租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

合同会社の税務周りの話(4)

合同会社の税務周りの話(1)

合同会社の税務周りの話(2)

合同会社の税務周りの話(3)

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合同会社の税務周りの話(5)

 

 前回からの続きです。税理士事務所目線で合同会社の面白いところを書いています。


合同会社のポイント⑧ 出資の払い戻し/持分の払い戻し

 出資の払い戻し、退社による持分の払い戻しもやや独特です。

 退社とは合同会社の社員をやめることですが(会社から家に帰ることではありません)、この場合合同会社は(元)社員へ持分を払い戻すことになります。このとき、税務的には株式会社でいう自己株の取得のような税務を行うことになります。会社の純資産を減らし、みなし配当と譲渡損益の論点が出て来ます。仕訳などは太田先生の本で例解されています。

 そしてもちろん払い戻す持分というのは出資と帰属する損益ですから、前回の記事で書いたように各社員に対する持分が常に計算できていないと退社の実務に対応できないことになります。

 ちなみに合同会社においては社員の氏名住所は定款の絶対的記載事項ですから、社員に異動がある度に定款の変更が必要になります。株式会社に比べて内部的な手続きが簡易なイメージはありますが、この点についてはうるさいのが合同会社です。

 

合同会社のポイント⑨ 持分の相続税評価が定款の定め次第で変わる

 これも税理士的重要ポイントです。前提として、合同会社の社員としての地位は、相続によって当然には相続人に承継されません。株式会社は所有と経営が分離していてそれぞれの株式は株主平等原則の下に画一的な取り扱いを受けるだけですから株主の属人的な性質はあまり問題になりません。しかし合同会社では出資者=経営者ですから相続でパっと経営者が変わられてしまっては利害関係者にとって大問題です。

 したがって原則として、相続人は持分の払い戻し請求権を相続することになります。もう少し技術的に言うと社員の死亡は法定の退社事由であり、死亡した社員は退社したことによる払い戻し請求権を持ちます。相続人はその請求権を相続するという流れです。このため相続税の評価上は単なる金銭債権とならざるを得ません。

 一方、定款で持分を承継する(相続人が引き継いで社員となる)旨を定めることもでき、この場合の持分は取引相場のない株式の評価方法によって評価することになりますから、金額が変わってきます。この点、設立を司法書士に任せてボーっとしていると考慮から抜け落ちる危険がある部分ですから税理士側から積極的に助言を行うべき点であると思われます。

 

合同会社のポイント⑩ 安直な設立は……?

 合同会社の特色を見ていって総合的に感じるのは「設立費用が安いから」というその場の近視眼的な理由で会社形態として合同会社を選ぶのは案外リスクがあるということです。

 純粋な一人会社として用いるくらいであれば取り立てて問題になることはなく手軽でいい形態だと思いますが、知り合いと共同して事業を行う組織として設立するには、意思決定の方法や損益分配の割合に関して「良く言えば柔軟、悪く言えば曖昧」な部分が多くトラブルの種になりかねません。また退社が発生したときの払い戻しや随時の利益配当など独特な財務イベントも生じ、それらのマネージは一般人には難しいところがありそうです。*1

 これは人的な繋がりを重視した会社形態だから当然は当然なのですが、「仲良く話し合って決めよう」という合同会社の特色が、悪い場合にはどろどろとした争いを生んでしまうのではないかと懸念するところです。

 これが株式会社なら、株主総会が最高意思決定機関であり取締役はその委任を受けているに過ぎない、株主間の力関係も株数で決まる、といったようにはじめから仕組みが決まっているために意見の対立や感情的な齟齬が起きた際にも対処は決めやすくなります。事業を始めるときには仲良しでも途中で様々な変化が起こるのが世の中ですから、株式会社のシステマチックなドライさは各関係者を泥沼から守る防波堤のようにも見えます。

 合同会社の活用法に関しては個人的にはむしろSPCのビークルとしての使い方の方がイメージしやすく利点がわかりやすく活かされるような感想を持ちました。スモールビジネスならスモールビジネスで、最初から最後まで一人だけでやると割り切ったほうが安全であるように思います。ビジネスパートナーを入れるなら、出資や役員という観念を切り捨ててただの雇用や委任で契約するのみにするのが法的なしがらみが少なく実務的な問題もないのではないでしょうか。

 

*1:もちろん、あらゆる可能性に配慮して定款で規定を整備して自分たちの望む理想の会社組織に組み上げられる知識・想像力があるなら合同会社は素晴らしいと思います。そのレベルの人は設立費用を理由として合同会社形態を選ぶことはないでしょう。