租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

合同会社の税務周りの話(3)

合同会社の税務周りの話(1)

合同会社の税務周りの話(2)

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合同会社の税務周りの話(4) 

合同会社の税務周りの話(5)

 

 前回からの続きです。税理士事務所目線で合同会社の面白いところを書いています。

 

合同会社のポイント⑤ 資本金の計上強制がない

 株式会社では出資のうち2分の1は資本金にしなければならない(残りは資本準備金)とする規定がありますが、合同会社にはこれがありません。

 つまり払込資本を増やしても資本金にしないことができ、それにより登録免許税を支払う義務もないことになります。ちなみに合同会社には資本準備金という計算上の区分が存在しないため、出資のうち資本金にしなかった金額は資本剰余金となります。

 また現物出資をした際の検査役の調査に関する規定もなくその点も柔軟になっています。例えば収益を生む資産を現物出資して全額資本剰余金に計上、という操作をすれば容易に合同会社を資産運用ビークルとすることができます(ただし出資者側に対する譲渡所得課税には要注意)。

 

合同会社のポイント⑥ 出資割合と損益分配割合を分けられる

 株式会社の場合保有している株数が議決権であり、配当を出すに際しても株主平等原則の下、株数に比例して配当がなされることになります(種類株式を別として)。

 しかし合同会社においては損益の分配の割合を自由に定めることができます。全体の出資額のうち99%を出している人が受ける利益の分配が1%でもいいわけです。また、利益と損失の分配をそれぞれ分けて決めることすら可能です。

 ちなみに分配の割合を定款で定めていない場合には出資の割合によるものとされ、利益または損失のどちらかについてだけ定款で割合を定めた場合には、利益・損失に共通の割合だと推定されます。

 ちなみに、例えば多く出資した人から少なく出資した人へ損益の分配が流れれば、それは税理士の肌感覚としては贈与や寄附金の色彩を強く帯びます。出資の割合で損益の分配を受けてから贈与したのと同じ結果になるからです。親が株式を現物出資して合同会社を設立し1%だけ出資した子供に99%分配する場面を考えると実質的に経済的利益の移転が起こることがわかりやすいでしょうか。

 もっともこれは株式数に応じた株主平等原則を持つ株式会社を前提に考えているからそのように思うのであって、出資者に対する平等原則が存在しない合同会社においてそうした擬制をすること自体が、観念的にであれ意味がないとも言えるのかもしれません。株式会社の役員報酬を働きと責任に応じて決めるように、損益の分配割合を利益への(出資額ではなく)貢献度合いで決めたとしてそこに経済的利益の移転は観念できないという考え方もあり得そうです。

 「配当ではなく損金になる報酬でやるほうが合理的ではないか」と思うかもしれませんがそれは税務どっぷりな目線からの指摘であって、私法上は特に報酬の方が合理的であるとする根拠もありません。むしろ合同会社の柔軟な設計(後述)を活かして法人の資金繰りを見ながら好きなときに配当を請求するというやり方は十分にあり得るように思います。

 太田先生の本でも課税リスクについては「課税関係が生じ得ると考えられる」*1と指摘はされていますが、具体的なことについては書かれていません。税理士会の研修でも学説や裁判例の蓄積がないようなことが言われていて、合同会社の税務に関する曖昧な領域と言わざるを得ないのでしょう。その中で太田先生は実績に応じた利益の分配など経済合理性の存在が重要である旨述べられています。税理士としては、リスクに備えてそのあたりの建付けを整理しておく必要があるでしょうし、逆に言えば現状そのくらいのことしか言えないのかなという印象です。

 

 

合同会社のポイント⑦ 損益の分配と利益の配当が異なる

 前述した「損益の分配」というのは会社の損益を社員に計算上割り当てるだけのことです。実際に配当としてお金を支払うこととは異なります。これも株式会社とは感覚が異なる部分です。

 株式会社では例えば利益が出た期に配当を決議して1株あたり50円といった決め方で全株主に対して株数に応じて平等に支払われることになります。

 これに対して合同会社では常に社員に対して損益の分配が行われていき、各社員の計算上の持分として溜まっていきます。そして社員にはいつでも利益の配当を請求する権利があり、あるときにA社員に配当したけどB社員には配当していないといったことも当然に起こり得ます。

 こうした配当実務に対応するために毎期毎期(もっといえば決算ごとではなく常に)各社員に損益を分配した結果の持ち分を計算しておかなければなりません。この点は株式会社には見られない発想の計算で、組合的な性格を持つ組織形態であることの表れのように感じます。

 ちなみにこの持ち分の計算に関しては特に決まった計算書の様式もなく、実務の慣行は確立されていないようです(→その5で試作してみました)。ここもやはり合同会社の曖昧領域となります。


 次の記事へ続きます。

 

*1:太田達也『〔改訂版〕合同会社の法務・税務と活用事例』168頁(税務研究会出版局2019)。