率直な言い方をすれば)脱法的な個人への利益移転としては使えなくなりました。 具体的には、解約返戻金が資産計上額の7割未満となる保険の価額は資産計上額で評価するこ…

法人から個人への名義変更プランの課税関係についてのメモ(前編)

※2021年9月追記 本記事で議論している名義変更プランについては通達で手当てがされ、(率直な言い方をすれば)脱法的な個人への利益移転としては使えなくなりました。下記の記事をご参照ください。 taxlawlabyrinth.hatenablog.com 1.名義変更プランの概要…