租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

2018-01-01から1年間の記事一覧

配偶者が青色申告をしている場合の配偶者控除の判定と年末調整書類の記載

1.青色の65万円を引く前か後か 改正があって色々とややこしいことになっている配偶者控除ですが、納税者自身の合計所得金額が900万円以下で、配偶者の合計所得金額が38万円以下であればこれまで通り38万円の配偶者控除が適用されます。この部分をつかまえ…

〔書籍〕租税法を抽象する―岡村・酒井・田中『租税法』

岡村忠生・酒井貴子・田中晶国『租税法』(有斐閣2017) 租税法の要点を凝縮した基本書 本書は岡村忠生・酒井貴子・田中晶国各先生によるコンパクトな租税法の基本書です。コンパクトな基本書といっても本書のはしがきに「基本的であることと、理解が容易で…

会計事務所初心者向け決算・申告書作成の手引き本

1.意外にセオリーのない「決算」という業務 筆者が会計事務所(税理士事務所)に就職した当初困ったことのひとつに、「決算」及び「申告書の作成」という業務についてこれといったセオリーやマニュアルがないことがあります。 仮に簿記論や法人税法の試験…

理事等の役員に年に一度支給する報酬の事前確定届出

一般社団法人ナントカ協会といった団体で、理事や監事に多数の人が名を連ねており、毎月給与を払ったりはしないけれども、年に一度理事会やら総会を開いてお車代程度の意味合いで各人に5万円とかの報酬を支払う、といったケースは「あるある」かと思います。…

現物給与として支給する物品の購入は課税仕入れになる

給与の支給が支払者にとって課税仕入れにならないことは言うまでもありません。 これに伴って(?)、例えば交際費や福利厚生費が税務調査において給与認定されると、(源泉徴収義務が発生し役員給与であれば損金不算入の加算調整が必要になるのと同時に)消…

法人から個人への名義変更プランの課税関係についてのメモ(後編)

※2021年9月追記 本記事で議論している名義変更プランについては通達で手当てがされ、(率直な言い方をすれば)脱法的な個人への利益移転としては使えなくなりました。 具体的には、解約返戻金が資産計上額の7割未満となる保険の価額は資産計上額で評価するこ…

法人から個人への名義変更プランの課税関係についてのメモ(前編)

※2021年9月追記 本記事で議論している名義変更プランについては通達で手当てがされ、(率直な言い方をすれば)脱法的な個人への利益移転としては使えなくなりました。下記の記事をご参照ください。 taxlawlabyrinth.hatenablog.com 1.名義変更プランの概要…

高額特定資産の取得に関する規定のおさらい

簡易課税の選択の検討をしていて、初めて高額特定資産の規定にひっかかることに気が付きました。 高額特定資産を取得した場合の規定というのは消費税法の平成28年改正における目玉と言われたものです。 このあたりの消費税の部分的な租税回避規定は体系性が…

相続人ごとに異なる相続税申告書の提出

先日顧問先で打ち合わせをしていて、相続人ごとにそれぞれ(別々に作成した)相続税の申告書を提出することは可能か、という話になりました。 結論から言えば可能です。 実務ではひとつの申告書に相続人全員が署名・押印した申告書を見ることがほとんどかと…

〔書籍〕神野直彦『経済学は悲しみを分かち合うために』

先日とある場所で財政学者(東京大学名誉教授)の神野直彦先生の講義を受ける機会があり、そこで神野先生が最近『経済学は悲しみを分かち合うために』という書籍を上梓されたことを知りました。 神野先生といえば言わずと知れた財政学分野の権威です。私も学…

事前確定届出給与による節税策について

役員給与は期首に決めておかなければ損金にならないのが原則です。 賞与のような雰囲気で支給される事前確定届出給与も、文字通り事前に確定させておいたものが損金になるに過ぎません。しかもこれに関する判定はけっこうシビアで、例えば100万円と届出てお…

簡易課税の場合における棚卸調整非適用の条文操作

消費税において免税事業者から課税事業者に切り替わったとき、免税事業者である期間中に仕入れた期首棚卸資産があると、これに係る消費税額は仕入れに係る消費税額に足し込むことになります。 消費税法の試験では重要度が高くない論点だったように記憶してい…

