租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

税理士と憲法

 憲法記念日にちなんで憲法の話題でも。

 我々税理士と憲法との関わりといえば、なんといっても租税法律主義です。

 憲法84条は「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」と規定します。さすがにこの条文は暗唱できるようになりました。

 また、憲法30条は「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ」とします(もちろんこちらも暗唱できます)。

 私は大学時代、税理士試験の勉強をしている頃、大学で租税法の講義を受けていて先生からこの30条の話を聞きました。先生はこう話してくれました。

 「この条文は、納税の義務を定めていると言われているけど、“法律の定めるところにより”ということは、逆に言えば、法律に定めていなければ課税されてないということなんだよ。憲法はそういう風に、国民の義務を定めているものではなくて、国民の自由を守るために国家権力を縛るもので、30条はそういう風に読むものなんだよ」

 当時は憲法がどんなものかも知らず、ただただ技術的に税理士試験の勉強をしていた身だったので、この話は目から鱗でした。後にいくつかの本で自習をして、立憲主義というものを知りました。憲法というのはこんなに私たちの自由を守ってくれるものなんだ、と勉強するほどにどこか感動すらおぼえました。

 もちろんまだまだ素人レベルで知らないことだらけなので他人に憲法を説明するのはおこがましいのもいいところなのですが、例えば租税法律主義の世界で仕事をしている税務の実務家でも、上記のような話って意外に知らなかったりすることも多いと思うのです。まぁ、実務で必要になることはありませんからね。でも知っておくべきことだと思います。

 そんな憲法に馴染みがない方に憲法の第一歩として断然おすすめなのが『憲法主義』です。

 

 この本は良いです。「AKBのアイドルが憲法を学ぶ」という一見ふざけたような体裁ですが、とても読みやすく、内容もしっかりしています。もちろん上記のような憲法の名宛人が国民ではなく国家権力であることなども書いてあります。憲法がどんなものかイメージが持てない状態で何かまず読みやすい本を、という趣旨であればうってつけではないでしょうか。

 本書を読んでいくと租税法分野についても考えさせられるところがあります。例えば違憲審査制の民主的正当性のあたりの話は、日々何気なく租税判例を学んでいる立場からして、そう言われると不思議だな、と思わされるところがあったり。

 というのも、租税法律主義はいわゆる自己同意、財産の侵害である税金はちゃんと内容を議会で自分達で話し合って決めましょうという背景のものです。間接民主制ですからこの段階で既にかなりのフィクション感はあるものの、原理としては納得できます。他方で、裁判所は議会(国民の話し合いの場)ではありません。最高裁判所の長官は行政の長である内閣総理大臣が選びます。そうすると、租税法律主義(の下の厳格解釈)が強い特色である租税法の分野において、果たして「判例」が法源足り得るのかという素朴な疑問が浮かびます。また違憲訴訟においても、いったい何故裁判所が違憲か合憲かを判断するのか。裁判所は民主主義の下でみんなで話し合って決めたものにケチをつける正当性のある機関なのか。

 実務では何気なく「あ~この取引は一時所得って判例が出てるんだよね」なんて言ったりしますが、そもそも判例とは何で、私たちが何故判例に拘束されるのか、ということを考え直してみる(背景を考えてみる)のもなかなか面白いと思います。