租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

税務署に立証責任がある、というけれど

1.税務署に立証させればいいという説

SNSのビジネス系のアカウントが「課税の立証責任は税務署にあるのだから、税務調査で経費を否認されそうになっても"では税務署が私的経費であることの証明をしてください"と言えばいいだけ」などと言うのを目にします。

結論から言うとこれは「立証責任」の詳しい意味を理解していないミスリーディングなコメントで、実際にはそんなに簡単な話ではないと考えるのでこの点について少し整理をしてみます。

先に内容をまとめると「税務署に立証責任があるというのは税務署が経費でないことを示す物的証拠を出さない限り経費として認められるといった意味ではなく、経費性が怪しい支出に関して納税者が具体的に説明できないとかでも普通に否認されるよ」という話です。

2.立証責任という専門用語の意味

まず考えるべきは「立証責任」という言葉の意味です。

日常の言い方としては「証拠を出して立証(という行為)をしなければならない責任」のように聞こえますが、法律の用語の立証責任とはそういうものではありません。

裁判は双方が主張をして言い分を並べ、裁判官は自由心証主義(これも誤解を生みそうな用語なのですが)によって心証を形成し、例えば飲食店の領収書が実際に仕事相手と行ったものなのか、家族と行ったプライベートなものなのか、について判断します。

しかし双方の言い分を聞いても「どっちなのかわからない」という状態に陥ることがあり得ます。これを真偽不明、ノン・リケットといいますが、この場合でも「わかりませんでした」という判決を書くわけにはいかず、どちらかを負けさせる必要があります。このときに負けさせられることを「立証責任がある」といいます。直感的ではない用語法ですね*1

税務訴訟において所得の存否に関して被告の国(税務署)側に立証責任があるという理解は判例・通説といってよいと思いますが(最高裁昭和38年3月3日)、この「立証責任は税務署にある」というのはあくまでも双方の言い分が出尽くしてなお裁判官がどちらか決めかねたときには税務署が負けるという意味にすぎません。

3.必要経費に関する具体的な裁判例

では、それがなんなのか、最近の具体的な裁判例で考えてみます。

大阪地裁平成29年9月7日(大阪高裁平成30年5月18日でも維持)は、不動産所得の必要経費について、原則として課税庁に主張立証責任があるとしながらも、次のように述べています。

「しかし、必要経費は、所得算定の減算要素であって納税者に有利な事柄である上、納税者の支配領域内の出来事であるから、必要経費該当性(支出の存在及び数額並びに業務との合理的関連性及び業務遂行上の必要性)の主張立証は、通常、納税者たる原告の方が被告よりもはるかに容易である。したがって、必要経費該当性につき争いのある支出については、原告において、当該支出の具体的内容を明らかにし、その必要経費該当性について相応の立証をする必要があるというべきであり、原告がこれを行わない場合には、当該支出が必要経費に該当しないことが事実上推認されるというべきである」

つまり、必要経費の実態がどうかは納税者の方がはるかによくわかっているのだから、税務署から求められてその説明ができないってことは、経費じゃないのだろうと判断するよ、ということですね。

立証責任は「どうしても判断できないときは税務署が負ける」という議論ですが、その議論を持ち出すまでもなく状況から「経費ではないだろう」と判断できてしまうということです。

4.まとめ

繰り返しますが「立証責任は税務署にある」というのは、例えば飲食代について税務署が監視カメラや目撃証言などから取引先ではなく家族と行っていたことを証明する義務があるという意味ではなく、双方の言い分から裁判官がどうしても真偽を判断できなかったときには税務署が負けるという意味に留まります。

そして裁判官の判断においては、税務署から説明を求められて納税者が答えなかったらそれは必要経費じゃないのだろうという推認が働きます。税務署が物的証拠を出さなければ判断できないという仕組みではありません。

この意味において、税務調査で経費について突っ込まれて「税務署に立証させればいいだけ」というのは適切ではありません。

必要経費であることが疑わしいような支出について具体的な説明や根拠が示せなければ「税務署が経費でないと証明してくださいよ?」とイキっていたとしても、裁判では普通に負けるということですね。

当然ながらこれは逆に「全ての支出についてひとつひとつ内容や正当性を完璧に説明できなければ直ちに経費が否認される」ということでもありません。

上記の事例は内容の怪しい支出が多く納税者の答弁も二転三転しているような事例で、裁判官はその全体から判断をしているものと思われます。

そう思うと、別に税務署に迎合しろというわけではありませんが、「あんたらが証明してよ」などという挑発的な態度がどのように扱われるかは自身の損得としてもよく考えるべきというところかと思います。

 

*1:「権利の発生、障害、消滅、阻止の各法律効果の発生が認められるためには、その要件事実が欠けることなく存在する必要があります。訴訟においてその存在が争われるときは、証拠によってこれを立証しなければならず、この立証ができなかったときは、当該法律効果の発生は認められないことになります。このように、訴訟上、ある要件事実の存在が真偽不明に終わったために当該法律効果の発生が認められないという一方の当事者の受ける訴訟上の不利益又は危険を立証責任と呼びます(司法研修所『改訂新問題研究要件事実』7頁)」

必要経費の要件と直接性

東京税理士会マルチメディア研修、北井税理士による「所得税の必要経費関係」を視聴。

確定申告期間中に研修を受けている場合かという感じなのですがお客様から様々な領収書が雑然と送られてくることに対して「どこまで経費にしたらいいのか」のもやもやを昇華する頭の整理として見てみました。

