租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

確定決算主義のお勉強

合同会社と確定決算

 くどいようですが合同会社のことを考えています。以前に書いたように、合同会社には(デフォルトでは)株式会社でいう「株主総会」にあたる意思決定機関がそもそも存在しません。

 そこで法人税法の確定決算主義(74条)との問題が起こることは既に触れました。この点について太田達也先生の書籍では「一定の記録を証拠として残すことが考えられる」*1とされていることも紹介しました。

 

 

 あまり揉めるところでもなく実務的な対応としてはそれ以上深く考えることではない気もしますが、法的に言って確定決算主義とはなんなのか?というのが少し不安になったので合同会社との絡みを考えながら軽く判例を見てみます。

 74条の法解釈として何が「確定した決算」なのかがわかっていなければ太田先生の示すような実務対応でいいのかダメなのか、いいなら何故いいのかが判断できないからです。

 

法人税法第74条

 まずは条文です(くっっ……e-Govがメンテナンス中なので租税法判例六法から手打ち……)。

内国法人は、各事業年度終了の日の翌日から二月以内に、税務署長に対し、確定した決算に基づき次に掲げる事項を記載した申告書を提出しなければならない。 

  規定ぶりが難しい条文ではありません。大前提として、条文に「株主総会により」などと規定されているわけではないことが確認できます。

 

2つの裁判例

 酒井克彦先生の『裁判例からみる法人税法』(自分が持っているのは恥ずかしながら二訂版)を見ると、参考になる裁判例がふたつ挙げられています。

 

 

(1)東京地裁昭和54年9月19日

 逋脱の問題が絡んでいますが、総会の承認を経ていない決算に基づく申告が有効な申告と認められた事案です。この判決では法人税法が確定決算主義を採用している趣旨が触れられています。そこでは「会社の最高の意思決定機関である株主総会の承認を受けた決算を基礎として計算させることにより、それが会社自身の意思として、かつ正確な所得が得られる蓋然性が高いが故であるという趣旨」とされています。

 そして「…に鑑みれば、たとえ商法上の確定決算上の手続きに依拠せず、従って商法上は違法であるとしても、確定申告自体が、実質的に、法人の意思に基づきなされたものであると認められる限り、税法上は法74条に基づく有効な申告として扱うものと解するのが相当である」と判断しています。

 要するにここで重要なのは「実質的に法人の意思に基づきなされた申告か」であり、総会自体が適法な申告の要件ではないということです。そもそも最初の趣旨で何故株主総会の承認を受けたものを法が想定していると解しているのかは私にはよくわかりませんが*2、あくまで個別の紛争の裁判ですから、そのような機関設計がある会社の場合を前提として説示しているのかもしれません。

(2)福岡高裁平成19年6月19日

 こちらも総会の承認を経ていないが総勘定元帳の残高に基づいて決算した申告が有効とされた事例です。地裁の判示において、確定決算主義とは原則として「株主総会又は社員総会の承認を受けた決算書類を基礎として所得及び法人税額の計算を行う意味と解すべきである」としています。

 しかしこの判決が面白いのは、原則は上記であるものの、我が国の株式会社・有限会社の大多数を占める中小企業では株主総会・社員総会による承認など行われず代表者と会計担当者の一部の者によって決算が組まれるのが実情だから、総会の承認を経ていないからといって確定申告が無効になると解するのは相当でないとしている点です。ぶっちゃけていますね(地裁の判断が高裁でも維持されているようです)。

 この点に対して酒井先生は、いかに実態であるからといってそれでは法律の形骸化を承認しているようなものであり疑問がある旨の指摘をなされています。読みながら「そりゃそうだ」と言いたくなる真っ当な指摘に思われます。

 好意的に(法律の形骸化を許していないように)読むとするならば、判決は「法律は総会の承認を求めているけれど、実態はみんなやっていないから仕方なくそれでいいと判断する」わけではなく、「みんなやっていない実態がある中で法人税法がそのような規定を設けたということは『確定した決算』とは形式的に総会の承認を要求しているものではないのだろう」というように解釈の方に織り込んだと考えることになるでしょうか。繰り返しますが74条が明文で株主総会・社員総会を要求しているわけではありませんので、解釈で株主総会を要求しなかったとしても文理に反することにはなりません。*3

結局、合同会社はどうすれば

 裁判例を見るに(1)総会のような機関による承認そのものは要件ではない(2)重要なのは内容がちゃんと(概算とかではなく)確定的で、かつ実質的に法人の意思に基づいたものと言えるのかだ*4ということが伺われます。

