会計事務所の日頃行う仕訳処理で地味に最も煩わしいもののひとつが給与に関するものだと思います。
面倒な要因は(1)控除項目があって諸口の仕訳にしなければならないこと(2)未払い計上が必要になる場合があることに整理できるでしょう。今回の記事では未払になる場合を前提に会計処理を検討します。
例えば給与の締めが「末締め翌月15日払い」のように締めの月と支払いの月がズレる場合、発生主義会計の考えからすると締め月に給与を未払計上しなければなりません。
このとき、現実にどのように仕訳を打てばいいのか、案外悩むことになります。
本記事では簡易的なものから順に(1)現金主義法(2)預り金擬制法(3)正攻法の3種類の処理を考えていきます(呼び方は本記事独自の勝手なものです)。
オマケで社会保険料、労働保険料の会計処理についても考えます。
1.方法(1)現金主義法
まずひとつの割り切りとしては、発生主義を放棄して支給日ベースで計上する方法が考えられます。会計を大事にする人はびっくりする方法かもしれませんが、こうすると物事はかなり単純になります。事務負担上のメリットは大きいです。
また、継続処理していけば12回給与が入るのは変わらないため、数名程度の小規模企業においては発生主義で処理する場合との差異も微々たるものだったりします。
経理力の低い会社で、未払い計上はよくわからないけど支給日で処理だったら自計化できるといった場合もあると思われ、会社によってはあり得る割り切りのひとつだと自分は考えています*1。
【設例】
末締め翌15日払い。
4月1日~4月30日分の給与を、5月15日に支払った。
4月30日
仕訳なし
(現実には、4月15日に支給ベースでの3月分給与が計上される)
5月15日(4月分給与を支給ベースで計上)
| 科目 |
金額 |
科目 |
金額 |
| 給料手当 |
100 |
普通預金 |
80 |
| |
|
預り金(社会保険) |
15 |
| |
|
預り金(所得税) |
2 |
| |
|
預り金(住民税) |
3 |
また、このやり方でも期末に最後1ヶ月分の給与を未払金で計上する伝票を一枚入れれば年間では完全に正しい発生主義の決算書になりますので、それもアリだと思います(いわゆる"期中現金主義"。ただ個人的にはそのようにすると月次推移表が崩れて概況書裏面の人件費の欄などが埋めづらくなるのであまり好みではありません)。
2.方法(2)預り金擬制法
次に、現金主義ではなく正しく未払い計上しようと考えたときに、社会保険料や源泉所得税の預り金をどう処理するかという問題があります。
本来社会保険料や源泉税を天引きするのは給与を実際に支給するときですが、各人への支給にあわせていちいち仕訳を直して預り金を計上していくのは面倒です。そこで、締め月の末日の給与未払い計上の段階で預り金を計上してしまうことが考えられます。
【設例】
末締め翌15日払い。
4月1日~4月30日分の給与を、5月15日に支払った。
4月30日
| 科目 |
金額 |
科目 |
金額 |
| 給料手当 |
100 |
未払金 |
80 |
| |
|
預り金(社会保険) |
15 |
| |
|
預り金(所得税) |
2 |
| |
|
預り金(住民税) |
3 |
5月15日
| 科目 |
金額 |
科目 |
金額 |
| 未払金 |
80 |
普通預金 |
80 |
こうすると支払い時は単に普通預金の減少を未払金で仕訳していけばいいので簡単です。預金の明細上支給が何行にも渡って分かれていても問題ありません(預金自動取込の現代的な会計実務に合っています)。私もこのように処理している会社がいくつかあります。
この方法の難点は総勘定元帳の見た目です。例えば預り金源泉税の元帳を見たときに4月30日で貸方発生が計上されますが、これは実際には5月15日の支給時に天引きするものですので、納付は6月10日になります。そうすると元帳の見た目では「え、4月に発生した源泉税が5月10日までに納付されてないじゃん…」となってしまいます。消込をするときに2ヶ月遅れでの対応関係としなければいけないわけです。
決算のときには(別途科目の振り替えをしない限り)源泉預り金が2ヶ月分残ってしまいます。
きちんとそれがわかっていれば問題はないといえばないのですが*2、源泉税の納付の処理やチェックをするときなどに少しわかりにくくなるのは事実です。
現実問題としてこの処理がどの程度認められるものなのかわかりませんが、この処理を説明しているネット上のソースがいくつかあります。リンクを挙げさせていただきます。
