租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

論文

法人成りの研究(3)「節税」から「社会保険料の節約」へ

ミニマム法人あるいはマイクロ法人 前回は「税金だけでなく社会保険負担も踏まえた上で、どのくらいの所得なら法人成りをするのが得か」を計算しました。結論は、所得3,100万円以上という高いハードルでした。 taxlawlabyrinth.hatenablog.com 法人成りのハ…

法人成りの研究(2)税・社会保険負担の比較

前回の記事の続きです。前回は先行研究とネット上の説などを紹介しましたが、今回は自分なりに計算していきます。 taxlawlabyrinth.hatenablog.com 計算のアプローチ 今回の計算では「ビジネスによって得た収入から必要経費を引いた金額」を全ての基準としま…

法人成りの研究(1)導入編

問題意識 世の中ではよく「個人事業主も儲かってきたら法人化した方が節税になるよ」「フリーランスも所得〇〇円からは法人設立を検討した方がいいらしい」などと言われます。 税理士としてお客様からの相談も時折ありますが、実際どのくらいの所得があれば…

法人成りの新展開

2種類の法人成り観 興味深い論文を目にしたので、今回はそれをテーマに。日本証券経済研究所のウェブサイトで公表されている田近栄治先生の論文です。 事業体選択と社会保険料—増大する社会保険料への事業主の対応と帰結— この論文ではイギリスで横行してい…

「社会保険料と年金制度」『財政と金融の法的構成』

中里実『財政と金融の法的構造』(有斐閣2018)より、本日は第7章第1節「社会保険料と年金制度」。 本節は本書の中で最も古く書かれた論文(1997年)であり、正直本書の他の部分との関りは薄いです。 妥当な年金制度が主に経済的な観点から議論され、その議…

「議会の財政権」『財政と金融の法的構成』

中里実『財政と金融の法的構造』(有斐閣2018)より、本日は第5章第2節「議会の財政権」。元論文はフィナンシャル・レビューでオープン(PDF)です。 前節の「租税法律主義は議会の財政権に基づく」という指摘を敷衍し、歴史的な視点と外国の学説を通じて「…

「議会の財政・金融権限と名誉革命」『財政と金融の法的構成』

中里実『財政と金融の法的構造』(有斐閣2018)より、本日は第5章第1節「議会の財政・金融権限と名誉革命」。 財政と合わせて金融の議会的統制を考えることの重要性を説いた節です。 特に財政軍事国家という中世ヨーロッパの観念をもとに金融制度がイングラ…

「主権国家の成立と課税権の変容」『財政と金融の法的構成』

中里実『財政と金融の法的構造』(有斐閣2018)より、本日は第2章第1節「主権国家の成立と課税権の変容」。 驚異の外国文献炸裂セクション。本節の初出は2014年の『租税法と市場』ですが、買ってきて「よーし頑張って読むぞー」と思った気持ちが序盤の本論文…

「憲法が前提とする憲法以前の法概念・法制度」『財政と金融の法的構成』

中里実『財政と金融の法的構造』(有斐閣2018)より、本日は第3章第2節「憲法が前提とする憲法以前の法概念・法制度」。 憲法学でいわゆる制度的保障として議論されるような事柄を租税法学の「借用概念」の議論を援用することで少し異なる見方で整理する面白…

「財政法の2つの側面」「財政の再定義」『財政と金融の法的構成』

中里実『財政と金融の法的構造』(有斐閣2018)より、本日は第1章「財政法の2つの側面」と「財政の再定義―財政法の実体法化と経済学」。後者の元論文はフィナンシャル・レビューでオープン(PDF)です。 この第1章では議会の財政権と国家の財産権を論じるの…

「金銭債権と租税」『財政と金融の法的構成』

中里実『財政と金融の法的構造』(有斐閣2018)より、本日は第7章第2節「金銭債権と租税」。 他の箇所でも度々述べられているように租税債権は本質的には(民法の)金銭債権であること、制定法の解釈には普通法がベースにあることが確認されます。 そうした…

「財政制度と法の関わり」『財政と金融の法的構成』

中里実『財政と金融の法的構造』(有斐閣2018)より、本日は第4章第1節「財政制度と法の関わり」。 本節では財政の法的な検討として手続き的・行政法的な検討だけでは不十分で、実体法的・私法的な把握が大事だということで「国家活動の概念図」(165頁)な…

「財政法と憲法・私法」『財政と金融の法的構成』

中里実『財政と金融の法的構造』(有斐閣2018)より、本日は第4章第2節「財政法と憲法・私法―財政の法的統制」。元論文はフィナンシャル・レビューでオープン(PDF)です。 本節は、財政に関する法的統制を考えるにあたって憲法や財政法の国家内部の手続きを…

「財政法の私法的構成」『財政と金融の法的構成』

中里実『財政と金融の法的構造』(有斐閣2018)より、本日は第2章第2節「財政法の私法的構成」。 本節は憲法・行政法の文脈で議論されがちな財政が「国民に対する国家の対外的な関係においては基本的に民法や商法により規律される法領域であるという点につい…

「制定法と普通法」『財政と金融の法的構造』

中里実『財政と金融の法的構造』(有斐閣2018)より本日は第3章第1節「制定法と普通法」。 元論文はジュリストの「制定法の解釈と普通法の発見―複数の方が併存・競合する場合の法の選択としての「租税法と私法」論(上)(下)」ですね。 個人的には勝手に思…

「貨幣制度と法」『財政と金融の法的構造』

中里実『財政と金融の法的構造』(有斐閣2018)より、本日は第6章1節「貨幣制度と法―法・言語・貨幣のソフト・ローの観点からの共通性」。元論文はネット上でオープン(PDF)ですね。 中里先生ご自身が最後に「とりとめもなく色々述べてきた」と書かれている…

「財政と国家活動に関する1つの試論」『財政と金融の法的構造』

中里実先生の『財政と金融の法的構造』(有斐閣2018)より「財政と国家活動に関する1つの試論」という節(論文)。 はっきり言って自分の手には余る難しい本(けど憧れるし読みたい本)ですので、ところどころつまみ食いしつつ読んでいます。思いついたとき…

個人事業と法人成りの税・社会保険負担に関する研究報告

今月の東京税理士会の会報誌「東京税理士界」を読んでいたら税務会計学会の研究報告が興味深いものでした。 実務研究「事業体選択と税・社会保障事例研究」(リンク先PDF) 個人で事業を行うのと、法人化して事業所得相当額の給与をとるのと、どちらが税制上…

租税回避の実在性と妻のジョーク

最近「租税回避」が気になっています。 租税回避というのは考えてみると非常に不思議な概念です。例えば雑談レベルの会話では「こないだのA社の税務訴訟、やっぱり租税回避だと認定されて追徴税額払ったらしいね」とか「このB社の取引、実際のところ租税回避…