租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

〔書籍〕『プログレッシブ税務会計論Ⅱ』

1.法人所得計算の勘所

  前回の『プログレッシブ税務会計論Ⅰ』に続いて、『プログレッシブ税務会計論Ⅱ』。

 

taxlawlabyrinth.hatenablog.com

 

(前著もそうでしたがこちらも第1版を買って読み切れないうちに第2版が出ておりました…。22条の改正がありましたからね。本当はこういうのは良くないですが以下、第1版の感想です)

 

  シリーズ前作は法人税法企業会計原則の関係ということで、税務会計の建付けの大枠を学ぶ上で税理士必読と感じましたが、この2作目はさらに必読でした。

 具体的な魅力は権利確定主義債務確定基準という益金・損金の認識時期の法理論について、丁寧な解釈論と学説の整理が学べる点です。

 これこそまさに税理士が日々の(税務調査対応まで見据えた上での)決算・申告業務において向き合っている問題なのですが、会計学の理論を踏まえて法的な議論を整理するのは容易ではありません。色々な事例ごとに考えはしますが、必ずしも体系的な理解とならず場当たり的な対応になってしまう部分もあります。

 その点本書では権利確定主義と管理支配基準・無条件請求権説の関係や、債務確定基準が22条3項の1号・3号にも及ぶのかといった論点について条文の解釈論の道案内を提供してくれます。

 通達を読んで文字通りに「物品の引き渡しのときは引き渡し基準、役務の提供のときは提供時に益金を計上するんだな」と暗記するよりも遥かにしっかりした裏付けを実務に与えることができます。

 

 余談。これはもう揚げ足取りにすぎませんが、法人税法22条3項2号は販売費および一般管理費について

前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額

 としていますが、債務確定基準の通達は

(債務の確定の判定)

2-2-12 法第22条第3項第2号《損金の額に算入される販売費等》の償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務が確定しているものとは、別に定めるものを除き、次に掲げる要件の全てに該当するものとする。(昭55年直法2-8「七」、平23年課法2-17「五」により改正)

(1) 当該事業年度終了の日までに当該費用に係る債務が成立していること。

(2) 当該事業年度終了の日までに当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること。

(3) 当該事業年度終了の日までにその金額を合理的に算定することができるものであること。

  としていて、「しない」「している」が裏返しになっています。存在しない法文を解釈しているというのではないかとみなさん気になりませんでしょうか。私は気になります(ただそれだけの報告です)。

 

2.酒井節が楽しめる損金各論

 22条の原則をじっくり学んだ後の後半は減価償却・寄附金・交際費という損金の重要項目について酒井先生らしい精緻な文理解釈が展開されます。

 寄附金に関する通達の批判などは結論も非常に面白いのですが何よりその過程の解釈論の展開の仕方がとても勉強になり、ここまでで税務会計の前提をおさえた上で各論について法的思考で解釈を行っていくお手本のようになっています。

 もっとも益金・損金の重要事項を網羅しているわけではなく、例えば益金の重要論点である受取配当等や損金側では役員給与などは入っていません。この点は『裁判例からみる法人税法』で補充するのがいいかな、と思います。