恥ずかしながら弁護士会役員の事件(平成24年9月19日)の意義や射程を理解していなかったので勉強になりました。この事案は必要経費の意義をゆるく解していてどちらかといえば事例判決と評価されているのですね。

また、自分のこれまでの疑問が少し腹落ちしたのは、「直接」必要という判例・学説の理論について。

所得税法37条は必要経費について「所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする」としていて、後段のいわゆる業務関連費について文理上「直接」性を要求していません。それなのに裁判例を見ると直接必要が要件かのように言われていて、租税法律主義においてそれが大きく問題視されていないのは何故なのかと前々から疑問で気持ちが悪く感じていました。

この点、北井税理士はまず業務関連性・業務必要性・明確区分性を必要経費の要件としたうえで、直接性はこれらの要件の該当性を判断する上での重要な要素ではあると整理されています。

なるほど関連性や必要性というのはある程度売上との遠近や濃淡が考えられるところ、ほんの少しだけ関連があれば必要経費と言っていいのか、その「距離」をどこかで区切る必要があります。その距離の尺度として「直接(直に接するほど近いか否か)」というものを持ち出しているというのは話としては理解できるところです。

なら裁判もそういう言い方してくれよという話ではあるのですが、ここでは裁判の内在的な論理の理解ではなく、条文・裁判のユーザーなりのひとつの理解の仕方として言っています。

「必要経費は業務に関連していて必要なもので、その関連性とかっていうのは”直接”関連していると表現できるくらいのものが求められるのが実情なんですよね」というのは表現としてお客様にも説明しやすいですし、上記のように考えれば法律論(及び裁判実務)としても嘘がないので自分の中でもやもやせずに済みます。

ちなみに酒井克彦『所得税法の論点研究』(財形詳報社2011)は「必要経費算入要件は直接的業務関連性と必要性であると考える」(354頁)として必要性には直接性は求められない一方で業務関連性には直接性が求められると整理しています。「専ら業務遂行に必要な費用」とか「やむを得ず支出した費用」というようなことを言う判決が存在することについては直接的な業務関連性が必要であることを説明するためにそのような言葉が用いられているという考察もなされています(333頁)。

末締め翌月払い給与の会計処理

 

会計事務所の日頃行う仕訳処理で地味に最も煩わしいもののひとつが給与に関するものだと思います。

面倒な要因は(1)控除項目があって諸口の仕訳にしなければならないこと(2)未払い計上が必要になる場合があることに整理できるでしょう。今回の記事では未払になる場合を前提に会計処理を検討します。

例えば給与の締めが「末締め翌月15日払い」のように締めの月と支払いの月がズレる場合、発生主義会計の考えからすると締め月に給与を未払計上しなければなりません。

このとき、現実にどのように仕訳を打てばいいのか、案外悩むことになります。

本記事では簡易的なものから順に(1)現金主義法(2)預り金擬制法(3)正攻法の3種類の処理を考えていきます(呼び方は本記事独自の勝手なものです)。

オマケで社会保険料、労働保険料の会計処理についても考えます。

 

1.方法(1)現金主義法

まずひとつの割り切りとしては、発生主義を放棄して支給日ベースで計上する方法が考えられます。会計を大事にする人はびっくりする方法かもしれませんが、こうすると物事はかなり単純になります。事務負担上のメリットは大きいです。

また、継続処理していけば12回給与が入るのは変わらないため、数名程度の小規模企業においては発生主義で処理する場合との差異も微々たるものだったりします。

経理力の低い会社で、未払い計上はよくわからないけど支給日で処理だったら自計化できるといった場合もあると思われ、会社によってはあり得る割り切りのひとつだと自分は考えています*1

 

【設例】

末締め翌15日払い。

4月1日~4月30日分の給与を、5月15日に支払った。

 

4月30日

仕訳なし

(現実には、4月15日に支給ベースでの3月分給与が計上される)

 

5月15日(4月分給与を支給ベースで計上)

科目 金額 科目 金額
給料手当 100 普通預金 80
    預り金(社会保険) 15
    預り金(所得税) 2
    預り金(住民税) 3

 

また、このやり方でも期末に最後1ヶ月分の給与を未払金で計上する伝票を一枚入れれば年間では完全に正しい発生主義の決算書になりますので、それもアリだと思います(いわゆる"期中現金主義"。ただ個人的にはそのようにすると月次推移表が崩れて概況書裏面の人件費の欄などが埋めづらくなるのであまり好みではありません)。

 

2.方法(2)預り金擬制法

次に、現金主義ではなく正しく未払い計上しようと考えたときに、社会保険料や源泉所得税の預り金をどう処理するかという問題があります。

本来社会保険料や源泉税を天引きするのは給与を実際に支給するときですが、各人への支給にあわせていちいち仕訳を直して預り金を計上していくのは面倒です。そこで、締め月の末日の給与未払い計上の段階で預り金を計上してしまうことが考えられます。

 

【設例】

末締め翌15日払い。

4月1日~4月30日分の給与を、5月15日に支払った。

 

4月30日

科目 金額 科目 金額
給料手当 100 未払金 80
    預り金(社会保険) 15
    預り金(所得税) 2
    預り金(住民税) 3

 

5月15日

科目 金額 科目 金額
未払金 80 普通預金 80

 

