租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

事前確定届出給与による節税策について

役員給与は期首に決めておかなければ損金にならないのが原則です。

賞与のような雰囲気で支給される事前確定届出給与も、文字通り事前に確定させておいたものが損金になるに過ぎません。しかもこれに関する判定はけっこうシビアで、例えば100万円と届出ておいて120万円支給したら、差額の20万円ではなく120万円全額が損金不算入となります。少額支給でも全額が否認です。

また、職務執行期間をひとつの単位として見るため、夏と冬に支給を設定しておいて夏には予定通り支給し冬には少額で支給した場合、夏を含めた全額が損金不算入になることが知られています。

これらは要するに「役員給与を使った利益調整を許さない」という趣旨のための取り扱いと言っていいでしょう。

しかし事前確定には極めて素朴な疑問があります。それは、例えば100万円なら100万円と届け出ておけば、期末近くになって利益が出ていると思ったら予定通り支給し、利益が出ていなければ支給しないことで、100万円か0円かという不自由さの中で事後的な利益調整が出来てしまうのではないかということです。

これはもちろん私のひらめきではなく、ネット上ではこれで利益調整ができると明確に書いているものも散見されます。会社の機関で決議されている以上役員に報酬の請求権が確定して源泉課税の問題が生じる(所法36条、所基通達28-10参照)から事前に辞退の届は出しましょうとか、実務的な手続きが確立されているかのような口ぶりのものすらあります。

素朴に条文から仕組みを説き起こした場合、このような部分的利益調整を否認することは難しいと思われます。何故なら、支給が0円であれば、否認するものがないからです。否認のしようがありません。

しかし、事後的な利益調整を許さないという役員給与税制の趣旨から考えてこれは極めて奇妙です。法の欠缺なのかもしれませんが、私としては大手を振って「こんな節税策がありますよ!」と顧問先に宣伝する気にはどうしてもなれません。法の趣旨を逸脱・濫用した規定の利用だと思えるからです(繰り返しますが、かといって、支給がない期に否認ができるのかについては疑問です)。

他方で、確定した報酬請求権を役員が放棄するということは会社に債務免除益のようなものが発生するという法律構成を説く記事もあります。これはどうなのでしょうか。

債務免除というからには、その前に一度債務の発生を観念しなければなりません。仕訳で言えば「役員給与/未払金」でしょうか。それが「未払金/債務免除益」となるわけです。このある種費用収益両建ての仕訳で、結局は所得への影響はゼロにも見えます。ただし、費用の方が未払いで事前確定に該当せず損金不算入となる、というのはもしかしたらあり得る法律構成なのかもしれません。しかし、いかにも否認のためのこじつけ的な構成ようにも思えます。

この「節税策」については謎が多いです。いっそのこと訴訟で争ってほしいとすら思ってしまいます。