租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

簡易課税の場合における棚卸調整非適用の条文操作

消費税において免税事業者から課税事業者に切り替わったとき、免税事業者である期間中に仕入れた期首棚卸資産があると、これに係る消費税額は仕入れに係る消費税額に足し込むことになります。

消費税法の試験では重要度が高くない論点だったように記憶していますが、小規模事業者の実務では意外とよく使う規定です。直接的な対応を持つ売上と原価に関して、売上には消費税が課されるのに仕入の分の消費税が控除できないのは不合理だという制度趣旨と理解しています。

この計算の条文上の建て付けは「当該課税仕入れに係る棚卸資産又は当該課税貨物に係る消費税額」を、課税になった期間の「仕入れに係る消費税額の計算の基礎となる課税仕入れ等の税額とみなす」という形です(消費税法36条)。みなし規定なのですね。

先日、棚卸資産がある状態で免税から課税になって、かつ簡易課税が適用されるケースに遭遇しました。この場合36条の調整はないと認識しており、結論もそうなのですが、どのような条文操作で導出される結論なのかいまひとつわかっていなかったため簡単に追ってみました(36条自体には、簡易課税のときに適用しないとは書いてありません)。

 

まず大前提として、仕入税額控除は30条が基幹的な規定です。

30条1項は、課税標準額に対する消費税額から次の3つの合計額を控除すると規定しています。

①当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れに係る消費税額

②当該課税期間中に国内において行つた特定課税仕入れに係る消費税額

③当該課税期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物につき課された又は課されるべき消費税額

そして30条2項は、上記の3つを「課税仕入の税額」とネーミングしています。

 

それらを踏まえて、最後に見るのが簡易課税を規定する37条です。37条は、基準期間における課税売上高が5千万円以下で課税期間開始の日の前日までに届出を出している課税期間については以下のようにするとします。

第三十条から前条までの規定により課税標準額に対する消費税額から控除することができる課税仕入れ等の税額の合計額は、これらの規定にかかわらず、次に掲げる金額の合計額〔引用者注:簡単に言えば売上に対する消費税額にみなし仕入れ率を掛けた金額〕とする。この場合において、当該金額の合計額は、当該課税期間における仕入れに係る消費税額とみなす」

つまり、30~36条を無視して、「課税仕入れ等の税額」の合計額を37条の数字に置き換えてしまうというわけですね。この結果として、簡易課税のときには棚卸資産の消費税額に関する調整(36条)の計算は行わないことになります。

なお、当然ながらこれは課税仕入れ等の税額だけの問題であり、37条より後にある貸倒れに係る消費税額の控除等(39条)なんかは簡易課税であっても適用があることに注意が必要です。