こうすると支払い時は単に普通預金の減少を未払金で仕訳していけばいいので簡単です。預金の明細上支給が何行にも渡って分かれていても問題ありません(預金自動取込の現代的な会計実務に合っています)。私もこのように処理している会社がいくつかあります。

この方法の難点は総勘定元帳の見た目です。例えば預り金源泉税の元帳を見たときに4月30日で貸方発生が計上されますが、これは実際には5月15日の支給時に天引きするものですので、納付は6月10日になります。そうすると元帳の見た目では「え、4月に発生した源泉税が5月10日までに納付されてないじゃん…」となってしまいます。消込をするときに2ヶ月遅れでの対応関係としなければいけないわけです。

決算のときには(別途科目の振り替えをしない限り)源泉預り金が2ヶ月分残ってしまいます。

きちんとそれがわかっていれば問題はないといえばないのですが*2、源泉税の納付の処理やチェックをするときなどに少しわかりにくくなるのは事実です。

現実問題としてこの処理がどの程度認められるものなのかわかりませんが、この処理を説明しているネット上のソースがいくつかあります。リンクを挙げさせていただきます。

 

https://satoscpa.com/column/kyuyo

https://standardtax.jp/topics/salary/

https://freeway-keiri.com/blog/view/793

https://www.zeiri4.com/c_1032/q_4254/

https://zei-komon.com/?p=8796

 

3.方法(3)正攻法

最後に、理屈としては一番正確と考えられる、未払い計上時点ではあくまでも総額を未払金としておいて、支給時に未払金を振り替えて預り金を計上する方式です。

 

【設例】

末締め翌15日払い。

4月1日~4月30日分の給与を、5月15日に支払った。

 

4月30日

科目 金額 科目 金額
給料手当 100 未払金 100

 

5月15日

科目 金額 科目 金額
未払金 100 普通預金 80
    預り金(社会保険) 15
    預り金(所得税) 2
    預り金(住民税) 3

 

この方法は理論的には完全に正しいと思われますが、支払い時に預り金を立てていく処理が正確にできてはじめて「ちゃんと出来上がった」と思えるので、実務の感覚として「時間がかかり」ますし、給与を総合振込でまとめて支払っておらず個別の振り込みでぱらぱら支払っているような場合には預金を取引ごとに取り込む実務とは非常に相性が悪いという難点があります(従業員一人ひとりに対して預り金を計上していくのか?という)。

手間を削減する策として、支給時の仕訳を預り金の計上部分と差引支給額の部分に分けて考え、預り金の計上部分だけを会社の合計額で振替伝票に起こす手があります。

預り金計上部分だけ先に入力しておけばあとは差引支給額を未払金にする処理だけで未払金残高が消えるので、インターネットバンキング取り込みを前提とした現代の実務にも調和するものと思います*3

 

5月15日(給与控除項目計上のためだけの振替伝票)

科目 金額 科目 金額
未払金 20 預り金(社会保険) 15
    預り金(所得税) 2
    預り金(住民税) 3

5月15日(従業員への差引支給額支払い時の仕訳)

科目 金額 科目 金額
未払金 80 普通預金 80

 

あるいは、未払金は会社全体で一気に支払ったかのように擬制し、「給与仮勘定」のような差引支給額の突合専用の科目を作るのも、私見としてはアリだと思います。結局未払金と意味は同じで二度手間のようでもありますが未払金がさっさと消えるので精神的にストレスがないと言いますか、頭を整理できると言いますか。

 

5月15日(給与振込擬制のための振替伝票)

科目 金額 科目 金額
未払金 100 給与仮勘定 80
    預り金(社会保険) 15
    預り金(所得税) 2
    預り金(住民税) 3

5月15日(従業員への差引支給額支払い時の仕訳)

科目 金額 科目 金額
給与仮勘定 80 普通預金 80

 

4.社会保険料

給与とあわせて処理することになる、これもまた地味にややこしい社会保険料(法定福利費)の処理についても考えます。

漠然と納付分を法定福利費にしていくと月ズレが生じやすく、(3)の正攻法の仕訳に組み合わせて正しい処理を考えるのであれば次のようになります。

給与の未払い計上に平仄をあわせて4月分の社会保険料会社負担分を未払計上して、翌月に預かり分とあわせて納付する処理です。

 

【設例】

末締め翌15日払い。

4月1日~4月30日分の給与を、5月15日に支払った。

4月分の社会保険料の会社負担分は16で、従業員負担分15とあわせた31を5月31日に納付した。

 

4月30日

科目 金額 科目 金額
給料手当 100 未払金 100
法定福利費 16 未払金 16

 

5月15日

科目 金額 科目 金額
未払金 100 普通預金 80
    預り金(社会保険) 15
    預り金(所得税) 2
    預り金(住民税) 3

 

5月31日

科目 金額 科目 金額
預り金 15 普通預金 31
未払金 16    

 

このときに悩ましいのは、(設例で言えば16の)未払い計上するための会社負担額の根拠資料である社会保険料の納入告知書が翌月後半にならないと届かない点です。

5営業日で締めるなど早期の月次決算を目指している場合には資料ベースの計上ではなく概算というか理論的な値で見積もり計上するような形になります。

もし未払金がきれいに消えなければ遡って発生を直すか差額分は翌月以降のPLで調整すると割り切る覚悟が必要かもしれません。

未払計上を嫌って納付時に法定福利費で会社負担分を費用計上すると、期間対応としては月ズレになります*4

ちなみに、個人的には「社会保険料を預かったときも納付したときも法定福利費で処理してそれで終わり」というゴリ押しタイプの仕訳も、最低限の税務申告のために簡単に処理を済ませたい小規模事業者の割り切りとしてはアリだと思っています。

