インボイス制度が始まるということでインボイス登録をした事業者が、なんらかの事情でインボイスの登録を取り消して免税事業者になりたいというケースがちらほら出てくる頃かと思います。
この点、結論からいうと免税になりたい課税期間の初日の前日の15日前までに取消の届出を出せばその課税期間から免税事業者になることができます*1。
しかし小規模事業者に係る納税義務の免除を定める消費税法9条を読むだけでは「いつの時点で」適格請求書発行事業者でない必要があるのかわかりにくいように思いました。
(小規模事業者に係る納税義務の免除)
第九条 事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が千万円以下である者(適格請求書発行事業者を除く。)については、第五条第一項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れにつき、消費税を納める義務を免除する。ただし、この法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
以上のように基準期間における課税売上高が1千万以下の課税期間は納税義務が免除されますが、この対象となる「者」からは適格請求書発行事業者が除かれています。
ただこの規定を日本語的に読んだとき、納税義務の免除は課税期間単位で見るのがわかりやすいのに対して、適格請求書発行事業者であるか否かについてはわかりにくいように思います。
例えば、課税売上高はずっと1千万以下だとして、第3期という課税期間について決算申告をするのは第4期中ですが、第4期首から適格請求書発行事業者になったような場合はどう読み込むのでしょうか。
第3期の納税義務を考えて条文を頭から読むと「事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が千万円以下である者」には該当するものの続く括弧書きの「適格請求書発行事業者を除く」については、申告書作成時点では適格請求書発行事業者にあてはまってしまっているが……という屁理屈のような話にもなりかねないような気がします(逆に登録を取り消す場合も然り)。もちろんそれでは結論がおかしいのでそうではないと考えるわけですが、ではじゃあいつの時点で考えるのか、それをこの条文の文理からどう読むのか。
ちなみに「適格請求書発行事業者」の定義は2条1項7の2で、ここにも時系列に関する限定はありません。
七の二 適格請求書発行事業者 第五十七条の二第一項の規定による登録を受けた事業者をいう。
適格請求書発行事業者の登録や取り消しについては57条の2に定められています。途中を省略して引用します。
(適格請求書発行事業者の登録等)
第五十七条の二 国内において課税資産の譲渡等を行い、又は行おうとする事業者であつて、第五十七条の四第一項に規定する適格請求書の交付をしようとする事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)は、税務署長の登録を受けることができる。
2 前項の登録を受けようとする事業者は、財務省令で定める事項を記載した申請書をその納税地を所轄する税務署長に提出しなければならない。この場合において、第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者が、同項本文の規定の適用を受けないこととなる課税期間の初日から前項の登録を受けようとするときは、政令で定める日までに、当該申請書を当該税務署長に提出しなければならない。(…)
10 適格請求書発行事業者が、次の各号に掲げる場合に該当することとなつた場合には、当該各号に定める日に、第一項の登録は、その効力を失う。
一 当該適格請求書発行事業者が第一項の登録の取消しを求める旨の届出書をその納税地を所轄する税務署長に提出した場合 その提出があつた日の属する課税期間の末日の翌日(その提出が政令で定める日の翌日から当該課税期間の末日までの間にされた場合には、当該課税期間の翌課税期間の末日の翌日)
二 当該適格請求書発行事業者が事業を廃止した場合(前条第一項の規定により同項第三号に掲げる場合に該当することとなつた旨を記載した届出書を提出した場合に限る。) 事業を廃止した日の翌日
三 当該適格請求書発行事業者である法人が合併により消滅した場合(前条第一項の規定により同項第五号に掲げる場合に該当することとなつた旨を記載した届出書を提出した場合に限る。) 当該法人が合併により消滅した日
いつから効力を失うのかなどについて規定されてはいますが、この条文を読んでも9条との関係は判然としません。
残念ながら結局、自分の頭では、通達で補わなければこの部分の意味を抽出できませんでした。この点について書いてあるのが消費税法基本通達1-4-1の2です。登録の取り消しについてはなお書き以降。
(適格請求書発行事業者における法第9条第1項本文の適用関係)
1-4-1の2 適格請求書発行事業者は、その登録日の属する課税期間以後の課税期間については、法第9条第1項本文《小規模事業者に係る納税義務の免除》の規定の適用はないことに留意する。
なお、適格請求書発行事業者の登録(法第57条の2第1項《適格請求書発行事業者の登録等》に規定する「登録」をいう。以下同じ。)を受けていないとすれば法第9条第1項本文の規定の適用がある事業者が、その適用を受けるには、その適用を受けようとする課税期間の初日から起算して15日前の日までに、法第57条の2第10項第1号《適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める場合の届出》に規定する適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書の提出が必要となる。
9条適用除外の起点については「登録日の属する課税期間以後の課税期間」、終点つまり9条適用で免税になる場合については「その適用を受けようとする課税期間の初日から起算して15日前の日までに」登録取消の届出を提出した場合、とのことです。
消費税の届出にありがちな注意点ですが、この「15日前」は申告期限ではなくその場合に翌課税期間から効力が失われるということなので、土日祝日であっても延びるわけではなくその日程までに届出を提出しなければならないことに注意が必要です。
*1:課税事業者選択届出書により課税事業者になっている場合はその取り扱いにも注意する必要あり。
