租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

2020-01-01から1年間の記事一覧

〔書籍〕『租税史回廊』

中里先生のエッセンス詰め合わせ 中里実『租税史回廊』(税務経理協会2019) 税経通信の同名連載を書籍化したもの。書名から重厚・無機質な歴史の記述が続くのかと思っていましたがそうではなく、むしろ歴史に関する記述は4分の1程度で終わります。残りのほ…

法人成りの研究(3)「節税」から「社会保険料の節約」へ

ミニマム法人あるいはマイクロ法人 前回は「税金だけでなく社会保険負担も踏まえた上で、どのくらいの所得なら法人成りをするのが得か」を計算しました。結論は、所得3,100万円以上という高いハードルでした。 taxlawlabyrinth.hatenablog.com 法人成りのハ…

〔書籍〕『小説で読む租税法―租税法の基本を学ぶロースクールの授業』

小説で読むシリーズ待望の租税法編 木山泰嗣『小説で読む租税法―租税法の基本を学ぶロースクールの授業』(法学書院2020) 木山先生の著作は全体的に難しいことをわかりやすく解説した良書ばかりですが、その中でも「小説で読む」シリーズは特に思い入れがあ…

法人成りの研究(2)税・社会保険負担の比較

前回の記事の続きです。前回は先行研究とネット上の説などを紹介しましたが、今回は自分なりに計算していきます。 taxlawlabyrinth.hatenablog.com 計算のアプローチ 今回の計算では「ビジネスによって得た収入から必要経費を引いた金額」を全ての基準としま…

法人成りの研究(1)導入編

問題意識 世の中ではよく「個人事業主も儲かってきたら法人化した方が節税になるよ」「フリーランスも所得〇〇円からは法人設立を検討した方がいいらしい」などと言われます。 税理士としてお客様からの相談も時折ありますが、実際どのくらいの所得があれば…

年末に年末調整制度について考える

税制審議会答申 『税理士界』第1395号に掲載されていた日税連から「税制審議会」への諮問に対する答申「源泉徴収制度のあり方について―令和元年度諮問に対する答申―」を読みました。 税制審議会は(特別委員)金子宏東大名誉教授を会長、中里実東大名誉教授…

〔書籍〕『本当の自由を手に入れるお金の大学』

マネーリテラシー第一歩に圧倒的オススメ 両@リベ大学長『本当の自由を手に入れるお金の大学』(朝日新聞出版2020) 正直紹介していいものなのか若干迷いましたが、紹介します。 本書『本当の自由を手に入れるお金の大学』はSNS等でお金に関する情報を発信し…

税理士から見た中退共・特退共

制度の概要 顧問先から「従業員のために退職金制度を作りたいと思っているが、どのようなものが考えられるか」という相談を受けたことがあります。 その際に自分は中小企業退職金共済をオススメしました。似たものに特定退職金共済があります。 制度をざっく…

「副業収入20万円以下なら確定申告不要」の注意点

「センセー、今年〇〇の収入があるんですけど、確定申告必要ですかね?」といった会話をする季節になってきました。 ここで、給与所得者が給与所得以外の所得が20万円以下なら確定申告不要(所得税法121条)の規定を適用することは実務上結構多いかと思いま…

法人成りの新展開

2種類の法人成り観 興味深い論文を目にしたので、今回はそれをテーマに。日本証券経済研究所のウェブサイトで公表されている田近栄治先生の論文です。 事業体選択と社会保険料—増大する社会保険料への事業主の対応と帰結— この論文ではイギリスで横行してい…

税理士という存在の経済的背景と顧問料の考え方

顧問料は”節税”に見合うべきか 以前(顧問先ではない)知り合いの経営者に「どうなの? 税理士と顧問契約すると、顧問料以上に節税効果出してくれるの?」と聞かれたことがあります。*1 素朴に考えるとそのような疑問が浮かぶ気持ちはわかります。しかし例え…

確定決算主義のお勉強

合同会社と確定決算 くどいようですが合同会社のことを考えています。以前に書いたように、合同会社には(デフォルトでは)株式会社でいう「株主総会」にあたる意思決定機関がそもそも存在しません。 そこで法人税法の確定決算主義(74条)との問題が起こる…

合同会社の税務周りの話(5)

合同会社の税務周りの話(1) 合同会社の税務周りの話(2) 合同会社の税務周りの話(3) 合同会社の税務周りの話(4) 合同会社の税務周りの話(5)←イマココ その4で終わるつもりでしたが追加編。 ☆合同会社のポイント⑪ 損益分配の計算と利益配当可…

合同会社の税務周りの話(4)

合同会社の税務周りの話(1) 合同会社の税務周りの話(2) 合同会社の税務周りの話(3) 合同会社の税務周りの話(4)←イマココ 合同会社の税務周りの話(5) 前回からの続きです。税理士事務所目線で合同会社の面白いところを書いています。 ☆合同会…

合同会社の税務周りの話(3)

合同会社の税務周りの話(1) 合同会社の税務周りの話(2) 合同会社の税務周りの話(3)←イマココ 合同会社の税務周りの話(4) 合同会社の税務周りの話(5) 前回からの続きです。税理士事務所目線で合同会社の面白いところを書いています。 ☆合同会…

合同会社の税務周りの話(2)