 

5.労働保険料

最後に労働保険料についてもごく簡単に。

労働保険は概算納付と確定精算という2段階の納付であること、計算期間が必ず4月1日~3月31日であり法人の事業年度と合わない場合があること、などまず制度的なややこしさがあります。

法人税的には概算保険料については事業主負担分は申告書提出日の属する事業年度(または納付事業年度)の損金とし、確定の過不足は申告書提出日の属する事業年度の損金(益金)にする、とされています(法基通9-3-3。被保険者負担分は立替金にする)。

正直言いますが従業員との負担の分担や会計的な期間対応まで考えるとかなり面倒になります。そのわりに厳密にする効果(金額的インパクト)は乏しく、上場企業でもない限り精密に処理する意味は薄いと考えます。

個人的にはこれまで労働保険料の処理について税務調査で注目されたことも一度たりともなく、結局会社の差引支払額が損金になってれば文句ないでしょという実務感覚があります。

なので、

(A)支払いを法定福利費、差し引きの雇用保険も法定福利費にする

か、それで月次推移表が汚れる(納付月だけ法定福利費が大きくなって営業利益が下がる)のが嫌なら

(B)事業主負担額を推計して毎月未払金計上、労働保険料の納付と預かりは前払費用・預り金にしておいて、決算で未払金・前払費用・預り金の全てを法定福利費に振り替え、結果的に当期の純支払額が法定福利費になるようにする

のAかBどちらかでいいのではないかと考えます。

Aは説明不要なので、Bの仕訳を書いてみます。

 

【設例】

4月~3月の毎月の給与は1,000。各月、労働保険料の事業主負担分として12を見積もり計上した。

 

4月30日、5月31日、6月30日・・・計12回、年間144

科目 金額 科目 金額
法定福利費 12 未払金 12

※ただの見積額で、確定債務ではない

 

毎月の給与から6の雇用保険被保険者負担分を天引きした。

 

4月30日、5月31日、6月30日・・・計12回、年間72

科目 金額 科目 金額
給料手当 1,000 普通預金 794
    預り金(社会保険) 150
    預り金(雇用保険) 6
    預り金(所得税) 20
    預り金(住民税) 30

 

7月10日に概算保険料と確定精算分合わせて220を納付した。

 

7月10日

科目 金額 科目 金額
前払金 220 普通預金 220

 

上記の状況の中、決算を迎えた。

 

決算

科目 金額 科目 金額
未払金 144 法定福利費 144
法定福利費 220 前払金 220
預り金 72 法定福利費 72

 

決算の仕訳は上から順に期中見積もり計上分の洗い替え、納付時点で前払いに留めていた金額の費用化、預かった金額の費用からの控除です。

結果的にその事業年度に納付した金額から預かった金額を控除した純支払額が費用(損金)処理されるので、納付と天引きを現金主義で処理した場合と同じ結果になります。

これはなんら理論的に正確な処理ではありませんが、実務上の便宜と発生主義的な月次試算表の見栄えを考え、適度な落としどころなのではないかと思います。

繰り返しますが、個人的には「社会保険料も労働保険料も、預かったときも納付したときも法定福利費で処理してそれで終わり」という仕訳もアリだと思っています。売上高数千万のファミリービジネスが上記の社会保険料・労働保険料を厳密に処理するのに比べると実務的なメリットは大きいです。

 

 

*1:規模の拡大やおおがかりな資金調達を考えず税務申告のためだけに低コストで決算を行いたい小規模ファミリービジネスがこの「割り切り」の対象だと思います。

*2:仕訳によって法的な効力が発生するわけではなくただの表現ですので、当然ながらこれによって源泉税の納付漏れと認定されることはあり得ません。あくまでも会計の勘定科目の見かけ上の預り金なのであって実質は未払金であると認識できていればいいだけの話です。

*3:このTIPSはXで小林雄気先生(@zeimu_nagoya)よりご教授いただきました。

*4:なお、法基通9-3-2「法人が納付する次に掲げる保険料等の額のうち当該法人が負担すべき部分の金額は、当該保険料等の額の計算の対象となった月の末日の属する事業年度の損金の額に算入することができる」。

支給決議から相当期間が経過した後に支払う役員退職金の損金算入

役員退職金の損金算入時期については「原則は株主総会決議日の属する事業年度。ただし支払った事業年度に損金にしてもいい」というのが実務の基本認識かと思います。
これは法人税基本通達にも明確に示されています。

(役員に対する退職給与の損金算入の時期)

9-2-28 退職した役員に対する退職給与の額の損金算入の時期は、株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度とする。ただし、法人がその退職給与の額を支払った日の属する事業年度においてその支払った額につき損金経理をした場合には、これを認める。

実定法上の根拠は必ずしも定かではありませんが、少なくとも明確な別段の定めがあるわけではないので、22条の債務確定基準や公正処理基準をベースとして考えることとなるのでしょう。支払日でもいいというのは、損金計上が後ろ倒しになる分には国税としては追及する必要がないという理由と想像します。決議時点で未払い計上しておらず支払ベースで損金に算入するケースはしばしばあるでしょう。

