租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

税務

知識の盲点と思い込みを避けるための調査方法

最近同業者のX(Twitter)を拝見していて「調べ物をするときは自分なりに仮説を持ってから調べる」という方が複数いて「へぇー」と新鮮な気持ちでした。 というのも、私が調べ物をするときはむしろ「先入観を持たずにまっさらな気持ちで関連情報を見る」心持ち…

申告をしたから取引の内容が決まるわけではない

税金の申告って、重要ですが、取引社会にとっては二次的なものといいますか…。 債務免除やら株式の移動やら、過去に行ったものとされている取引について、後から当事者の意思をよくよく確認してみると「実は債務免除したつもりはなかった」「実は株の贈与の…

完全子法人株式等の配当に係る源泉徴収制度の見直し

もうすぐ適用開始ですがボーっとしてると忘れてしまいそうなので意識付けのためにメモ。 完全子法人から親会社に配当をする場合などで源泉徴収は不要(令和4年税制改正)。 【改正の概要】 一定の内国法人が支払を受ける配当等で次に掲げるものについては、…

法人が休眠している場合の均等割の扱い

ここでいう休眠とは法的な意味を持つものではなく単に「事実上稼働していない」状態とします。 休眠状態でも均等割を納めないといけないのかについては地方公共団体によって扱いが異なるようですが、地方税法的な整理としては「均等割は事務所又は事業所及び…

オーナー社長が配偶者を従業員にしてみなし役員認定される条件

少し前の「東京税理士界」の相談事例より、整理が簡潔でわかりやすいのでメモ的に共有。 「法人成りにより青色事業専従者がみなし役員と認定された場合の課税関係」(PDF) 相談事例は法人成りを前提としていますが新規に創業する場合でも同じで、会社法上の…

税理士変更時の会計ソフトデータ引き渡し

会計データ引き渡しのニーズ 会社が会計事務所に記帳代行を依頼しているケースで、会計事務所を変更する際に会計データを請求できるのかが問題となることがあります。 決算書や総勘定元帳を(紙やPDFで)もらえるのは当然として、微妙なのは例えば弥生会計の…

旧商号で記載された納付書で納めても問題なし

当たり前と言えば当たり前なのですが税務署に確認したので備忘メモ。 最近会社名の変更をした会社で、税務署に異動届は提出したのですがタイミングの問題でその変更が反映されておらず古い会社名で法人税や消費税の納付書が届きました。 お客様が気になると…

〔書籍〕『税理士の実務に役立つホットな話題』

関根稔 & taxMLのメンバー『税理士の実務に役立つホットな話題』(財経詳報社2022) 知る人ぞ知る、関根先生を中心としたメーリングリストのログを書籍化したもの。その性格上、良い意味でも悪い意味でも「博識な同業者と最近のトピックについて雑談できる」…

消費税の届出を出そうとしている期日が休日のとき

マルチメディア研修で聞いた誤りやすい事例として 課税事業者選択届出書や簡易課税選択届出書を次の期から適用しようとする場合において、その期間の末日が日曜日等にあたることから提出期限がそれらの日の翌日まで延長されると考えている。 という趣旨のも…

福利厚生費に対する給与課税

1.現物給与課税の根拠 会社が支出している福利厚生費に関して、従業員に経済的利益があるものとして給与課税するか否かという論点についてなんだかなぁと思うことがあったので気持ちを落ち着けるために少し前提の整理を。 前提中の前提として、お金をもら…

贈与税の取得費・必要経費該当性

「大阪勉強会からの税法実務情報」ブログを見て、贈与により土地を取得した際に支払った贈与税が取得費にあたるか争われている事案があると知りました。 上記によると審判所の判断は「通常必要と認められる費用ということはできず…」というもののようですが…

繰戻還付請求と「調査」

繰戻還付請求の規定 所得税法と法人税法には損失(欠損)が発生したときの繰戻還付請求の規定があります。業界内でこの規定について「使うと税務調査が来る」「税務調査が来る前提」という声を聞いたことがあります。 たしかにそれぞれの条文には「調査」を…

国外居住親族の扶養控除等

国税庁がPDFでQ&Aを公表しましたね。 令和5年1月からの国外居住親族に係る扶養控除等Q&A(源泉所得税関係) Q&Aによれば、国外居住親族について「扶養控除」の対象となるのは扶養親族のうち次の(1)から(3)にあたる者に限られ、適用を受けようとする場合…

「たま土地」の承認申請をやってみた

1.たま土地特例の趣旨 昔から持っている土地をたまたま今年譲渡したことにより、消費税の計算上、土地代金の非課税売上で課税売上割合がガクっと下がってしまうことがあります。 単発の土地譲渡以外は営業の実態に変わりがないのに低い課税売上割合で税額…

チェックリストで業務を確実に!