https://satoscpa.com/column/kyuyo
https://standardtax.jp/topics/salary/
https://freeway-keiri.com/blog/view/793
https://www.zeiri4.com/c_1032/q_4254/
https://zei-komon.com/?p=8796
3.方法(3)正攻法
最後に、理屈としては一番正確と考えられる、未払い計上時点ではあくまでも総額を未払金としておいて、支給時に未払金を振り替えて預り金を計上する方式です。
【設例】
末締め翌15日払い。
4月1日~4月30日分の給与を、5月15日に支払った。
4月30日
| 科目 |
金額 |
科目 |
金額 |
| 給料手当 |
100 |
未払金 |
100 |
5月15日
| 科目 |
金額 |
科目 |
金額 |
| 未払金 |
100 |
普通預金 |
80 |
| |
|
預り金(社会保険) |
15 |
| |
|
預り金(所得税) |
2 |
| |
|
預り金(住民税) |
3 |
この方法は理論的には完全に正しいと思われますが、支払い時に預り金を立てていく処理が正確にできてはじめて「ちゃんと出来上がった」と思えるので、実務の感覚として「時間がかかり」ますし、給与を総合振込でまとめて支払っておらず個別の振り込みでぱらぱら支払っているような場合には預金を取引ごとに取り込む実務とは非常に相性が悪いという難点があります(従業員一人ひとりに対して預り金を計上していくのか?という)。
手間を削減する策として、支給時の仕訳を預り金の計上部分と差引支給額の部分に分けて考え、預り金の計上部分だけを会社の合計額で振替伝票に起こす手があります。
預り金計上部分だけ先に入力しておけばあとは差引支給額を未払金にする処理だけで未払金残高が消えるので、インターネットバンキング取り込みを前提とした現代の実務にも調和するものと思います*3。
5月15日(給与控除項目計上のためだけの振替伝票)
| 科目 |
金額 |
科目 |
金額 |
| 未払金 |
20 |
預り金(社会保険) |
15 |
| |
|
預り金(所得税) |
2 |
| |
|
預り金(住民税) |
3 |
5月15日(従業員への差引支給額支払い時の仕訳)
| 科目 |
金額 |
科目 |
金額 |
| 未払金 |
80 |
普通預金 |
80 |
あるいは、未払金は会社全体で一気に支払ったかのように擬制し、「給与仮勘定」のような差引支給額の突合専用の科目を作るのも、私見としてはアリだと思います。結局未払金と意味は同じで二度手間のようでもありますが未払金がさっさと消えるので精神的にストレスがないと言いますか、頭を整理できると言いますか。
5月15日(給与振込擬制のための振替伝票)
| 科目 |
金額 |
科目 |
金額 |
| 未払金 |
100 |
給与仮勘定 |
80 |
| |
|
預り金(社会保険) |
15 |
| |
|
預り金(所得税) |
2 |
| |
|
預り金(住民税) |
3 |
5月15日(従業員への差引支給額支払い時の仕訳)
| 科目 |
金額 |
科目 |
金額 |
| 給与仮勘定 |
80 |
普通預金 |
80 |
4.社会保険料
給与とあわせて処理することになる、これもまた地味にややこしい社会保険料(法定福利費)の処理についても考えます。
漠然と納付分を法定福利費にしていくと月ズレが生じやすく、(3)の正攻法の仕訳に組み合わせて正しい処理を考えるのであれば次のようになります。
給与の未払い計上に平仄をあわせて4月分の社会保険料会社負担分を未払計上して、翌月に預かり分とあわせて納付する処理です。
【設例】
末締め翌15日払い。
4月1日~4月30日分の給与を、5月15日に支払った。
4月分の社会保険料の会社負担分は16で、従業員負担分15とあわせた31を5月31日に納付した。
4月30日
| 科目 |
金額 |
科目 |
金額 |
| 給料手当 |
100 |
未払金 |
100 |
| 法定福利費 |
16 |
未払金 |
16 |
5月15日
| 科目 |
金額 |
科目 |
金額 |
| 未払金 |
100 |
普通預金 |
80 |
| |
|
預り金(社会保険) |
15 |
| |
|
預り金(所得税) |
2 |
| |
|
預り金(住民税) |
3 |
5月31日
| 科目 |
金額 |
科目 |
金額 |
| 預り金 |
15 |
普通預金 |
31 |
| 未払金 |