では例えば退職時に株主総会で退職金の決議はしたものの会社の資金繰りが悪く、4年後など長い期間を経過してから支給する場合はどうでしょうか。そのときも未払計上がない支払ベースの損金算入が認められるのでしょうか。

税経通信2021年10月号44頁には支給決議から3年後の一括支給について以下のように書かれています。

役員退職金については,支給した事業年度においても損金に算入できることから,退職後相当期間経過後に支給することも考えられるが,この取扱いが無条件に認められると利益調整と認定される可能性がある。

 資金繰りを理由に,支給が遅れることはあるが,相続税法においては相続税法3条において「被相続人の死亡により相続人その他の者が当該被相続人に支給されるべきであった退職手当金,功労金その他これらに準ずる給与で被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものの支給を受けた場合においては,当該給与の支給を受けた者について,当該給与」は,相続財産とみなされる退職手当金とされていることから,期間としては3年程度が限度として認められると考えられるが,それ以上の期間経過後の退職金の支給は支給することの理由が希薄であるとして否認される可能性がある。

なるほど相続税法の死亡退職金の定義から類推してリスクがあるという議論のようです。似た趣旨の記事はネット上でもいくつか見かけました。

たしかに「後から退職金」を無制限に認めると、利益が出ている事業年度に支給をすることで結果的に利益操作を許してしまう懸念があります。場合によっては、当初支給する気がなかったのに後から思いついて後付けで支給することもあるかもしれません。

しかし相続税については条文に規定があるので当然そのように扱うのはわかるとして、法人税の関係法規において3年超の退職金を認めないという規定はありません。

この点、理論構成としてあり得るとすれば、退職から何年も後に支給される金銭はもはや「退職給与」とは言えないという事実認定のレベルの否認でしょう。一旦「退職給与」であると認めてしまえば法人税にはその支給が遅くなったからといって損金算入を否認する条文はないのですから、前提で否定するしかないように思われます*1。そしてその事実認定の参考として相続税では3年超の支給は退職手当に含まれていないという扱いを参照するのでしょう。

しかし、死亡退職金については事柄の性質上どうしても(社内規程に従う場合でも)退職金の具体的な決議が退職の後になること、それを想定して3年以内という縛りが立法されていることを考えると、存命の退任の場合の退職金決議とはやや性質が異なりますし、だからこそ相続税法にだけわざわざ規定がある、と考えるのが適切なように思われます。

「死亡退職金が死後に決まるものなのはしょうがないけど5年も10年も経った後に決められたものを死亡退職金と言われても困るので区切りますね」というのは相続税の趣旨からすれば理解できるところです。逆に言えば「時間が経ったからもはや退職金じゃなくない?」という感覚だけでは否認できないからこそ創設的に条文を設けていると解するのが相当ではないでしょうか。

すなわち、「相続税で否認規定があるから法人税にも適用されるだろう」と類推適用的に考えるのではなくむしろ相続税が独特だからこそ相続税でだけ条文が作られている。したがって法人税には関係ない」と反対解釈的に捉えるのが正解であるように思われます。

またそもそも、相続税法で言っているのは「死亡後3年以内に支給した」ものではなく「死亡後3年以内に支給が確定した」ものであることです。すなわち金額の確定が3年以内であればよく、実際の支給の時期は問われていません。

ですので本記事で問題にしている「退職時に決議はしていて、実際に支給するのが資金繰りの都合で遅くなった」事案については相続税でも死亡退職金として取り扱われます。そうである以上、もし仮に「相続税で退職手当該当性が否定されるものは法人税でも危ない」という理論構成を採用するとしても、結果は変わらないというべきではないでしょうか。

もっとも退職時に決議をしていたこと(議事録をバックデートで作っていないこと)は事実のレベルとして立証しなくてはならないので、そこには何かしら対応は必要でしょうし、税務調査で議論になることはあり得るかもしれません。ただし理論のレベルとしては上記のような話であるように思われます。

 

まとめると、

  1. 役員退職金は、退職時に株主総会等で金額が具体的に確定していれば、支給が数年後になったとしても、法人税法上ただちに損金算入を否認する根拠はない。
  2. 相続税法における「死亡後3年以内に支給が確定した退職手当金」という規定は、相続税及び死亡退職金の特殊性を踏まえたものであり、法人税にそのまま類推適用すべきものとは考えにくい。
  3. 仮に相続税法の考え方を参照するとしても、問題となるのは「支給時期」ではなく「支給の確定時期」であり、退職時に決議がなされていれば退職金扱いされるという結論は変わらない。
  4. もっとも、退職時に実際に決議が行われていたことについては事実関係として立証できる状態にしておく必要がある。

 

この手の「実はこういうリスクがある」という話は”詳しい人なら知っているディープな情報”的に広がりやすいですし、「可能性はある」と言われると否定するのは難しく真面目な人であるほど保守的に処理したくなるので、保守的な取り扱いが実務において既成事実化するのも懸念されます。安全をとろうとするあまり納税者・税理士側が自分で自分の首を絞めていくような展開は避けたいところです*2

*1:あるいは逆に、もっと早く未払で損金に入れるべきだったものだから支払った事業年度の損金ではないという方向の議論はあり得るかもしれませんが。

*2:最近だと合同会社や有限会社で役員の任期の定めがない場合には事前確定届出給与が使えないという話も、やや形式的な解釈が一人歩きしている感を覚えます。

納税充当金の概算と実額と別表記載(2)

