租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

〔書籍〕租税法を抽象する―岡村・酒井・田中『租税法』

岡村忠生・酒井貴子・田中晶国『租税法』(有斐閣2017)

租税法の要点を凝縮した基本書

 本書は岡村忠生・酒井貴子・田中晶国各先生によるコンパクトな租税法の基本書です。コンパクトな基本書といっても本書のはしがきに「基本的であることと、理解が容易であることとは、全く無関係である」と述べられている通り、「初学者がライトに読める入門書」では全くありません。

 全体的な印象としては言うなれば「租税法の急所まとめ集」あるいは「租税法の要点に関する意味深なコメント集」といった感じで、コンパクトで多くを語っていないものの高水準な基本書です。逆に実定法の内容や論点についての一般的な理解のない初学者がいきなり本書を読んでも読解は難しいと思われます。

 本書について特筆すべきは税法に内在する論理を抽象化し、その論理に基づいて統一的な説明を試みている点です。それは具体的には支配の移転すなわち譲渡を実現(課税のタイミング)として捉えるところや、徹底して純所得課税の視座から所得計算の仕組みを説明しようとする部分に表れています(公的年金等控除の分析など)。こうした視覚が規定の趣旨や体系を含めた統一的な税法理解に繋がっていきます。

 このため単に税法の規定を整理して並べただけの教科書・基本書類とは一線を画しており、読んでいて面白さを感じたり刺激を受ける部分が多々あります。租税法の捉え方についてのアハ体験というか、新たな視点を得られる部分はいくつもありました。

 

 難点は、前述の通り、きちんと書くと何十頁もの論文が書けるような論点を一行で匂わせて終わっていたりと、初学者にとっては消化不良になる(その意味では不親切な)部分が非常に多いことです。

 その点を踏まえるとゼロから租税法を学ぶ人が最初の基本書に据えるべき本というよりは、基礎的な事柄を詳しく書いた基本書がある上での副読本として、あるいは『租税判例百選』や『ケースブック租税法』で判例学習をする上で基礎理論を整理するためのコンパクトなリファレンスとして使用するのが適しているように思います。税法に関する個別の知識を抽象化して整理するのに有用な一冊です(余談ながら個人的には、「判例を通じた税法学習」という意味では圧倒的にケースブック租税法を支持します。百選も、結局は読まざるを得ないのですが、各事案を無理やり短くまとめているので非常に不親切というか…)。

 

 

 個別的な記述に関しては、何気に租税手続法の説明がとても簡潔かつ明瞭でわかりやすく整理されていたことに感銘を受けました。どうしても理解が漠然としがちなところなので、要点を抑えて短く説明してもらえると知識の整理が進みます。