 結局合同会社がどうすればいいのかについてですが、具体的に「確定した決算」か否かで揉め事になる場面としては課税庁と揉める場合、またそれに伴って社員同士で揉める場合が想定されます。合同会社における業務の意思決定が社員の過半数によって行われる原則に照らして考えると、やはり社員の過半数が承認した決算をもって「確定した決算」と考えるのが無難ではあるのでしょう。そしてそうした承認の過程を書面に残しておけば、なるほど法人の意思に基づいた決算だなと誰もが認めざるを得ません。

 もちろん定款自治が柔軟な合同会社の性格を踏まえて様々な場合が考えられますから、一概にこの形ならいい・この形ならダメとは言いにくいところがあります。法解釈論として言えるのは「最後は実質的な判断だ」というところまでかもしれません。

 

*1:太田達也『〔改訂版〕合同会社の法務・税務と活用事例』127頁(税務研究会出版局2019)

*2:合同会社の登場前であっても人格のない社団のように明確な機関としての総会がない「法人」が確定申告を行うことは当然に想定されるはずです。

*3:ここでは文理に反するわけではないと言っているだけで解釈として妥当だと言っているのではありませんが、法人税法株主総会や社員総会という機関が想定されていない法人についても「確定した決算」に基づいた申告書の提出を求めているのであり、株主総会や社員総会による承認が「確定した決算」の一般的な要件に含まれるものではないと解するのは妥当だと現時点では考えています。ただし決算承認の手続きが会社法に定められている株式会社について言えば、申告書の基礎となった決算が株主総会の承認を経ていない事実は「確定した決算」ではないことを推認する間接事実として働くことは間違いないでしょう。

*4:「法人の意思」が求められるのは損金経理などの場面において法人に選択の余地があり、これについての確定性が求められるからだと考えられます。逆から言えばそうした「意思によって左右される要素」が法人の決定としてこれ以上覆りようがない形で確定していれば「確定した決算」というしかないのであって、そのような状態を作っておくことが重要であると思われます。

合同会社の税務周りの話(5)

合同会社の税務周りの話(1)

合同会社の税務周りの話(2)

合同会社の税務周りの話(3)

合同会社の税務周りの話(4)

合同会社の税務周りの話(5)←イマココ

 

 その4で終わるつもりでしたが追加編。


合同会社のポイント⑪ 損益分配の計算と利益配当可能額の計算

 その3で「合同会社の社員はいつでも利益の配当を請求できる。そのために社員ごとの損益分配を計算していないといけない」話をしました。そして、この計算については特に決まった様式もなく例の太田先生の本にも書かれていませんでした。

 

 

 この点について税理士会提供の研修では税理士の先生が計算を資料に起こしていました。貴重な資料の提供に深く感謝するところです。しかし自分の解釈とは違う部分があったため、議論の整理というかノートとして書いてみます。

 

 まず、問題となるのは利益の配当です。合同会社の社員はいつでも「利益の配当をください」と言えます。会社法621条を見ましょう。これは会社法の第三編「持分会社」の第五章「計算等」第五節「利益の配当」の最初の条文です。

(利益の配当)
第621条 社員は、持分会社に対し、利益の配当を請求することができる。
2 持分会社は、利益の配当を請求する方法その他の利益の配当に関する事項を定款で定めることができる。
3 社員の持分の差押えは、利益の配当を請求する権利に対しても、その効力を有する。

 なんだか面倒なので定款で年に一度とか定めたくなりますね。しかし628条にその制限があります。

(利益の配当の制限)
第628条 合同会社は、利益の配当により社員に対して交付する金銭等の帳簿価額(以下この款において「配当額」という。)が当該利益の配当をする日における利益額を超える場合には、当該利益の配当をすることができない。この場合においては、合同会社は、第621条第1項の規定による請求を拒むことができる。

 要するに配当額が利益額を超えてはいけないということですが、ここでいう「当該利益の配当をする日における利益額」とはなんなのでしょうか。少し手前の条文である623条において定義されています。

有限責任社員の利益の配当に関する責任)
第623条 持分会社が利益の配当により有限責任社員に対して交付した金銭等の帳簿価額(以下この項において「配当額」という。)が当該利益の配当をする日における利益額(持分会社の利益の額として法務省令で定める方法により算定される額をいう。以下この章において同じ。)を超える場合には、当該利益の配当を受けた有限責任社員は、当該持分会社に対し、連帯して、当該配当額に相当する金銭を支払う義務を負う。
(後略)

 細かい計算にありがちな省令への委任です。委任先は会社計算規則163条です。

 (利益額)
第163条 法第623条第1項に規定する法務省令で定める方法は、持分会社の利益額を次に掲げる額のうちいずれか少ない額(法第629条第2項ただし書に規定する利益額にあっては、第1号に掲げる額)とする方法とする。
一 法第621条第1項の規定による請求に応じて利益の配当をした日における利益剰余金の額
二 イに掲げる額からロ及びハに掲げる額の合計額を減じて得た額
 イ 法第622条の規定により当該請求をした社員に対して既に分配された利益の額(第32条第1項第3号に定める額がある場合にあっては、当該額を含む。)
 ロ 法第622条の規定により当該請求をした社員に対して既に分配された損失の額(第32条第2項第4号に定める額がある場合にあっては、当該額を含む。)
 ハ 当該請求をした社員に対して既に利益の配当により交付された金銭等の帳簿価額

