租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

「社会保険料と年金制度」『財政と金融の法的構成』

 中里実『財政と金融の法的構造』(有斐閣2018)より、本日は第7章第1節「社会保険料と年金制度」。

 

 

 本節は本書の中で最も古く書かれた論文(1997年)であり、正直本書の他の部分との関りは薄いです。

 妥当な年金制度が主に経済的な観点から議論され、その議論は骨太で今日でも大変参考になりますが、ここまで議論されてきた議会の財政権によるコントロールや租税法律主義の本質との関りといった問題は(ほぼ)議論されておらず、オマケ的な性格が強いです(読者としてはお得感があります)。

 それにしても、税理士は税制についてはある程度実定法を離れた本質論にも馴染みがあるかもしれませんが、年金制度についてはそうでもない人が多いのではないでしょうか。顧問先との雑談でここで議論されているようなことをさらっと言えるとかっこいいのではないかと個人的には思いました。

 例えば「年金は若い時に払った分将来もらえるもの。今は日本が将来どうなるかわからないけど」くらいの素朴な観点で話をする人はたくさんいるかもしれませんが下記のことを正面から考えたことってありますでしょうか。

 年金制度の目的は、あくまでも高齢者に対する給付という支出面にこそある(年金制度は、支出そのものにより政策目的を達成しようとするものである)はずであり、社会保険料の徴収は、そのような給付をまかなうための収入面における1つの選択肢として選択されたにすぎないものと考えるべきであろう。(287頁)

  本節の要点はまさにこの点を踏まえて積み立て方式がいいのか賦課方式がいいのか一般財源方式がいいのか……といったあたりの議論になります。租税との関りを理解する上でも非常に重要な部分となりますね。

 

 さて、自分のやる気の刺激と進捗管理として一節一節このブログにメモを書いてきましたがこれでなんとか『財政と金融の法的構造』を通して読むことができました。一生読めないかと思っておりましたので少し達成感を覚えております。

 正直内容的に「読めて」いないことは明らかですがそんなのは当たり前のことで、一応文字をなぞった上で本書の視座を脳内にインストールし、それをどこかに留めながら今後の勉強を進めていくことが重要かなぁと思っております。*1

 次は『租税史回廊』でしょうか。その前に少し抽象度の低い実務的な本を挟もうかどうしようか……。

 

*1:そもそも本書は特定の論点について結論めいたものを提示しているものではありませんし。