合同会社の税務周りの話(1) 合同会社の税務周りの話(2)←イマココ 合同会社の税務周りの話(3) 合同会社の税務周りの話(4) 合同会社の税務周りの話(5) 前回からの続きです。税理士事務所目線で合同会社の面白いところを書いています。 ☆合同会…

合同会社の税務周りの話(1)

合同会社の税務周りの話(1)←イマココ 合同会社の税務周りの話(2) 合同会社の税務周りの話(3) 合同会社の税務周りの話(4) 合同会社の税務周りの話(5) 最近関与先で合同会社がちらほら増えてきました。主に、個人事業主の法人成りというか、ス…

資本金とは何か

1.資本金の説明試論 先日事務所の職員さんとの会話で、そもそも資本金とは何か?といったあたりの話になりました。 税務会計人からすれば例えば資本取引と損益取引を区分することは適正な課税所得を計算する上で重要ですし、資本金が1,000万円を超えていた…

くれぐれも特定新規設立法人にご用心

消費税の「特定新規設立法人」の規定、みなさんもう慣れましたか? ものすごくざっくり言うと「新しい法人を設立したとき、支配株主や関係者に課税売上5億円超のものがあると新設法人も1期目から課税事業者になる」というものです。 わかりやすい例では課税…

『数理法務概論』を読む(6)ミクロ経済学

『数理法務概論』、第6章はミクロ経済学。 第6章 ミクロ経済学 1 概説 2 競争市場の理論 3 消費者が有する情報の不完全性 4 独占とこれに関連する市場行動 5 外部性 6 公共財 7 厚生経済学 8 読書案内 80頁のほどの分量を割いてミクロ経済学の概要…

『数理法務概論』を読む(5)ファイナンス

『数理法務概論』、第5章はファイナンス。 第5章 ファイナンス 1 概説 2 ファイナンス理論の基礎 3 貨幣の時間的価値 4 コーポレート・ファイナンスの重要概念 5 資産の価格決定 6 読書案内 良い悪いは別にして、どうしてこういう書き方になったのか…

租税法入門書のおすすめ

1.よくわかる税法入門 独習で租税法に入門するのにおすすめの本は何かと聞かれたのでせっかくだからブログにも書きます。色々読んできましたし「こういう場合にはこう、こういう人にはこう」と書きたいところですがそういう情報はかえってわかりづらいので…

『数理法務概論』を読む(4)会計

『数理法務概論』、第4章は会計。 第4章 会計 1 概説 2 三つの基本書類 3 複式簿記と財務諸表 4 会計の諸原則 5 会計の法制度 6 財務諸表分析 7 読書案内 本章では制度会計と財務諸表分析について概観しています。 会計についての知識そのものに新…

『数理法務概論』を読む(3)契約

『数理法務概論』、久しぶりになってしまいましたがしぶとく続けます。第3章は契約。 第3章 契約 1 概説 2 なぜ契約が締結されるのか 3 契約書作成の基本原則と留意点 4 製造物供給契約 5 代理契約 6 その他の契約類型 7 契約紛争の解決方法 8 契…

「社会保険料と年金制度」『財政と金融の法的構成』

中里実『財政と金融の法的構造』(有斐閣2018)より、本日は第7章第1節「社会保険料と年金制度」。 本節は本書の中で最も古く書かれた論文(1997年)であり、正直本書の他の部分との関りは薄いです。 妥当な年金制度が主に経済的な観点から議論され、その議…

「議会の財政権」『財政と金融の法的構成』

中里実『財政と金融の法的構造』(有斐閣2018)より、本日は第5章第2節「議会の財政権」。元論文はフィナンシャル・レビューでオープン(PDF)です。 前節の「租税法律主義は議会の財政権に基づく」という指摘を敷衍し、歴史的な視点と外国の学説を通じて「…

「議会の財政・金融権限と名誉革命」『財政と金融の法的構成』

中里実『財政と金融の法的構造』(有斐閣2018)より、本日は第5章第1節「議会の財政・金融権限と名誉革命」。 財政と合わせて金融の議会的統制を考えることの重要性を説いた節です。 特に財政軍事国家という中世ヨーロッパの観念をもとに金融制度がイングラ…

「主権国家の成立と課税権の変容」『財政と金融の法的構成』

中里実『財政と金融の法的構造』(有斐閣2018)より、本日は第2章第1節「主権国家の成立と課税権の変容」。 驚異の外国文献炸裂セクション。本節の初出は2014年の『租税法と市場』ですが、買ってきて「よーし頑張って読むぞー」と思った気持ちが序盤の本論文…

「憲法が前提とする憲法以前の法概念・法制度」『財政と金融の法的構成』

中里実『財政と金融の法的構造』(有斐閣2018)より、本日は第3章第2節「憲法が前提とする憲法以前の法概念・法制度」。 憲法学でいわゆる制度的保障として議論されるような事柄を租税法学の「借用概念」の議論を援用することで少し異なる見方で整理する面白…

「財政法の2つの側面」「財政の再定義」『財政と金融の法的構成』

中里実『財政と金融の法的構造』(有斐閣2018)より、本日は第1章「財政法の2つの側面」と「財政の再定義―財政法の実体法化と経済学」。後者の元論文はフィナンシャル・レビューでオープン(PDF)です。 この第1章では議会の財政権と国家の財産権を論じるの…