 租税法のような読みづらい条文が登場しましたが、要は①会社全体の利益剰余金と②個人に分配された利益剰余金というふたつの上限があり、いずれも超えてはならない趣旨を規定してい(ると思い)ます。

 もう少しわかりやすい言葉に言い換えてみましょう。

 

 ①(会社全体の)利益の配当をした日における利益剰余金の額

 ②(当該社員の)分配された利益-(分配された損失+配当された利益)

 のうち、いずれか小さい金額が配当上限額

 

 となります。②についてはカッコを外して「分配された利益-分配された損失-配当した利益」としたほうがわかりやすいかもしれません。要するに各社員に割り当てられた損益のうち、まだ配当していない分を配当できますよというシンプルな仕組みです。

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 なぜ社員については「利益剰余金」と書いていないのかというと、合同会社においては利益の分配と損失の分配でそれぞれ異なる割合を定めることができますし*1、社員個人の利益剰余金というものの定義がないためだろうと思われます。

 簡単にするために社員一人だけで、第1期に利益100、第2期に損失40が出た場合を考えます。会社全体の利益剰余金は60です。そして利益と損失は100%がその社員に分配されますから、

 分配された利益 100

 分配された損失 40

 配当された利益 0

 の状態になります。「社員の利益剰余金」とでも呼ぶべき「利益-損失」の金額は当然ながら会社全体と同じ60で、まだ配当は受けていませんから、60の配当請求権(未配当損益とでも呼べるでしょうか)がある、という形になります。

 こうして見てみると、結局、利益配当請求に対する実務を行うためには、各社員について次の3つの金額が常に計算されていなければならないことがわかります。

 (イ)分配された利益の累計額

 (ロ)分配された損失の累計額

 (ハ)配当された利益の累計額

 そして累計額を計算するためには(一定の計算期間を前提として)計算期首の金額、計算期間中の変動額がわかっていれば必要十分です。

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 社員ごとに一覧にしたいと思えば、長くなるのを覚悟で全部の項目を横に並べるしかないのかなぁと。

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 繰り返しますがこの計算は特に様式例が示されているわけではないのでこれで合っているのかどうか不明です。

 そして税理士会の研修ではこれと違う計算が示されていました。趣旨としては、分配利益100、分配損失40のときに配当可能額が30になる、すなわち利益剰余金の半分までしか配当できないとする形の計算でした。

 これはどうやら前述会社計算規則163条の配当可能利益の計算で①の「(会社全体の)利益の配当をした日における利益剰余金の額」の解釈で配当をした後の利益剰余金だと解釈したためであるようです。60の利益剰余金があるときに、配当額の上限が配当の利益剰余金であれば30までしか配当ができないことになるのは数理的な必然です。

 たしかに素朴に条文を読んでいくとそうした理解の仕方もあり得るような気もしてきます(正確な読み方をご存じの方はご教授いただけますと幸いです)。

 しかし、文理はともかくとして、上記のような解釈は実益がないように思われます。というのも合同会社の配当は時期や回数に制限があるわけでもなく、会社法上は随時繰り返し行えるからです。

 仮に前述の例で利益剰余金60のうち30しか配当できないとしても、翌日には配当後の利益剰余金30から15の配当ができ、また残りの15からは7.5の配当ができ……とこの計算は無限等比級数的に続いていきます。そうすると、回数をかけるという手続き上の問題だけの違いで、利益剰余金60の全てが配当できるとする解釈と同じ帰結をもたらすことができます。となると、逆に言えば、60の全てが配当できると解しても問題はないのではないでしょうか。

 

 まとめ。

合同会社においては随時各社員について配当可能額を計算しておかなければならない。

・そのための計算の形式としては「分配された利益」「分配された損失」「配当された利益」それぞれについて期首・期中・期末で区分して記録していく方法が考えられる。

・配当可能額の計算においては利益剰余金の半分が限度であるとする説と全てが配当できるとする説があるが、どちらの解釈を採っても結局は同じ帰結がもたらされる。

 

*1:このことが理由で、仮に社員が全員創業時からのメンバーだったとしても、ある社員に分配された損益が黒字で会社の利益剰余金がマイナスといったことも起こり得ます。特定の社員に利益は多く、損失は小さく分配した場合にそうなります。

合同会社の税務周りの話(4)

