租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

iDeCoの税制優遇は出口が重要

拠出非課税の意味

 iDeCo(個人型確定拠出年金)の税制メリットとしては「拠出時非課税(所得控除)」が特に強調されます。金融機関や証券会社のウェブサイトで「所得控除でどのくらい節税メリットがあるか」をシミュレーションできるものもたくさんあります。

 また運用中の運用益も非課税です。普通の投資で20%の課税を受けて配当を受け取る場合に比べると資産形成面で有利です。

 しかし年金を受け取る時点のことを考えると、元本も運用益も合わせて収入金額として課税対象になります。例えば30年間で600万円積み立てて運用益が200万円出ていたら合計800万円が課税されます。ただの預金であれば元本を引き出しただけで課税されるわけがないのは当然ですからこの部分だけを見れば優遇どころが冷遇です。

 すると反面として拠出時の所得控除は果たして優遇なのか?むしろ当然なのではないか?という素朴な疑問が湧きます。

 つまり積み立てをしたときは所得から引かれて、引き出したときは所得に足されるわけですから、プラマイゼロということです。また運用益の部分も最後は課税対象の収入になりますから、運用益非課税というのは運用中の話であって非課税というよりは課税繰延といったほうが正確かもしれません*1

 

受け取り方の選択

 むしろ重要なのは「受け取り方」になってくるのではないでしょうか。

 iDeCoは60歳になったときに一括で受け取れば退職所得として退職所得控除を引いた2分の1が課税対象(分離課税)になり、年金として受給する場合には公的年金等控除を引いて雑所得として総合課税されます。

 例えば勤め先企業から多額の退職金が出るような人はタイミングによっては税負担が多くなるケースがあることが指摘されていますし、公的年金等控除も65歳までは60万円、65歳以上であっても110万円が最低額です。平均的な厚生年金をもらえる方は老齢基礎年金・老齢厚生年金だけで控除を使い切ると思われますから、そこにプラスされるiDeCoの受給額は丸々課税対象になりかねません。

 すなわち拠出から受け取りまでの期間を通算して見ればiDeCoの税制メリットは拠出非課税ではなくむしろ退職所得控除と公的年金等控除によってもたらされること、さらにそれらの控除が適切に働いて税負担を減少させてくれるかは人によるし成り行きでも大きく異なることが指摘できます。

 あとは現役年齢と老後の収入の違いによる税率差もメリットになるかもしれませんが、今の時代60歳でキレイにリタリアできるかも相当にケースバイケースなのではないかと思われます。若い頃より高収入な場合も少なくないでしょう。

 こうした意味でiDeCoの税制メリットとして「拠出時非課税」を強調するのはミスリーディングなのではないかと思っております。iDeCoを始めるときには「出口をどうするか」をまず考えなければなりませんし税制メリットもそこで決まります。そして得てしてそんな未来のことはなんとも言い難い上に一度始めてしまうと資金を引き出せないというのがこの制度の難しいところです。

 また退職所得課税と年金課税は常に税制改革の議論の渦中にあることも忘れてはならないでしょう*2

 

その点つみたてNISAは

 長期的な資産形成としてよくiDeCoと対比されるつみたてNISAは、投資をした時点での所得控除こそありませんが引き出すとき元本部分も運用益も非課税です。むしろ税制のメリットとしてはこちらの方が単純明快で不確実性が少ないのではないでしょうか。

 60歳まで資金が引き出せないということもありませんし、資産運用を始めるハードルとしてはつみたてNISAの方が低いかもしれません。

 

 

*1:もちろんこのあたりの話は、貨幣の時間的価値を云々することも可能ではあります。しかし現在の日本の金利では多くの方が実感しづらいことのように思われます。

*2:要するにもっと税負担を重くするべきではないかという意見が常にあります。