税理士業務はミスをする恐怖との戦いだと思います。 自分が知識・注意力の面でマッチョになれれば一番ですが、そうは言っても人間なので見落としの危険は常にあるもの。 そこで活用したいのがチェックリストです。 本記事では法人の決算・申告を念頭に、実務…

役員給与条文の読み方

法人税法34条1項の法律効果 法人税法における役員給与の規定について「定期同額給与(34条1項)に該当すれば、不相当に高額(34条2項)の規制対象から外れる」とする論文を目にしました。 それは違うと思うし中小企業実務にとっても大事なところなので、条文…

相続人が不存在の場合の準確定申告

確定申告をしていた納税者が年の中途で亡くなった場合、相続人が共同して4ヶ月以内に準確定申告をするのが通常の実務です。 では、相続人(になり得る親族)が全員相続放棄をしてしまったら準確定申告はどうなるのでしょうか。 結論として、このような場合、…

6月までに死亡した納税者に予定納税義務はない

納税者が上半期に死亡した場合の予定納税 税務署は6月15日までに、予定納税の通知を送ってきます(所得税法106条)。 しかし例えば5月にその納税者が亡くなっている場合はどうなるのでしょうか。結論としてはこの場合、予定納税の納付義務はない、すなわち納…

適格請求書と誤認されるおそれのある書面ってなんなんでしょうか

問題意識のメモとしてタイトル通りの疑問を書いているだけの記事です。 答えはありません。 令和5年10月開始のインボイス制度の下では、相手方が仕入税額控除可能な適格請求書を発行できるのは登録している課税事業者だけです。 逆に登録を受けていない事業…

この経理法に名前はあるのでしょうか

前払費用と未払費用の両建て 実務でたまに見かける経理処理方法の話です。 (1)前提 継続的な費用ならなんでもいいのですが、例えば「継続的に使用している業務システムの利用料を3ヶ月ごとに前払いする」という取引があるとします。4~6月分、7~9月分、1…

事業年度変更で短い課税期間の消費税中間納付に関する条文操作

例えば3月決算法人が事業年度変更で8月決算法人に変わった場合、その期に中間納税の納付書がやってきたときにどのように対応したらいいのかと戸惑うことがあります。 X1期 X1年4月1日~X2年3月31日(年税額48万円超400万円以下) X2期 X2年4月1日~X2年8月31…

税務における株価評価に改正の気配(残余利益法)

あなたは加藤論文の存在を知っていますか 最近、佐藤信祐先生が書かれた下記の本を読んでいます。 これまで佐藤先生の本というと組織再編に関する技術的な内容のものを読むことが多く、そういうイメージを持ちがちだったのですが、本書は博士論文をバックボ…

「副業で赤字を出して損益通算で節税」とか普通に否認されています

1.巷で言われる”節税術” どこが出所なのかはわかりませんが「サラリーマンが副業で赤字を出して事業所得として申告すればその赤字を給与所得から引くことができる」という”節税術”が時々話題になります。 残念ですが税理士から見るとこの”節税術”はダメで…

〔書籍〕『一般社団法人・一般財団法人の税務・会計Q&A』

田中義幸『一般社団法人・一般財団法人の税務・会計Q&A~本当に知りたかったポイントがわかる 税理士からの相談事例100~ 』(第一法規2019) 税理士の実務に馴染む一冊 久しぶりに一般社団法人を担当するので知識の整理のために買いました。 惹かれた…

インボイス制度開始に向けて考えるいくつかの実務ポイント

インボイス制度の導入に向けて少しずつ勉強。以下は(会のマルチメディア研修で熊王先生の講義を聞いたのを中心に)勉強メモの落書き程度に。 (1)令和3年10月からインボイス発行事業者の登録申請受付開始。令和5年10月から制度開始。 このタイムスケジュ…

特定口座の所得は申告しなければ「合計所得金額」に含まれない

タイトル通りの記事です。確定申告本格稼働を前に自分への注意喚起の意味でも文章にして確認しています。 金融所得を特定口座(源泉徴収有)で受けている場合、自動的に20.315%で源泉徴収がなされ確定申告の必要はありません。この申告不要制度を採用してい…

税理士資格がない人に税務を依頼してはいけない実利的な理由

確定申告時期というのもあり、少々業界的な呼びかけで。。。 税務相談や申告書の作成業務は税理士の独占業務であり、税理士でない人はたとえ無償であっても業としてこれを行なってはいけません。資格がないのに税理士業を行う人を「ニセ税理士」などと呼びま…

通信費半額非課税の話

昼休みにスマホを見ていると日経新聞にこんなニュースが出ていました。 www.nikkei.com 「非課税に」と言葉で言うのは簡単ですが租税法律主義(中里実先生に言わせれば租税議会主義)ですから、議会で話し合いもしていないのに勝手に政府が金銭の支給を非課…

iDeCoの税制優遇は出口が重要

拠出非課税の意味 iDeCo(個人型確定拠出年金)の税制メリットとしては「拠出時非課税(所得控除)」が特に強調されます。金融機関や証券会社のウェブサイトで「所得控除でどのくらい節税メリットがあるか」をシミュレーションできるものもたくさんあります…

〔書籍〕『争えば税務はもっとフェアになる』

北村豊『争えば税務はもっとフェアになる』(中央経済社2020) 納税者勝利の裁決事例をドラマ仕立てで紹介 本書は国税不服審判所の裁決事例をテーマとしており、最近の裁決事例で納税者側が勝利したものを14本紹介しています。あまり専門用語は使っておらず…