合同会社の税務周りの話(1)

合同会社の税務周りの話(2)

合同会社の税務周りの話(3)

合同会社の税務周りの話(4)←イマココ

合同会社の税務周りの話(5)

 

 前回からの続きです。税理士事務所目線で合同会社の面白いところを書いています。


合同会社のポイント⑧ 出資の払い戻し/持分の払い戻し

 出資の払い戻し、退社による持分の払い戻しもやや独特です。

 退社とは合同会社の社員をやめることですが(会社から家に帰ることではありません)、この場合合同会社は(元)社員へ持分を払い戻すことになります。このとき、税務的には株式会社でいう自己株の取得のような税務を行うことになります。会社の純資産を減らし、みなし配当と譲渡損益の論点が出て来ます。仕訳などは太田先生の本で例解されています。

 そしてもちろん払い戻す持分というのは出資と帰属する損益ですから、前回の記事で書いたように各社員に対する持分が常に計算できていないと退社の実務に対応できないことになります。

 ちなみに合同会社においては社員の氏名住所は定款の絶対的記載事項ですから、社員に異動がある度に定款の変更が必要になります。株式会社に比べて内部的な手続きが簡易なイメージはありますが、この点についてはうるさいのが合同会社です。

 

合同会社のポイント⑨ 持分の相続税評価が定款の定め次第で変わる

 これも税理士的重要ポイントです。前提として、合同会社の社員としての地位は、相続によって当然には相続人に承継されません。株式会社は所有と経営が分離していてそれぞれの株式は株主平等原則の下に画一的な取り扱いを受けるだけですから株主の属人的な性質はあまり問題になりません。しかし合同会社では出資者=経営者ですから相続でパっと経営者が変わられてしまっては利害関係者にとって大問題です。

 したがって原則として、相続人は持分の払い戻し請求権を相続することになります。もう少し技術的に言うと社員の死亡は法定の退社自由であり、死亡した社員は退社したことによる払い戻し請求権を持ちます。相続人はその請求権を相続するという流れです。このため相続税の評価上は単なる金銭債権とならざるを得ません。

 一方、定款で持分を承継する(相続人が引き継いで社員となる)旨を定めることもでき、この場合の持分は取引相場のない株式の評価方法によって評価することになりますから、金額が変わってきます。この点、設立を司法書士に任せてボーっとしていると考慮から抜け落ちる危険がある部分ですから税理士側から積極的に助言を行うべき点であると思われます。

 

合同会社のポイント⑩ 安直な設立は……?

 合同会社の特色を見ていって総合的に感じるのは「設立費用が安いから」というその場の近視眼的な理由で会社形態として合同会社を選ぶのは案外リスクがあるということです。

 純粋な一人会社として用いるくらいであれば取り立てて問題になることはなく手軽でいい形態だと思いますが、知り合いと共同して事業を行う組織として設立するには、意思決定の方法や損益分配の割合に関して「良く言えば柔軟、悪く言えば曖昧」な部分が多くトラブルの種になりかねません。また退社が発生したときの払い戻しや随時の利益配当など独特な財務イベントも生じ、それらのマネージは一般人には難しいところがありそうです。*1

 これは人的な繋がりを重視した会社形態だから当然は当然なのですが、「仲良く話し合って決めよう」という合同会社の特色が、悪い場合にはどろどろとした争いを生んでしまうのではないかと懸念するところです。

 これが株式会社なら、株主総会が最高意思決定機関であり取締役はその委任を受けているに過ぎない、株主間の力関係も株数で決まる、といったようにはじめから仕組みが決まっているために意見の対立や感情的な齟齬が起きた際にも対処は決めやすくなります。事業を始めるときには仲良しでも途中で様々な変化が起こるのが世の中ですから、株式会社のシステマチックなドライさは各関係者を泥沼から守る防波堤のようにも見えます。

 合同会社の活用法に関しては個人的にはむしろSPCのビークルとしての使い方の方がイメージしやすく利点がわかりやすく活かされるような感想を持ちました。スモールビジネスならスモールビジネスで、最初から最後まで一人だけでやると割り切ったほうが安全であるように思います。ビジネスパートナーを入れるなら、出資や役員という観念を切り捨ててただの雇用や委任で契約するのみにするのが法的なしがらみが少なく実務的な問題もないのではないでしょうか。

 

*1:もちろん、あらゆる可能性に配慮して定款で規定を整備して自分たちの望む理想の会社組織に組み上げられる知識・想像力があるなら合同会社は素晴らしいと思います。そのレベルの人は設立費用を理由として合同会社形態を選ぶことはないでしょう。

合同会社の税務周りの話(3)

合同会社の税務周りの話(1)

合同会社の税務周りの話(2)

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合同会社の税務周りの話(4) 

合同会社の税務周りの話(5)

