税理士試験はもっとこうしたほうがいい、ああしたほうがいい……というのは散々言われていることかと思いますので、さらにああだこうだと加えるのは余計なことのようにも思われます。
とはいえ、やはり自分なりに思うところを言ってみたい部分はありますので、前から思っていることをいくつか書いてみようと思います。もっとも、はじめに言い訳をするようでなんですが、税理士試験制度について詳しく研究した末の結論というわけではありませんので税理士として仕事をしている一人の者の雑感として気楽に読んでいただければと思います。
私が提案するのは次のような科目構成の試験です。
1.会計学(簿財統合)
まず、簿記論と財務諸表論がわざわざ2科目あるのは端的に無駄ではないかと思われます。現在でも学習内容は被っている部分は多く、簿記の技術と背景の理論・ディスクロージャーの知識を同時に問うひとつの科目にすることはさほど難しくないのではないでしょうか。
次に一般法に関してですが、個人的には(自分を含めて)多くの(?)税理士が民法などの基本的な法分野の勉強をしていないままに税に関する法律家(という表現も怒られるのでしょうが)として仕事をしていることに大きな疑問を覚えます。租税法を考えるにあたっても「二層的構造認識論」と言われるように、私法の理解がなければ課税関係を考えることができません。
実務的に言っても、税務の観点からの契約書のレビューや会社の組織再編行為に関する相談など民商法の理解がなければそもそもの話ができないという場面が多いはずです。また、租税法律主義を理解するためには憲法を知る必要がありますし、税務調査の折衝を考えると行政の裁量や処分とは何かといった行政法についての基礎的な理解も必要なように思います。このあたりが現在の税理士試験からはスコーンと抜けているように感じます。もちろん税理士の受験資格のひとつには大学で法律学の単位を得ている者というのがありますから建前上はそういう教育を受けた人であればそれらはわかっていて当然ということなのかもしれません。しかし簿記1級合格による受験などもあるわけですから、全員の受験者にその前提を要求する仕組みにはなっていません。
そして肝心の租税法に関しては、私は国税四法の横断的理解が重要だと考えています。現在の税理士試験制度に合格して得られる知識にはあまりにも偏りが大きいかと思います。法人税法の試験に合格するには数百時間は平気で法人税法を勉強する必要があり、そこで得られる知識は必ずしも実務では使わないものも多いです。他方で、例えば法人税法に受かれば残りは住民税と酒税法という選択でもいいわけで、そうすると所得税法も相続税法も消費税法も勉強せずに税理士になることができてしまいます。
しかし実務は個別の税法ごとに行うものではありませんので、全てが繋がっています。その繋がりを理解していないと適切に税務を行うことができません。そういう意味では試験でも今より広く浅く、全体的な理解を問うべきと考えます。したがって税目ごとに試験をするというよりは例えば事例問題を与えて、企業が非適格の合併をした場合に法人税と消費税はどうなって、株主の所得課税はどうなるか。相続財産への影響はどうか。規定の暗記ではなく司法試験のように条文は貸与でいいので、そういうことを条文を読んで答えられるかの力を試すほうがよほど意味があると思います。
最後にテクニカルな実施方法の面で言えば、現在のような1科目が重たいわりに年ごと・科目ごと・出題者ごとに内容のばらつきが大きく年に1回しかない上に採点が不透明な試験だと受験生をはじめとして関係者の生活に与える不安定性が大きすぎて弊害が目立つので、極端に言えばUSCPAのようなパソコンに向かって答えを打てば早期に明確な点数が出るような試験で年に2回くらいは受けられるものでもいいのではないかと思います。既に税理士である身として既得権益から言えば試験は難しい方がいいのですが、国や国民に与える利益という意味で言えば税務の知識がある人が順当かつ円滑に資格を得られるような試験システムが望ましいと考えます。