事前確定届出給与にする理由

周知の通り、現行の法人税法では役員給与に対する種々の損金算入規制がなされており、通常の役員給与でその規制を受けないのはおおまかには①定期同額給与②事前確定届出給与③業績連動給与の3類型に限られます。 今回取り上げたいのはこのうち事前確定届出給与…

税理士にとっての租税回避概念の使い道

前回の記事に続いて租税回避の話題で。 講学上の租税回避の議論は、前回もうにゃうにゃ論じたように、かなり抽象的で現実の税務とは距離があるようにも思えます。 しかし、私見としては、中小企業の税務を行う税理士にとっても租税回避をめぐる議論を学び、…

租税回避の実在性と妻のジョーク

最近「租税回避」が気になっています。 租税回避というのは考えてみると非常に不思議な概念です。例えば雑談レベルの会話では「こないだのA社の税務訴訟、やっぱり租税回避だと認定されて追徴税額払ったらしいね」とか「このB社の取引、実際のところ租税回避…

税理士と憲法

憲法記念日にちなんで憲法の話題でも。 我々税理士と憲法との関わりといえば、なんといっても租税法律主義です。 憲法84条は「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」と規定します。さすがに…

実はもう一般的否認規定の世界に住んでいる?

租税回避に対する一般的否認規定の導入は近年ホットなトピックとなっています。*1 世界の先進国では既に一般的否認規定の導入が進んでいるということで、日本でもゆくゆくは導入されることになるのではないかと見られているようです。日本では現状同族会社や…

〔書籍〕渡辺徹也『スタンダード法人税法』

※本記事執筆後に第2版が出ました 法人税法の条文解釈と制度趣旨がわかりやすく学べる好著 所得税法の学習書として完全に定番となっているものに佐藤英明先生による『スタンダード所得税法』がありますが、法人税法については計算の説明をした「税務会計」の…

減価償却の自己金融効果というまやかし

今、ある法人税法の本を楽しく読んでいるところなのですが、損金の章に「減価償却の自己金融効果」の話が出て来てげんなりしてしまいました。 私はこの減価償却の自己金融効果というやつが、どうしても意味がわかりません。資金の流出を伴わない費用だから減…

ワタシの税理士試験改革案

税理士試験はもっとこうしたほうがいい、ああしたほうがいい……というのは散々言われていることかと思いますので、さらにああだこうだと加えるのは余計なことのようにも思われます。 とはいえ、やはり自分なりに思うところを言ってみたい部分はありますので、…

「租税法」と「税法」

法分野としての税の勉強を始めて誰しも疑問に思うのが 「租税法」と「税法」ってどう違うの? というものかと思います。結論から言えばどちらも税に関する法領域を指す一般的な言葉であって、厳密にどちらがどういう意味、というのは決められていないと思い…

生命保険の実質返戻率は意味不明

税理士の仕事と切っても切れない関係にあるのが保険(ここでは特に法人で契約する生命保険)です。いざというときのための保障はもちろんのこと、福利厚生や退職金の積み立て、果ては節税目的まで、様々な場面で保険と関わることになります。 そんな中、以前…

税務における法的思考と会計的思考

税務実務は法的思考を尊重すべき 税務の現場にいてよく思うのが、税理士の実務では簿記の仕訳で考える会計的な思考が強く、良くも悪くも法的な思考は前面に出てこないということです。 これはそもそも税理士に法学部出身者が少なく、多くは経営学部・商学部…

〔書籍〕金子宏『租税法〔第22版〕』

ブログをはじめて最初の記事に何を書くかは悩むところですが、書籍の紹介などもやっていきたいので、やはりこの本をまず紹介しておくことにしました。 租税法、基本書中の基本書 この本とは、租税法学の世界で最も権威ある金子宏先生(東京大学名誉教授)に…

当ブログについて

ブログをはじめた動機 はじめまして。日本のどこかで税理士をやっている者です。ハンドルネームは「眼鏡税理士」としておきます。この度租税法及び税実務について自分が勉強した情報を整理したり自分なりに情報を発信するブログを立ち上げることにしました。…

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