 

 前回からの続きです。税理士事務所目線で合同会社の面白いところを書いています。

 

合同会社のポイント⑤ 資本金の計上強制がない

 株式会社では出資のうち2分の1は資本金にしなければならない(残りは資本準備金)とする規定がありますが、合同会社にはこれがありません。

 つまり払込資本を増やしても資本金にしないことができ、それにより登録免許税を支払う義務もないことになります。ちなみに合同会社には資本準備金という計算上の区分が存在しないため、出資のうち資本金にしなかった金額は資本剰余金となります。

 また現物出資をした際の検査役の調査に関する規定もなくその点も柔軟になっています。例えば収益を生む資産を現物出資して全額資本剰余金に計上、という操作をすれば容易に合同会社を資産運用ビークルとすることができます(ただし出資者側に対する譲渡所得課税には要注意)。

 

合同会社のポイント⑥ 出資割合と損益分配割合を分けられる

 株式会社の場合保有している株数が議決権であり、配当を出すに際しても株主平等原則の下、株数に比例して配当がなされることになります(種類株式を別として)。

 しかし合同会社においては損益の分配の割合を自由に定めることができます。全体の出資額のうち99%を出している人が受ける利益の分配が1%でもいいわけです。また、利益と損失の分配をそれぞれ分けて決めることすら可能です。

 ちなみに分配の割合を定款で定めていない場合には出資の割合によるものとされ、利益または損失のどちらかについてだけ定款で割合を定めた場合には、利益・損失に共通の割合だと推定されます。

 ちなみに、例えば多く出資した人から少なく出資した人へ損益の分配が流れれば、それは税理士の肌感覚としては贈与や寄附金の色彩を強く帯びます。出資の割合で損益の分配を受けてから贈与したのと同じ結果になるからです。親が株式を現物出資して合同会社を設立し1%だけ出資した子供に99%分配する場面を考えると実質的に経済的利益の移転が起こることがわかりやすいでしょうか。

 もっともこれは株式数に応じた株主平等原則を持つ株式会社を前提に考えているからそのように思うのであって、出資者に対する平等原則が存在しない合同会社においてそうした擬制をすること自体が、観念的にであれ意味がないとも言えるのかもしれません。株式会社の役員報酬を働きと責任に応じて決めるように、損益の分配割合を利益への(出資額ではなく)貢献度合いで決めたとしてそこに経済的利益の移転は観念できないという考え方もあり得そうです。

 「配当ではなく損金になる報酬でやるほうが合理的ではないか」と思うかもしれませんがそれは税務どっぷりな目線からの指摘であって、私法上は特に報酬の方が合理的であるとする根拠もありません。むしろ合同会社の柔軟な設計(後述)を活かして法人の資金繰りを見ながら好きなときに配当を請求するというやり方は十分にあり得るように思います。

 太田先生の本でも課税リスクについては「課税関係が生じ得ると考えられる」*1と指摘はされていますが、具体的なことについては書かれていません。税理士会の研修でも学説や裁判例の蓄積がないようなことが言われていて、合同会社の税務に関する曖昧な領域と言わざるを得ないのでしょう。その中で太田先生は実績に応じた利益の分配など経済合理性の存在が重要である旨述べられています。税理士としては、リスクに備えてそのあたりの建付けを整理しておく必要があるでしょうし、逆に言えば現状そのくらいのことしか言えないのかなという印象です。

 

 

合同会社のポイント⑦ 損益の分配と利益の配当が異なる

 前述した「損益の分配」というのは会社の損益を社員に計算上割り当てるだけのことです。実際に配当としてお金を支払うこととは異なります。これも株式会社とは感覚が異なる部分です。

 株式会社では例えば利益が出た期に配当を決議して1株あたり50円といった決め方で全株主に対して株数に応じて平等に支払われることになります。

 これに対して合同会社では常に社員に対して損益の分配が行われていき、各社員の計算上の持分として溜まっていきます。そして社員にはいつでも利益の配当を請求する権利があり、あるときにA社員に配当したけどB社員には配当していないといったことも当然に起こり得ます。

 こうした配当実務に対応するために毎期毎期(もっといえば決算ごとではなく常に)各社員に損益を分配した結果の持ち分を計算しておかなければなりません。この点は株式会社には見られない発想の計算で、組合的な性格を持つ組織形態であることの表れのように感じます。

 ちなみにこの持ち分の計算に関しては特に決まった計算書の様式もなく、実務の慣行は確立されていないようです(→その5で試作してみました)。ここもやはり合同会社の曖昧領域となります。


 次の記事へ続きます。

 

*1:太田達也『〔改訂版〕合同会社の法務・税務と活用事例』168頁(税務研究会出版局2019)。

合同会社の税務周りの話(2)