16 |
|
|
このときに悩ましいのは、(設例で言えば16の)未払い計上するための会社負担額の根拠資料である社会保険料の納入告知書が翌月後半にならないと届かない点です。
5営業日で締めるなど早期の月次決算を目指している場合には資料ベースの計上ではなく概算というか理論的な値で見積もり計上するような形になります。
もし未払金がきれいに消えなければ遡って発生を直すか差額分は翌月以降のPLで調整すると割り切る覚悟が必要かもしれません。
未払計上を嫌って納付時に法定福利費で会社負担分を費用計上すると、期間対応としては月ズレになります*4。
ちなみに、個人的には「社会保険料を預かったときも納付したときも法定福利費で処理してそれで終わり」というゴリ押しタイプの仕訳も、最低限の税務申告のために簡単に処理を済ませたい小規模事業者の割り切りとしてはアリだと思っています。
5.労働保険料
最後に労働保険料についてもごく簡単に。
労働保険は概算納付と確定精算という2段階の納付であること、計算期間が必ず4月1日~3月31日であり法人の事業年度と合わない場合があること、などまず制度的なややこしさがあります。
法人税的には概算保険料については事業主負担分は申告書提出日の属する事業年度(または納付事業年度)の損金とし、確定の過不足は申告書提出日の属する事業年度の損金(益金)にする、とされています(法基通9-3-3。被保険者負担分は立替金にする)。
正直言いますが従業員との負担の分担や会計的な期間対応まで考えるとかなり面倒になります。そのわりに厳密にする効果(金額的インパクト)は乏しく、上場企業でもない限り精密に処理する意味は薄いと考えます。
個人的にはこれまで労働保険料の処理について税務調査で注目されたことも一度たりともなく、結局会社の差引支払額が損金になってれば文句ないでしょという実務感覚があります。
なので、
(A)支払いを法定福利費、差し引きの雇用保険も法定福利費にする
か、それで月次推移表が汚れる(納付月だけ法定福利費が大きくなって営業利益が下がる)のが嫌なら
(B)事業主負担額を推計して毎月未払金計上、労働保険料の納付と預かりは前払費用・預り金にしておいて、決算で未払金・前払費用・預り金の全てを法定福利費に振り替え、結果的に当期の純支払額が法定福利費になるようにする
のAかBどちらかでいいのではないかと考えます。
Aは説明不要なので、Bの仕訳を書いてみます。
【設例】
4月~3月の毎月の給与は1,000。各月、労働保険料の事業主負担分として12を見積もり計上した。
4月30日、5月31日、6月30日・・・計12回、年間144
| 科目 |
金額 |
科目 |
金額 |
| 法定福利費 |
12 |
未払金 |
12 |
※ただの見積額で、確定債務ではない
毎月の給与から6の雇用保険被保険者負担分を天引きした。
4月30日、5月31日、6月30日・・・計12回、年間72
| 科目 |
金額 |
科目 |
金額 |
| 給料手当 |
1,000 |
普通預金 |
794 |
| |
|
預り金(社会保険) |
150 |
| |
|
預り金(雇用保険) |
6 |
| |
|
預り金(所得税) |
20 |
| |
|
預り金(住民税) |
30 |
7月10日に概算保険料と確定精算分合わせて220を納付した。
7月10日
| 科目 |
金額 |
科目 |
金額 |
| 前払金 |
220 |
普通預金 |
220 |
上記の状況の中、決算を迎えた。
決算
| 科目 |
金額 |
科目 |
金額 |
| 未払金 |
144 |
法定福利費 |
144 |
| 法定福利費 |
220 |
前払金 |
220 |
| 預り金 |
72 |
法定福利費 |
72 |
決算の仕訳は上から順に期中見積もり計上分の洗い替え、納付時点で前払いに留めていた金額の費用化、預かった金額の費用からの控除です。
結果的にその事業年度に納付した金額から預かった金額を控除した純支払額が費用(損金)処理されるので、納付と天引きを現金主義で処理した場合と同じ結果になります。
これはなんら理論的に正確な処理ではありませんが、実務上の便宜と発生主義的な月次試算表の見栄えを考え、適度な落としどころなのではないかと思います。
繰り返しますが、個人的には「社会保険料も労働保険料も、預かったときも納付したときも法定福利費で処理してそれで終わり」という仕訳もアリだと思っています。売上高数千万のファミリービジネスが上記の社会保険料・労働保険料を厳密に処理するのに比べると実務的なメリットは大きいです。