前回からの続き。

 

taxlawlabyrinth.hatenablog.com

 

2.未払法人税を概算で計上する場合(過少計上)

未払計上が過小な場合、別表5(2)の「納税充当金取崩による納付(③)」の欄に未払法人税の取り崩し額を入れていっても(引当が足りないのだから)期首の未納税額がゼロになりません。きちんと納付したことを示すためにはどこかの税目で「損金経理による納付(⑤)」に入れる必要があります。

ここで、納税充当金をどの税目にいくら割り当てるのかが一見不明ですが、どこに割り当てても結果は変わらないというのが結論になります(前回の記事で見た両建ての考え方、納税充当金をただの「勝手に計上した引当金」とする捉え方からは、そうでないとおかしいのが直感的にわかると思います)。

法人税や県市民税を損金経理したとすればその分が加算調整されます。一方で、事業税は納税充当金から支出したものと扱われるので、別表4で減算調整されます。

逆に事業税を損金経理したとすれば法人税の加算調整はありませんが減算調整もないので、上の場合で加算調整+減算調整するのと結果は同じになります(納税充当金から支出した事業税を減算調整するのはあくまでも事業税を支払っているのに損金経理していないから減算するのであって、損金経理しているのであれば減算不要なことに注意)。

実額1,400に対して納税充当金が1,200だった場合の納付時の仕訳を両建てで書いてみましょう。

数字の前提は前回の記事によります。

 

(相殺表示した場合の仕訳)

未払法人税等 1,200 / 預金 1,400

法人税等 200

 

(両建て表示した場合の仕訳)

未払法人税等 1,200 / 納税充当金取崩益 1,200

法人税・地方法人税 1,000 / 預金 1,400

法人県民税 30

法人市民税 70

法人事業税 300

 

概算計上した未払法人税のうち何円が法人税の分、何円が事業税の分…といちいち考える必要はなく、課税所得は計算できますし、理論的に考えても納税充当金は納税充当金、実際の納付額は実際の納付額、と考えた方が混乱がないように思われます。

別表を書くうえでは税目ごとに充当金取り崩しによる納付がいくらかなのかを別表5(2)に書く必要はありますが、上記のとおりどの税目だとしても結果は同じになります。

 

まず、法人税が引当不足だったとした場合の別表4、別表5(2)を載せてみます。

この場合法人税損金経理しているので加算調整が必要で、事業税は納税充当金から払っているので減算するという形になります。

 

 

 

次に事業税が引当不足だったとした場合の別表4、別表5(2)です。

この場合、法人税は納税充当金から払っていて損金経理していないので加算調整は不要で、事業税を損金経理しているので上記に比べて「納税充当金支出事業税」が減ることになります。

課税所得はどちらも同じ△2,900です。

 

 

3.未払法人税を概算で計上する場合(過大計上)

次に、概算計上した未払法人税が実際の納付額より多かった場合を考えます。

ちなみに何故かこのケースの明確な説明がネットでも書籍でも見つけられなかったのが本記事執筆の動機です。

仕訳の考え方はこれまでと同様です。納税充当金は勝手な見積もり費用と捉え、計上時に加算留保、取崩時に減算留保で解消します。納付する税金は内容に応じて加算調整します。

例として実額1,400円の納税に対して納税充当金が1,600だった場合を考えます。

この場合引当計上した負債が実際の支払額以上に消えるので、簿記の仕組み上、収益を計上しなければなりません。納付時の考え方を仕訳で表すと以下の通りです(この前期末に未払法人税1,600を計上しているという前提があります)。

 

(相殺表示した場合の仕訳)

未払法人税等 1,600 / 預金 1,400

           / 納税充当金取崩益 200

 

(両建て表示した場合の仕訳)

未払法人税等 1,600 / 納税充当金取崩益 1,600

法人税・地方法人税 1,000 / 預金 1,400

法人県民税 30

法人市民税 70

法人事業税 300

 

ここでも結局、納税充当金の部分では課税所得への影響は(発生時と解消時で)プラマイゼロ、そして事業税以外の納付を加算調整するので所得計算は何ら問題ありません。
やはり概算計上した未払法人税の内訳を考えるようなことをせず両建て考えたほうがわかりやすいということが言えると思います。

さて、ここでちょっと困るのが別表5(2)の記載です。

納税充当金が過少計上のときは「納税充当金取崩による納付(③)」を入れていっても「期首現在未納税額」が消えないので必然的に「損金経理による納付(⑤)」を埋めることは直感的でした。

しかし過大計上の場合は期首税額を「納税充当金取崩による納付(③)」で全額消していっても納税充当金が残ってしまいます(別表5(2)の下の「納税充当金の計算」の部分)。納税充当金を消そうと適当な税目で「納税充当金取崩による納付(③)」を多く入れれば実際の税金の期末残高がマイナスになりおかしくなってしまいます。

理屈としては、前期に勝手に計上して加算留保した納税充当金を取り崩すので減算留保で消すことが必要です。仕訳で言えば納税充当金取崩益200が会計上の収益になってしまうので放っておくとこれが益金として課税されてしまうためです。

結論として、別表を見ている限り、これに使う場所は別表5(2)の右下の「納税充当金の計算」の「取崩額その他」の38欄しかないのではないでしょうか。設例で言えばここに200を入れることで期末納税充当金残高を0にします。