合同会社の税務周りの話(1)

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合同会社の税務周りの話(3)

合同会社の税務周りの話(4)

合同会社の税務周りの話(5)

 

 前回からの続きです。税理士事務所目線で合同会社の面白いところを書いています。

 

合同会社のポイント③ 株主総会に相当する機関がない

 合同会社の基本は出資者(社員)が同時に経営者であり、みんなで話し合って経営を行うのみです。したがって、株式会社でいう株主総会にあたる意思決定機関がそもそもありません。

 それ自体は「はぁ、そうですか」で終わる話なのですが、税務でまず問題になるのは法人税法74条です。同条は「確定した決算に基づき」確定申告書を提出する旨を定めており、ここでいう「確定した決算」とは実務的には株主総会での計算書類の承認という手続きが想定されているはずです。

 そうすると合同会社では何をもって「確定した決算」と言えばいいのか?という素朴な疑問が生じます。「確定した決算」に基づかないのであればナイーブな文理上は適法な法人税申告ではないことになってしまいます。

 これに関しては、合同会社の業務の決定(計算書類の作成・承認もこれに含まれる)は定款に別段の定めがある場合を除いて社員の過半数の決定で行われることから、過半数が計算書類を承認したことを示す何かしらの会議議事録を残すことが考えられます。太田先生は一人会社の場合につき次のように述べています。

 

この点については、法人税における役員給与との関係、社会保険事務所に提出する社員報酬の決定通知書の提出との関係などから、一定の記録を証拠として残すことが考えられる。様式は特にないため、決定した日時、決定した内容などを適宜まとめて、記名押印する対応が考えられる。(太田達也『〔改訂版〕合同会社の法務・税務と活用事例』127頁(税務研究会出版局2019)) 

 

  やはり「考えられる」と歯切れは悪いですが、一歩踏み込んでこの論点に言及するだけで限界と考えるべきでしょう。

 ちなみに別に「社員総会を開いてはいけない」わけではありませんので、定款で定めてそのような機関を設置することも可能です。

 このあたり合同会社「良く言えば柔軟、悪く言えば曖昧」な部分だと感じます。税務の目線から見たご都合主義なツッコミだと思われるかもしれませんが、税務を別にしても法的な安定性の見地から決算確定に関する何らかの会議体・記録は残すようにしたほうがいい気はします。利害関係者からの閲覧請求がありますので。

 

合同会社のポイント④ 法人も業務執行社員になれる

 これは素朴に新鮮だった点です。業務執行社員というのは株式会社で言えば取締役で、要するに実際に業務を執行する人です。株式会社では所有と経営が分離していますから出資者でなくても取締役になれますが、合同会社では出資者でなければ業務執行者になれません。ただし逆に言うと、業務執行社員でない社員、すなわち出資するだけの人を置くことはできます。

 会社法の入門書では「法人は観念上の存在だから実際に業務を行う機関が必要であり、それが取締役である」と説かれるところ、それが法人では入れ子構造なだけで意味がないではないかとも思うところです。結局、法人の業務執行社員は実際に職務を行う自然人(職務執行者)を定めなければなりません。

 税務的に重要なのは、自然人の業務執行社員であれ、法人の業務執行社員であれ、職務執行者であれ、いずれにせよ法人税法上は合同会社の役員であり、役員給与の損金不算入規制の適用を受ける点です。つまり定期同額給与か事前確定届出給与でなければ損金の額に算入できません(業績連動給与はケースとして考えにくい)。

 法人への支払いが「役員給与」にあたるというのは違和感がありますが、解釈上はそうなるようです。またその場合の源泉徴収義務や課税仕入れはどうなるのかという問題ですが、源泉徴収は不要で、課税仕入れになる(仕入税額控除可)と解されています(太田本159頁)。

 ちなみに法人業務執行者の職務執行者への支払いは合同会社から法人へ、法人から職務執行者へというケースが通常は想定されるようです。

 

 次の記事へ続きます。

 

合同会社の税務周りの話(1)

合同会社の税務周りの話(1)←イマココ

合同会社の税務周りの話(2)

合同会社の税務周りの話(3)

合同会社の税務周りの話(4)

合同会社の税務周りの話(5)

 

 最近関与先で合同会社がちらほら増えてきました。主に、個人事業主の法人成りというか、スモールビジネスでの利用が多いです。統計的に見ても今では法人の新規設立の4件に1件が合同会社になっているとか。

 調べる必要が生じる都度断片的に情報を仕入れて作業をしておりましたが、ここらへんで体系的に情報を整理しておかないとまずいと思い書籍を買ったり税理士会の研修を受けたりして情報を仕入れてみました。

 色々と面白い点があると思ったので自分用のメモとして、中小の税理士事務所目線でポイントと思われるところをまとめてみたいと思います。

 なお参考にした書籍は下記です。

 

太田達也『〔改訂版〕合同会社の法務・税務と活用事例』(税務研究会出版局2019)

 

 太田達也先生らしい、実務的に必要十分な情報を簡潔にまとめた一冊です。法務・会計・税務・活用事例それぞれの観点から整理して書かれていて、根拠条文や参考文献の引用も十分になされています。Amazonで検索した感じ、会計士や税理士によるまとまった本でめぼしいものは他にほとんどなさそうでした。

 

合同会社って簡単に言うと何?

