小説で読むシリーズ待望の租税法編
木山泰嗣『小説で読む租税法―租税法の基本を学ぶロースクールの授業』(法学書院2020)
木山先生の著作は全体的に難しいことをわかりやすく解説した良書ばかりですが、その中でも「小説で読む」シリーズは特に思い入れがあります。『小説で読む民事訴訟法』はめちゃくちゃ神がかった本で、自分はこの本がなければ民事訴訟法の概要を掴むことは一生なかったのではないかと思っています。
税理士に民事訴訟法が必要なのか?と思われるかもしれませんが多くの税務訴訟は行政事件訴訟法が適用され、行政事件訴訟法は民事訴訟法を基礎にしています。したがって、民事訴訟法がわかっていないと判例研究で見る判決(裁判)がそもそも何をしているものなのか理解できません。というより、訴訟法を勉強してはじめて理解できてなかったことがわかったという感じでしょうか。
民事訴訟法の話はともかくとして、そのくらい自分を変えてくれた木山先生の『小説で読む』シリーズの待望の租税法編が出たということで喜んで真っ先に手に取った次第です。
「租税法頭」を作り学習を始めるための良ガイド
全体的な感想としては初学者が自分の頭の中に「租税法の思考回路」のようなものを構築して根付かせるための良質なガイドという印象です。
基本的にはロースクールの講義という形で文章が展開され、まさに司法試験の租税法を学ぶための入門書としてうってつけの内容となっています。
租税法を学ぶための書籍にも様々なものがありますが、学習法や心構えのようなものを身につけさせてくれるタイプの本は多くありません。その中で本書はロースクールの講義の体裁をとることによって学習上のポイントや注意点が自然とわかるように配慮されています。
具体的に言えば所得概念という原則論を重視した説明や、個々の規定を関連付ける視点です。このあたりは基本書の個々の箇所を読む独習だけでは身につけにくいのではないかと思います。本書を読んで「思考回路」を作ってから基本書を読んだ方が、無味乾燥とした租税法の規定に意味を見出しやすいのではないかと。
またいわゆるソクラテスメソッドによる双方向の講義の中で、学生からも活発に質問や疑問が発せられます。この辺を本書で疑似体験することで「なるほど、税法はそういうところに”ひっかかり”を持ちながら読むものか」という感覚が掴めてきます。「ここはさらっと掴める部分」と「ここは一目ではわかりづらいところ」の強弱のようなものがわかるので置いてきぼりにならずに済みますし、わかったつもりの思い込みも避けられます。
個人的に「講義録」「実況中継」みたいなスタイルの参考書が好きなのですが、本書は小説でありつつそのような側面もあるため同じような人にはオススメできます。
ちなみに本書から発展してより具体的に所得税法を勉強する際、本書の中では『教養としての「所得税法」入門』があげられていますが、私としては『弁護士が教える 分かりやすい「所得税法」の授業』もオススメです。これも神本中の神本だと思っています。