租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

「たま土地」の承認申請をやってみた

1.たま土地特例の趣旨

 昔から持っている土地をたまたま今年譲渡したことにより、消費税の計算上、土地代金の非課税売上で課税売上割合がガクっと下がってしまうことがあります。

 単発の土地譲渡以外は営業の実態に変わりがないのに低い課税売上割合で税額を計算しなければならないのはなんだか不合理だ……ということで、こうした場合には税務署長に承認を受けることにより過去の課税売上割合を使うことが通例として認められています。

 自分は税理士試験の勉強でこの論点について「たまたま土地を譲渡した場合の課税売上割合の特例」、略して「たま土地」と習いました。当然試験上はマイナー論点の扱いでしたが。

 先日まさに本社土地建物をたまたま譲渡し本特例を利用する機会が訪れたため「おぉ、これがたま土地か」と思いながら作業をしました。改めて法令の内容や手続きの経過についてまとめておきたいと思います。

 

2.根拠規定及び要件・効果

 根拠条文は消費税法30条3項となります。

3 前項第一号に掲げる場合(引用者注:個別対応方式で計算する場合)において、同号ロに掲げる金額(引用者注:共通仕入×課税売上割合の金額)の計算の基礎となる同号ロに規定する課税売上割合に準ずる割合(中略)で次に掲げる要件の全てに該当するものがあるときは、当該事業者の第二号に規定する承認を受けた日の属する課税期間以後の課税期間については、前項第一号の規定にかかわらず、同号ロに掲げる金額は、当該課税売上割合に代えて、当該割合を用いて計算した金額とする。ただし、当該割合を用いて計算することをやめようとする旨を記載した届出書を提出した日の属する課税期間以後の課税期間については、この限りでない。
一 当該割合が当該事業者の営む事業の種類又は当該事業に係る販売費、一般管理費その他の費用の種類に応じ合理的に算定されるものであること。
二 当該割合を用いて前項第一号ロに掲げる金額を計算することにつき、その納税地を所轄する税務署長の承認を受けたものであること。

 すなわち法令が定めている要件は①合理的に算定されるものであって②所轄税務署長の承認を受けているもの、ということです。「たまたま土地」云々は法令には登場せず、本規定を利用する典型的なパターンということで国税の質疑応答事例において確認されています。

【照会要旨】

 土地の譲渡は非課税とされており、その譲渡対価は消費税法第30条第6項《課税売上割合》に規定する課税売上割合(以下、単に「課税売上割合」という。)の計算上資産の譲渡等の対価に含まれますが、土地の譲渡に伴う課税仕入れの額はその譲渡金額に比し一般的に少額であることから、課税売上割合を適用して仕入れに係る消費税額を計算した場合には、事業の実態を反映しないことがあります。

 そこで、たまたま土地の譲渡対価の額があったことにより課税売上割合が減少する場合で、課税売上割合を適用して仕入れに係る消費税額を計算すると当該事業者の事業の実態を反映しないと認められるときは、課税売上割合に準ずる割合の承認を受けることができる取扱いはできないのでしょうか。

【回答要旨】

 土地の譲渡が単発のものであり、かつ、当該土地の譲渡がなかったとした場合には、事業の実態に変動がないと認められる場合に限り、次の①又は②の割合のいずれか低い割合により課税売上割合に準ずる割合の承認を与えることとして差し支えないこととします。

① 当該土地の譲渡があった課税期間の前3年に含まれる課税期間の通算課税売上割合(令533《通算課税売上割合の計算方法》に規定する計算方法により計算した割合をいう。)

② 当該土地の譲渡があった課税期間の前課税期間の課税売上割合

 

たまたま土地の譲渡があった場合の課税売上割合に準ずる割合の承認

 また、「土地の譲渡がなかったとした場合に、事業の実態に変動がないと認められる場合とは、事業者の営業の実態に変動がなく、かつ、過去3年間で最も高い課税売上割合と最も低い課税売上割合の差が5%以内である場合とします」という注意書きが付されています。

