租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

「憲法が前提とする憲法以前の法概念・法制度」『財政と金融の法的構成』

 中里実『財政と金融の法的構造』(有斐閣2018)より、本日は第3章第2節「憲法が前提とする憲法以前の法概念・法制度」。

 

 

 憲法学でいわゆる制度的保障として議論されるような事柄を租税法学の「借用概念」の議論を援用することで少し異なる見方で整理する面白い論考です。

 中里先生は憲法が全ての制度を創設する包括的なものではなく、人権と統治について定めるのみでその他の多くを憲法外の法概念・法制度に委ねているとする見方を提示します。*1

 租税法学から法学に入っている人間としては租税法学のアイデア憲法の根本理解に用いられるというのは刺激的ですね。

 もっとも、それを私法と考えるのか普通法と考えるのかソフト・ローと呼ぶのかというニュアンスや呼び方の違いはあれど、憲法が既にある社会関係をある程度前提にしているのはむしろ当然なのではないかという気もしますし、それを借用概念で捉えることによってどのような議論上の実益があるのかという疑問はあります。

 これについて中里先生は、借用概念と捉えることのいわばコロラリーとして、借用元の法概念と同じように解するべきであるとする方針を導いておられるようです。

 このような重要な点が憲法学で議論されていないはずはなかろうと思うのですが、浅学によりどの辺の議論がこれに該当するのかはあまりよくわかりませんでした。もう少し日本の憲法学の文献の引用があると(不勉強な自分としては)嬉しかったところですが、基本書をあたってみます。

 また何より重要なのはこの議論が「中央銀行の法的統制に関する研究の準備作業(135頁)」である点です。本節の最後に中央銀行について若干の検討が行われていますが、そこでは日本銀行が金融政策という政策を担いながら独立性が保証されているため財政民主主義(国会のコントロールからして位置付けが微妙であることが議論されています。

 財政と金融を一体に考える場合この点は「財政と金融の法的構造」を考える上でも実体的な経済を考える上でも極めて重要な問題であるように思われ、本節はその分析に関する基本的な視座を提供しています。

 ちなみに日本銀行の法的地位について脚注で引用されている論文でオープンのものがあったので自分用にリンクを貼っておきます。塩野宏、神田秀樹、宇賀克也、安念潤司斎藤誠各氏という物凄いメンバーの研究会です。

 

公法的観点からみた中央銀行についての研究会「公法的観点からみた日本銀行の業務の法的性格と運営のあり方」金融研究第18巻第5号(1999)

 

公法的観点からみた中央銀行についての研究会「公法的観点からみた日本銀行の組織の法的性格と運営のあり方」金融研究第19巻第3号(2000)

 

 なお研究報告には「業務」と「組織」があり、本書の脚注で文章として書かれているのは「業務」ですがURLの記載は「組織」の方になっているようです。まぁ、どちらも大事そうなので両方載ってよかった(?)というところでしょうか。

 

*1:個人的なイメージとしては憲法が「光あれ」と言って天地創造したのではなく既に天地があったのを活かした的な。