 株主がお金を出して取締役に経営を委任して……というように所有と経営が分離することを前提とした株式会社とは異なり、原則として出資者=業務執行者となり、内部の運営に関してはみんなで話し合って決めることを前提とした組織形態です。原則的に議決権は頭割りで一人ひとつです。

 

合同会社のポイント① 設立・維持費用が安い

 具体的には、株式会社では最低でも定款認証の手数料が5万円、登記時の登録免許税が15万円と合計20万円の設立費用がかかります。これに対して合同会社では定款の認証が不要で、登録免許税も(資本金の金額次第ですが)最低で6万円であり、ミニマム6万円で設立できます。いきなり14万円得をすると言われたら個人事業主の規模感には嬉しいですよね。

 また役員の任期が法で定められておらず(株式会社は最長10年の定めあり)、改選の登記費用もかかりません。さらに決算公告の義務もないことから、そうした手数料も節約できます。

 これらの点に関しては費用の節約もさることながら「面倒な手続きがない」ことに魅力を感じる方も多いでしょう。実態は個人事業主だけど都合上法人格が必要、くらいの意味で法人を立ち上げるのであれば無駄な手間に感じる部分です。このあたりが合同会社の設立が増えている理由でもあるのでしょう。

 

合同会社のポイント② 税務は基本的に株式会社と同じ

 組合的な運営を前提としているとはいえ合同会社は法人であり、普通に法人税の課税対象となります。民法上の組合員のように構成員へのいわゆるパススルー課税が適用されるわけではありません。

 会計に関しても基本的には株式会社と同じように一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うのみであり、税理士事務所としてはほぼ同じ感覚で処理できると考えていいでしょう。

 ただし当然ながら「株主資本」はなく「社員資本」となります。無いとは思いますがうっかり株式会社のテンプレで決算書を出してしまうと恥ずかしいのでこの点はよくよく注意。株主資本等変動計算書を作ってはいけません。社員資本等変動計算書を作りましょう。

 

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資本金とは何か

1.資本金の説明試論

 先日事務所の職員さんとの会話で、そもそも資本金とは何か?といったあたりの話になりました。

 税務会計人からすれば例えば資本取引と損益取引を区分することは適正な課税所得を計算する上で重要ですし、資本金が1,000万円を超えていたら新設法人として1期目から消費税の課税事業者になるとか、地方税均等割の金額が上がるとか、そういう計算面では意識します。しかし、そもそも資本金という数字が何のために存在するのかについてはあまり意識する機会がありません。

 なんとなく資本金が大きければ立派な会社であるようなイメージはありますし、実際その分元手のお金が出資されたわけですから資本金が大きいほど商売規模が大きく財務基盤が盤石な会社である可能性が高くなります。しかし会計人なら実感としてわかるように資本金が500万円でも実際に会社に500万円相当の財産があるとは限りませんし、資本金という数値が決算書や登記簿に維持されている理由はなんなのか?とも思ってしまいます。

 日頃、会計事務所では商法的な議論がいい加減に流されがちであるという反省もあるため、この機会に他人に説明するためのロジックを整理してみたいと思います。

 わかりやすさを重視したメモですのでちゃんとした商法学説からするといい加減な部分が多いかとは思いますが、ご容赦ください。

 

2.前提としての株式会社

 大前提として株式会社が何かを理解していなければ話になりません(持分会社は捨象します)。

 株式会社はまずお金を出資する人(株主)がいて、彼らが経営の専門家(取締役)にお願いして事業を行ってもらい、その儲けを受け取る仕組みです。儲けを受け取るとは、配当や残余財産の分配、あるいは値上がりした株式を譲渡するなどの形をとります。

 そして、事業を行う際には普通、債務が発生します。銀行から借り入れをすれば当然それは債務ですし、仕入れ代金を月末払いにしている分も債務です(買掛金)。ここで会社に対して債権を有している人たち、すなわち社債権者というプレーヤーが登場します。

 株主は事業が儲かればリターンを受け取ることができますが、事業が失敗すれば出資した分の財産を失うかもしれません。ただし、会社の債権者に対しては出資した財産の範囲でしか責任を負いません(間接有限責任)。すなわち、会社が1億円の借金を負ったまま倒産しても株主が自分自身の財産からその借金を返さなくてはいけないわけではありません。*1