 この辺は「なんで質疑応答でそんなことを形式的に定めるんだ?」という疑問はあれど、とりあえず国税はそのような解釈で動いているということです。

 国税の記述から「たま土地」を使う要件をまとめると以下の4つになります。

  1. 土地の譲渡が単発のものである。
  2. 事業者の営業の実態に変動がない。
  3. 過去3年間で最も高い課税売上割合と最も低い課税売上割合の差が5%以内である。
  4. 適用を受けたい課税期間の末日までに所轄税務署長の承認を受ける。

 特に3つめの要件については落とし穴となりやすいので注意が必要かと思います。顧問先で帳簿を見ていてたまたま土地の譲渡があったからといって勢いで「準ずる割合が使えますね」などと言ってしまって、よく確認したらこの要件に抵触していたなどはあり得そうな事態です*1

 また4つめの要件「課税期間の末日までに承認を受ける」についても注意が必要です。まず消費税の届出関係にありがちなこととして、決算期末の後で申告書を作っているときに気が付いてももう遅いです。ただし、かつては文字通り末日までに承認を受けないといけなかったものが、令和3年度税制改正課税期間の末日までに承認申請書を提出し、以後1月内に承認が下りた場合、承認申請書を提出した日の属する課税期間から適用することとされました(消費税法施行令47条6項)。

 とりあえず期末までにこちらがやれることをやればいいということで納税者サイドとしては有り難い改正(というか元々そうあるべき?)ですが、なんとなく不安になりそうなので期末を待たずに早めに承認申請を行うに越したことはないでしょう。

 承認を受けると次の効果が生じます。

  1. 承認を受けた日の属する課税期間から適用される。
  2. 個別対応方式を前提としているため個別対応方式でしか適用できない(消法30③)。※一括比例配分方式で「準ずる割合」で計算することはできない
  3. 過去3年通算又は前年の、いずれか低い課税売上割合を用いる。
  4. (翌年に不適用届を出す)※単発の譲渡の前提であるため

 気を付ける点としては3つめの過去3年の通算課税売上割合を出すときの計算を正確に行うことでしょうか。計算方法としては消費税法施行令53条3項に従ってくれとのことです(調整対象固定資産の規定)。

 

3.実際にやってみた顛末

 筆者が実際に扱った事例では、課税期間の末日まで4ヶ月の余裕がある状態で、e-Taxにより「消費税課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書」を提出しました。

 そうしたところ5日後に所轄税務署より電話で問い合わせがあり、下記4点の質問・確認をされました。

  1. 事業内容はどんなものか。
  2. 売上の相手先に変わりはないか。
  3. 当該法人に支店はないか。
  4. (事業内容に全く変わりはなくたまたま本社の移転による売却であることを説明したところ)土地譲渡の事実を確認するために売買契約書を送ってほしい。

 いずれも本当に事業内容に変動がないかを確認し、申請の内容を確かなものとする趣旨なのでしょう。税務署長の審査については消令47②に規定があり「遅滞なく、これを審査し」承認又は合理的でない場合には却下するとされています*2

 そして上記の電話確認より2週間後に承認の通知が届きました。会社(顧問先)に書面で届きます(消令47④)。

 あくまでひとつの事例ですが、申請書提出から20日後には承認の通知が届いたため、このくらいのスケジュール感だと納税者サイドとしては安心感があるかなという印象です。

 

*1:繰り返しますがあくまで国税が質疑応答事例において示している基準であって法令(消法30③)に規定されているわけではありませんので、5%超の変動があっても訴訟覚悟で承認申請を行うという道もなくはないわけですが。いずれにせよその旨の認識は必要でしょう。

*2:余談ながら、こちらに電話が来たからには施行令にいう「審査」には税理士への電話質問も含まれるということなのですね。「調査」ではなく「審査」には提出された書類をただチェックするような語感的イメージを持っておりましたが、そうではなかったようです。国税通則法74条の2(質問検査権)は「"調査"について必要があるときは」帳簿書類等の提示・提出を求めることができるとしていますが、「審査」にもそれは当然に認められているのでしょうか。税法において「調査」「検査」「審査」の語がそれぞれどのような意味で使い分けられているのか少し気になります。税法以前の行政法総論なのかもしれません。……ちなみになんでこんなことが気になったかというと、「売買契約書ならすぐにFAXできますよ」と言ったらFAXではなく郵送してくれと言われたからなのです。一応切手代・封筒代かかるのに(笑)なんの権限にもとづいて要求しているのだろうと、素朴に。