租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

租税法

申告をしたから取引の内容が決まるわけではない

税金の申告って、重要ですが、取引社会にとっては二次的なものといいますか…。 債務免除やら株式の移動やら、過去に行ったものとされている取引について、後から当事者の意思をよくよく確認してみると「実は債務免除したつもりはなかった」「実は株の贈与の…

〔書籍〕『租税史回廊』

中里先生のエッセンス詰め合わせ 中里実『租税史回廊』(税務経理協会2019) 税経通信の同名連載を書籍化したもの。書名から重厚・無機質な歴史の記述が続くのかと思っていましたがそうではなく、むしろ歴史に関する記述は4分の1程度で終わります。残りのほ…

〔書籍〕『小説で読む租税法―租税法の基本を学ぶロースクールの授業』

小説で読むシリーズ待望の租税法編 木山泰嗣『小説で読む租税法―租税法の基本を学ぶロースクールの授業』(法学書院2020) 木山先生の著作は全体的に難しいことをわかりやすく解説した良書ばかりですが、その中でも「小説で読む」シリーズは特に思い入れがあ…

租税法入門書のおすすめ

1.よくわかる税法入門 独習で租税法に入門するのにおすすめの本は何かと聞かれたのでせっかくだからブログにも書きます。色々読んできましたし「こういう場合にはこう、こういう人にはこう」と書きたいところですがそういう情報はかえってわかりづらいので…

〔書籍〕『ホームラン・ボールを拾って売ったら二回課税されるのか』

浅妻章如『ホームラン・ボールを拾って売ったら二回課税されるのか』(中央経済社2020) 1.二重課税を鍵に課税を考える エッジの効いた知性と発言という印象のある、浅妻章如立教大学教授(ウェブサイト・Twitter)による初の単著だそうです。 タイトルは…

租税回避の実在性と妻のジョーク

最近「租税回避」が気になっています。 租税回避というのは考えてみると非常に不思議な概念です。例えば雑談レベルの会話では「こないだのA社の税務訴訟、やっぱり租税回避だと認定されて追徴税額払ったらしいね」とか「このB社の取引、実際のところ租税回避…

税理士と憲法

憲法記念日にちなんで憲法の話題でも。 我々税理士と憲法との関わりといえば、なんといっても租税法律主義です。 憲法84条は「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」と規定します。さすがに…

実はもう一般的否認規定の世界に住んでいる?

租税回避に対する一般的否認規定の導入は近年ホットなトピックとなっています。*1 世界の先進国では既に一般的否認規定の導入が進んでいるということで、日本でもゆくゆくは導入されることになるのではないかと見られているようです。日本では現状同族会社や…

減価償却の自己金融効果というまやかし

今、ある法人税法の本を楽しく読んでいるところなのですが、損金の章に「減価償却の自己金融効果」の話が出て来てげんなりしてしまいました。 私はこの減価償却の自己金融効果というやつが、どうしても意味がわかりません。資金の流出を伴わない費用だから減…

「租税法」と「税法」

法分野としての税の勉強を始めて誰しも疑問に思うのが 「租税法」と「税法」ってどう違うの? というものかと思います。結論から言えばどちらも税に関する法領域を指す一般的な言葉であって、厳密にどちらがどういう意味、というのは決められていないと思い…

税務における法的思考と会計的思考

税務実務は法的思考を尊重すべき 税務の現場にいてよく思うのが、税理士の実務では簿記の仕訳で考える会計的な思考が強く、良くも悪くも法的な思考は前面に出てこないということです。 これはそもそも税理士に法学部出身者が少なく、多くは経営学部・商学部…

〔書籍〕金子宏『租税法〔第22版〕』

ブログをはじめて最初の記事に何を書くかは悩むところですが、書籍の紹介などもやっていきたいので、やはりこの本をまず紹介しておくことにしました。 租税法、基本書中の基本書 この本とは、租税法学の世界で最も権威ある金子宏先生(東京大学名誉教授)に…