 

3.前提としての会社法

 ここまでで、会社に関係する重要な利害関係者として株主・取締役・債権者が登場しました。株式会社制度が円滑に運営され社会経済を回すためには、これら利害関係者の利害調整が上手く行われるための仕組みが必要です。法律面でのそのような仕組みが会社法です。

 会社法は主に株主間の利害調整、株主と債権者の利害調整、株主と取締役の利害調整について規定しています。従業員も重要ではないかと思われるかもしれませんがそのあたりは労働法・民法の領域になります。

 話が遠回りになりましたが、資本金制度の存在意義は(基本的には)このうち株主と債権者の利害調整にあります。

 

4.剰余金の分配

 結論から言うと資本金は剰余金の配当を制限して債権者を保護するためにあります。

 ポイントは株主が間接有限責任であることです。債権者の目線で見ると、返済の頼りにできるのは会社そのものが持つ財産だけです。会社が潰れたときに株主の方まで追いかけることはできません。そうすると「あまり気楽に株主に配当を出さないでちゃんと財産を残しておいてほしい」と思うことでしょう。そしてまさにそのための制度が資本金です。

 どんな場合に株主への配当を認めるか、制度設計として以下の3つが考えられます。

 

①資産がある限り無制限に配当を認める

②資産が負債を上回る部分について配当を認める

③資産が負債以上の一定額を上回る部分について配当を認める

 

 まず①は不合理であることがわかります。極端に言えば銀行から1億円を借りてそれを全て株主に配当した上で会社を清算してしまえば株主が銀行からお金を詐取できることになります。

 ②については幾分合理的です。まず債権者の取り分を確保して、配当はそれ以上に資産を稼げてからにしてね、というわけです。

 さらに安全をとったのが③です。そして「一定額」というのが資本金というわけです。資本金が1,000万円であれば、資産が負債の額を1,000万円以上上回ってはじめて配当が可能になる会社ということですから、債権者としては安心感あります。現実の会社法はこの仕組みを採用しています。

 会計の視点から言えばこれは資産が「負債と資本金の合計」を上回ってはじめて配当を認めるということであり、要するに利益剰余金がないと配当ができないことの表現になっています。*2

 つまり資本金は「株主への配当か、債権者への弁済(のための財産維持)か」という綱引きの調整装置となります。

 株主の立場からしたら配当が無制限に認められる方がいいのではないかと思われるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。何故なら、制度設計が株主に有利すぎれば会社に資金を提供する債権者はそもそも現れないからです。事業を行う上では資金を借り入れて投資を行うことは非常に重要ですから、債権者保護があって借り入れがしやすいことは株主にとっても利益になります。

 結局はこうした資本金制度があることによって「株主がお金を出し、ときには債権者からお金を借りて、取締役が事業を行う」という株式会社制度が円滑に回ることになるわけです。

 

5.資本金制度の意義を意識しない理由

 ここで注意なのは資本金制度が債権者保護として働くのは基本的に配当制限の意味でだけだということです。

 仮に1億円の資本金で事業をはじめたとしても、毎年1,000万円の給与や地代を支払って全く売上がないまま10年経てば会社の資産は無くなります。資本金が1億円あるから1億円相当の財産を必ず保有しているわけではありません。

 もちろん、資本金が小さいよりは大きい方が財産を持っている可能性は高いかもしれないくらいのことは言えますが、そういう局面に関しては資本金は直接的な意味を持たず、問題になるのはあくまでも配当を考えるときです。

 そしてこのことが、会計事務所が資本金の意義を意識しにくい理由なのではないかと思います。というのも多くの中小企業は「株主=経営者」であり、配当を出すのではなく役員報酬という形でリターンを受け取るからです。また会社の資金が不足して株主(経営者)が個人のお金を会社に追加で提供する場合にも、普通は出資ではなく一時的な貸付の形をとります。

 そうするとそもそも配当についての実務を行いませんし、極端な場合では株主も債権者も取締役も同じ人物となり、それらの利害調整などという観念は頭に浮かびづらいと言えます。

 しかしそれらはあくまでもたまたま同じ人物が複数の役割に当てはまっているというだけなのですから、原理原則が何かは大切ですね。

 

6.参考文献

 本稿は下記の2冊を参考にしました。伊藤真先生の本は導入にいいのはもちろん、顧問先への説明でも参考になります。リーガルクエストの踏み込み具合は非常にちょうどよくて、税理士が参照する基本書に適していると思っています。

 

*1:もちろん、実際の中小企業では経営者(であり株主)が個人保証に入っている場合が多いですが。

*2:厳密には、準備金や分配可能額の計算についての議論があるためもう少し複雑です。