自分が使っている税務ソフトでこの38欄に数字を入れてみると別表4の「納税充当金から支出した事業税等の金額」に飛び、減算留保となって結論は合いました。

ちなみに38の2行上の36に集計される損金算入の租税を「納税充当金取崩による納付(③)」で入力した場合もこの「納税充当金から支出した事業税等の金額」に飛ぶので、別表4において「納税充当金から支出した事業税の金額」は租税関係項目で減算調整をするものに広く用いる意味の項目といえそうです。

このヒントになる専門書の記載として、「事業税を納付する際に納税充当金を取り崩す処理を行った場合には,別表4で減算調整が行われますが,この調整金額は,別表5(二)の納税充当金の取崩額[35]事業税(又は[19]の③)の金額になります。ただし,その他に納税充当金を取り崩した場合には,[36]から[38]の金額も含めて減算調整を行います。」(TAC株式会社(プロフェッションネットワーク)  編著『法人税別表4、5(一)(二)書き方完全マスター 第7版』(TAC出版、2025年)83頁)というものがあります。

 

納税充当金過大計上の場合の別表4です。納税充当金から支出した事業税には、事業税の実額300と、過大な充当金取崩益の減算分である200を合わせた500が載ります。

なお、過少計上の例と比べて、会計上、法人税等が200少ない&取崩益が200発生するため、スタートの税引後当期純利益が400多いことに注意してください。最終的な所得はもちろん同じ△2,900になります。

別表5(2)。期首未納額も納税充当金もきれいに消え、損金経理による納付は出て来ません。

 

4.まとめ

振り返って考えてみると、納税充当金過少計上の場合にしろ、過大計上の場合にしろ、納税充当金の取崩益をとにかく減算調整し、そこから改めて全ての税目を損金経理したものとして考え、法人税・地方法人税・県民税・市民税の損金不算入租税について加算するというのでも結果は同じであることがわかります。

つまり理論的には、両建て仕訳の納税充当金取崩益を別表5(2)の38欄に記載して別表四で減算調整し、別途支払いの実額を別表5(2)の損金経理(⑤)の列に記入していって別表4でそれぞれ加算するということです。このような総額記入でも実際に別表は作成可能ですし(実務ではやらない方がいいと思いますが)、両建ての仕訳の考え方と一致します。

現実には、納税充当金取崩を全て38に入れ込むと大胆すぎるので、適度に税目に割り振って相殺処理をしているということになります。

 

参考文献

別表の記載を詳しく書いている本としては、

TAC株式会社(プロフェッションネットワーク)  編著『法人税別表4、5(一)(二)書き方完全マスター 第7版』(TAC出版、2025年)

両建ての考え方を書いている本としては、

税理士 小谷羊太 著『第2版 法人税申告書の「つながり」がよくわかる本』(清文社、2023年)

ネット上の参考ページとしては、

發知敏雄「実務家のための法人税塾」Ⅳ.租税公課の経理処理と申告書の記載

寺田誠一会計著作集「未払法人税等を未計上・計上・概算計上の申告書設例」

納税充当金の概算と実額と別表記載(1)

本記事は筆者の整理のためのメモ・会計事務所初心者向けの情報共有です。

期末に未払法人税(税務上の呼び方では納税充当金)を計上するとき、中小企業実務では税額を固めてから計上するため「未払法人税額=実際の確定納付額」となります。
この場合、納付をした翌期には別表5(2)の「充当金取崩しによる納付(③)」の列に納付額を入力していけば、減算処理が必要な事業税の分だけがうまいこと別表4にも飛んで、あまり考える必要もなく処理が終わります。

ただ、株主総会スケジュールの関係で概算計上・納付をする際には未払法人税の金額と実際の納付額が一致しないこととなり、この場合の仕訳上の処理と別表調整が少しややこしくなります。本記事で行うのはこの場合の考え方と別表記載の簡単な整理です。

 

特に本記事で言いたいのは「納税充当金の処理は両建てで考えたほうがいいのでは」という点です。

 

1.未払法人税を実額で計上する場合

(1)X1期

設例として次を考えます(参考となる寺田誠一さんの「未払法人税等を未計上・計上・概算計上の申告書設例」の数字に準拠します)。

 

X1期:

当期純利益 5,000

法人税・地方法人税 1,000

法人県民税 30

法人市民税 70

法人事業税 300

 

この決算で未払法人税を実額で計上する場合、以下の仕訳になります。

 

法人税等 1,400 / 未払法人税等 1,400

 

別表の記載としては未払法人税等の金額を別表5(2)の納税充当金繰入に記載し、同額が別表4の「損金経理した納税充当金」で加算されます。

(2)X2期

上記をX2期に納付するときは、以下の仕訳になります。

 

未払法人税等 1,400 / 預金 1,400

 

ここでは事業税が300含まれていますので、別表調整としては別表4で「納税充当金から支出した事業税等」に300を記載し、これが減算されます。結果的に、X1期の処理から通算して、損金算入の事業税だけが、申告書提出の属する事業年度に、損金になったこととなります。

税務上の納税充当金の金額は、各税金の納付状況を別表5(2)の「充当金取崩しによる納付(③)」の列に記入していくことで別表5(2)の下の方の納税充当金の取り崩しとして集計され、残高ゼロになります。

 

