租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

合同会社の税務周りの話(2)

合同会社の税務周りの話(1)

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合同会社の税務周りの話(3)

合同会社の税務周りの話(4)

合同会社の税務周りの話(5)

 

 前回からの続きです。税理士事務所目線で合同会社の面白いところを書いています。

 

合同会社のポイント③ 株主総会に相当する機関がない

 合同会社の基本は出資者(社員)が同時に経営者であり、みんなで話し合って経営を行うのみです。したがって、株式会社でいう株主総会にあたる意思決定機関がそもそもありません。

 それ自体は「はぁ、そうですか」で終わる話なのですが、税務でまず問題になるのは法人税法74条です。同条は「確定した決算に基づき」確定申告書を提出する旨を定めており、ここでいう「確定した決算」とは実務的には株主総会での計算書類の承認という手続きが想定されているはずです。

 そうすると合同会社では何をもって「確定した決算」と言えばいいのか?という素朴な疑問が生じます。「確定した決算」に基づかないのであればナイーブな文理上は適法な法人税申告ではないことになってしまいます。

 これに関しては、合同会社の業務の決定(計算書類の作成・承認もこれに含まれる)は定款に別段の定めがある場合を除いて社員の過半数の決定で行われることから、過半数が計算書類を承認したことを示す何かしらの会議議事録を残すことが考えられます。太田先生は一人会社の場合につき次のように述べています。

 

この点については、法人税における役員給与との関係、社会保険事務所に提出する社員報酬の決定通知書の提出との関係などから、一定の記録を証拠として残すことが考えられる。様式は特にないため、決定した日時、決定した内容などを適宜まとめて、記名押印する対応が考えられる。(太田達也『〔改訂版〕合同会社の法務・税務と活用事例』127頁(税務研究会出版局2019)) 

 

  やはり「考えられる」と歯切れは悪いですが、一歩踏み込んでこの論点に言及するだけで限界と考えるべきでしょう。

 ちなみに別に「社員総会を開いてはいけない」わけではありませんので、定款で定めてそのような機関を設置することも可能です。

 このあたり合同会社「良く言えば柔軟、悪く言えば曖昧」な部分だと感じます。税務の目線から見たご都合主義なツッコミだと思われるかもしれませんが、税務を別にしても法的な安定性の見地から決算確定に関する何らかの会議体・記録は残すようにしたほうがいい気はします。利害関係者からの閲覧請求がありますので。

 

合同会社のポイント④ 法人も業務執行社員になれる

 これは素朴に新鮮だった点です。業務執行社員というのは株式会社で言えば取締役で、要するに実際に業務を執行する人です。株式会社では所有と経営が分離していますから出資者でなくても取締役になれますが、合同会社では出資者でなければ業務執行者になれません。ただし逆に言うと、業務執行社員でない社員、すなわち出資するだけの人を置くことはできます。

 会社法の入門書では「法人は観念上の存在だから実際に業務を行う機関が必要であり、それが取締役である」と説かれるところ、それが法人では入れ子構造なだけで意味がないではないかとも思うところです。結局、法人の業務執行社員は実際に職務を行う自然人(職務執行者)を定めなければなりません。

 税務的に重要なのは、自然人の業務執行社員であれ、法人の業務執行社員であれ、職務執行者であれ、いずれにせよ法人税法上は合同会社の役員であり、役員給与の損金不算入規制の適用を受ける点です。つまり定期同額給与か事前確定届出給与でなければ損金の額に算入できません(業績連動給与はケースとして考えにくい)。

 法人への支払いが「役員給与」にあたるというのは違和感がありますが、解釈上はそうなるようです。またその場合の源泉徴収義務や課税仕入れはどうなるのかという問題ですが、源泉徴収は不要で、課税仕入れになる(仕入税額控除可)と解されています(太田本159頁)。

 ちなみに法人業務執行者の職務執行者への支払いは合同会社から法人へ、法人から職務執行者へというケースが通常は想定されるようです。

 

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