租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

『数理法務概論』を読む(4)会計

 『数理法務概論』、第4章は会計。

 

 

第4章 会計

1 概説

2 三つの基本書類

3 複式簿記と財務諸表

4 会計の諸原則

5 会計の法制度

6 財務諸表分析

7 読書案内

 

 本章では制度会計と財務諸表分析について概観しています。

 会計についての知識そのものに新鮮な点はもちろんありませんが、法律家の視点を重視して説明されている点は興味深いところです。

 例えば偶発債務の注記などは会計プロパーの視点から言うと一般的には細部の問題であって入門的な教科書では説明はないと思いますが、企業の訴訟などを扱っている法律家にとっては偶発債務についてどう助言すべきかは重要な問題であることが指摘されています。

 あと説明の仕方で個人的に面白かったのは、複式簿記(T勘定)の記入と絡めて財務諸表の説明をしているところです。私見としては、このような説明は遠回りなようで結局は一番良いと思っています。*1

 また、その際も貸借対照表の説明だけから始めて損益は「株主資本」の増減としてまずは説明している点がユニークです。*2 その後で株主資本の増減をもっとわかりやすく表示する方法として収益勘定・費用勘定が導入されます。こうすると損益計算書貸借対照表の株主資本(のうち利益剰余金)の増減の内訳を表している書類であることがわかりますしひとつの原理から出発して両者を説明できますのでその意味で優れた説明法だと感じました。*3

 会計基準会社法に関する説明や登場する実際の企業の例が日本の企業に改められている点は訳者の大変な労力を感じます。本書の訳文は論理的に精巧ながら読みやすく本当に素晴らしいですね。

*1:ちなみに自分が持っている4刷ですと124頁下部の土地のT勘定の借方・貸方が逆になっています。土地を売却して減少したので借方に$50,000ではなく貸方に$50,000ですね。

*2:概念フレームワークみたいなものはともかく入門的な説明の仕方としては少なくとも日本ではあまり見ないと思うのですがアメリカではよくある方法なのでしょうか。

*3:もっとも、ただ単に損益計算書をわかりやすく理解したい人のための方法としては迂遠な感はあります。この説明の仕方で「なるほど営業利益は企業が本業で稼いだお金なのだな」といった感覚的な理解はやや難しいのではないでしょうか。