租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

理事等の役員に年に一度支給する報酬の事前確定届出

 一般社団法人ナントカ協会といった団体で、理事や監事に多数の人が名を連ねており、毎月給与を払ったりはしないけれども、年に一度理事会やら総会を開いてお車代程度の意味合いで各人に5万円とかの報酬を支払う、といったケースは「あるある」かと思います。年に一度数万円程度払うという事務処理です。

 こういった場合、法人税法に規定する役員に対して支給する給与で定期同額でもないからということで、事前確定届出給与に関する届出を提出しなければならないのでしょうか?

 答えは提出する必要はありません。もう少し丁寧に言うと「同族会社でない法人が定期給与を支払っていない役員に対して毎年一定の時期に支払う事前確定給与は届出なしで損金算入可」です。

 

 

 条文の建付けを追ってみましょう。

 まず、役員給与の損金算入規制に関する法人税法34条(1項)は、退職給与などを除いて①定期同額給与②事前確定届出給与③業績連動給与の3つのいずれにもあたらない役員給与は損金の額に算入しない旨定めています。*1

 つまり、年一支給の役員給与が損金となるためには不算入の法律効果を逃れるため、どれかに該当しなければならなくなります。そこで事前確定届出給与の意義を定めた34条1項2号を確認します。

二 その役員の職務につき所定の時期に、確定した額の金銭又は確定した数の株式(出資を含む。以下この項及び第五項において同じ。)若しくは新株予約権若しくは確定した額の金銭債権に係る第五十四条第一項(譲渡制限付株式を対価とする費用の帰属事業年度の特例)に規定する特定譲渡制限付株式若しくは第五十四条の二第一項新株予約権を対価とする費用の帰属事業年度の特例等)に規定する特定新株予約権を交付する旨の定めに基づいて支給する給与で、定期同額給与及び業績連動給与のいずれにも該当しないもの(当該株式若しくは当該特定譲渡制限付株式に係る第五十四条第一項に規定する承継譲渡制限付株式又は当該新株予約権若しくは当該特定新株予約権に係る第五十四条の二第一項に規定する承継新株予約権による給与を含むものとし、次に掲げる場合に該当する場合にはそれぞれ次に定める要件を満たすものに限る。)
イ その給与が定期給与を支給しない役員に対して支給する給与(同族会社に該当しない内国法人が支給する給与で金銭によるものに限る。)以外の給与(株式又は新株予約権による給与で、将来の役務の提供に係るものとして政令で定めるものを除く。)である場合 政令で定めるところにより納税地の所轄税務署長にその定めの内容に関する届出をしていること。
ロ 株式を交付する場合 当該株式が市場価格のある株式又は市場価格のある株式と交換される株式(当該内国法人又は関係法人が発行したものに限る。次号において「適格株式」という。)であること。
ハ 新株予約権を交付する場合 当該新株予約権がその行使により市場価格のある株式が交付される新株予約権(当該内国法人又は関係法人が発行したものに限る。次号において「適格新株予約権」という。)であること。

  ちょっと読みにくい条文ですが、要点を抜粋しましょう。まず「その役員の職務につき所定の時期に、確定した額の金銭(…)を交付する旨の定めに基づいて支給する給与で、定期同額給与及び業績連動給与のいずれにも該当しないもの」が損金不算入の対象にならない事前確定給与です。年一の理事への給与はこれに該当するでしょう。

 そしてカッコ書きで「次に掲げる場合に該当する場合にはそれぞれ次に定める要件を満たすものに限る」という限定を付しています。

 そこで出て来るイが「その給与が定期給与を支給しない役員に対して支給する給与(同族会社に該当しない内国法人が支給する給与で金銭によるものに限る。)以外の給与(…)である場合」には所定の届出(いわゆる事前確定届出給与に関する届出)が必要だとしています。

 逆の言い方をすれば

 「その給与が定期給与を支給しない役員に対して支給する給与(同族会社に該当しない内国法人が支給する給与で金銭によるもの)

 に関しては届出の必要なく損金不算入の対象から外れる事前確定給与になる(損金になる)ということです。

 このような規定になっている背景としては、同族会社でない場合はお手盛りによる利益操作の懸念もないという理由があるようです。同族会社の場合には届出が必要です。*2

 本法に堂々と書いてある部分なのですが普段あまり意識せずに読み飛ばしてしまっていたので整理してみました。

 

 

 余談ながら、そうした年一の報酬の源泉徴収は「賞与」ではありません。

 所得税基本通達183-1の2(賞与の意義)の注書きに次のように書かれています。

(注) 次に掲げる給与については、賞与に該当することに留意する。

1 法人税法第34条第1項第2号《事前確定届出給与》に規定する給与(他に定期の給与を受けていない者に対して継続して毎年所定の時期に定額を支給する旨の定めに基づき支給されるものを除く。)

2 法人税法第34条第1項第3号に規定する業績連動給与

  届出を出すような事前確定は源泉徴収税額の計算上は賞与扱いですが、カッコ書きに該当する年一の理事報酬のようなものは賞与に該当しないこととなります。ですから普通に月額表を使って源泉徴収をすることとなります。他に主な勤め先がある受給者が多いかと思いますので乙欄の場合が多いでしょうが、他の収入は年金しかないといった受給者であればマルフを出してもらうことで源泉税額なしでいける場合も出て来るかと思います。

*1:条文の読み方としてとても重要なところだと個人的には思うのですが、当該3種類の給与を「損金の額に算入する」と定めているわけではありません。

*2:例えば一般社団法人はそもそも「会社」ではありません。同族会社の意義は法人税法2条1項10号ですが、「会社(…)の株主等の…」という規定ぶりになっており、では会社とは何かというと法人税法には定義規定がなく会社法2条1項1号は「会社 株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社をいう」と規定しています。