(3)両建てで捉える場合

と、ここまでが実務家が毎日見ている処理ですが、この意味を分解して考えてみましょう。

まず、納税充当金繰入の仕訳

法人税等 1,400 / 未払法人税等 1,400

が損金不算入として加算される意味です。

入門者向けの書籍である鈴木基史『対話式法人税申告書作成ゼミナール〔平成27年版〕』(清文社2015)ではこの仕訳と別表記入に関して「期末に未払い計上した法人税と住民税、それから事業税も未払い計上分は損金不算入ですから、別表4の[5]で加算します」(149頁)といった説明が出てきます。

が、よく考えると、未払法人税は概算で適当な金額で計上する場合もあるのですから、これが「租税項目であることを理由に」損金不算入とされると考えるのは不自然です。これは初心者向けの説明の便宜と捉えるべきでしょう。

租税公課等の損金不算入を定める法人税法38条は「内国法人が納付する法人税(…)の額及び地方法人税(…)の額は(…)その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。」としますが、適当に見積もり計上した税金が「納付する法人税の額」にあたるとは思えません。

正しくは法人税法22条の債務確定基準を根拠に、修繕引当金や賞与引当金が加算留保されるのと同じ理由で加算される、ただの納税用の引当金というべきでしょう。実務上はたまたま金額を実際の納付額とぴったり一致させているというだけです。

となると、これは翌期の納付時には取り崩して会計上は収益としつつ税務上は減算留保すべきです(普通の引当金もそうなることと整合します)。そして、それとは別に、実際の税金の納付の仕訳があると考えるべきです。

というわけで納付時の仕訳を納税充当金の取り崩しと実際の納付とに分けて(両建てで)書いてみます。

 

(一行で書いた仕訳)

納税充当金 1,400 / 預金 1,400

(両建てに分解した仕訳)

納税充当金 1,400 / 納税充当金取崩益(減算) 1,400

法人税・地方法人税(加算) 1,000 / 預金 1,400

法人県民税(加算) 30

法人市民税(加算) 70

法人事業税 300

 

この前段として前期に未払法人税の計上が加算留保されていることに注意してください。ただ単に勝手に計上した引当金なので繰り入れ時は加算留保をし、取崩時は会計上は収益が計上されてしまうので所得計算に影響が出ないように減算留保をします。こうすると納税充当金の発生・解消に関して課税所得はプラスもマイナスも全く動いていないことになります。ただの勝手な引当金だからそれでよいのです。

そして法人税・地方法人税・法人県民税・法人市民税を納付した処理について、法人税法38条の規定により加算調整します。

そうするとこの納付時の仕訳では1,400の減算(納税充当金取り崩し分)と合計1,100の加算があり、課税所得への影響はマイナスの300です。これは事業税の納付分に対応しています。

つまり支払額のうち(損金算入の租税である)事業税の分だけ加算しないことによってうまいこと事業税が納付時に損金になった形となります。

このことが通常別表4では「納税充当金から支出した事業税等」の減算処理として表現されるわけですが、「納税充当金から支出」という概念はむしろ難しく、両建てで考えた方が原始的でわかりやすくない?というのがまずは言いたいことです。未払法人税を実際の税金項目のように考えるから混乱するということです。

さらにこの両建ての考え方は、概算と実額がズレる場合にもひとつの考え方で全てのケースを処理できるのでさらに便利です。次回以降、未払計上と実際の納付額がズレる場合を見ていきたいと思います。

 

taxlawlabyrinth.hatenablog.com

正式入社前のちょっとした支払いの税務

例えば「正式な入社は4月1日からだけど、3月末には前職が有給消化になっていて、早く職場に馴染むためにもアルバイト的に3月末から来る」みたいなことだったりで、従業員が正式に入社する前に金銭の支払いが発生することがあります。

そのことについてのちょっとしたメモ。

 

支度金

支度金に関しては、雑所得となるようです。

所得税基本通達35-1(9)に雑所得になるものの例示として出てきます。これはちゃんと認識していませんでした。

「役務の提供の対価が給与等とされる者が支払を受ける法第204条第1項第7号《源泉徴収義務》に掲げる契約金」(契約金の範囲を書いた204-30も参照)

支払側は100万円以内なら10.21%で源泉徴収、受け取り側は確定申告となります。

会計の勘定科目としては採用費みたいなものを使うことになるでしょうか。

 

支度金(転居費等実費相当分)

雇用にあたっての転居などの実費相当額については非課税と扱われます。所得税法9条1項4号の「給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合又は就職若しくは退職をした者若しくは死亡による退職をした者の遺族がこれらに伴う転居のための旅行をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの」が根拠規定になるようです。

少し読みにくいですが規定の中に「就職(…)をした者(…)が(これらに伴う)転居のための旅行をした場合」が見出せます。

なお通常必要な範囲を超えて課税される場合の所得区分を定めた所基通9-4「就職をした者がその就職に伴う転居のためにした旅行 雑所得」とあり、先程の雑所得というのはここでも示されています。

会計の勘定科目は旅費交通費に入れてしまっていいかもしれません。

 

給与(正社員になる前)

正式入社前に様子見で来てもらって日当や時給で払う、みたいな場合で、まだ前職を退職していない状態ですと前職(正確には現職)のマルフが生きていますので乙欄源泉になります。正式入社後はマルフを出してもらって甲欄源泉です。

こないだ受けた年末調整の研修によると、このとき①前職の甲欄給与②当社の乙欄給与③当社の甲欄給与は全て当社の年末調整で合算することができます(どういう条文操作でそうなるのかまでは整理できていない)。

本人的には年末調整で課税関係が終了するので楽ですね。