租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

相続人が不存在の場合の準確定申告

確定申告をしていた納税者が年の中途で亡くなった場合、相続人が共同して4ヶ月以内に準確定申告をするのが通常の実務です。

では、相続人(になり得る親族)が全員相続放棄をしてしまったら準確定申告はどうなるのでしょうか。

結論として、このような場合、相続放棄をした親族に申告義務はありません。被相続人の財産は相続財産法人となって国庫に帰属(民法951条)し、家庭裁判所が選任する管理人が準確定申告の義務を負うこととなります。

 

所得税法125条1項を確認しておきましょう。

(年の中途で死亡した場合の確定申告)
第百二十五条 居住者が年の中途において死亡した場合において、その者のその年分の所得税について第百二十条第一項(確定所得申告)の規定による申告書を提出しなければならない場合に該当するときは、その相続人は、第三項の規定による申告書を提出する場合を除き、政令で定めるところにより、その相続の開始があつたことを知つた日の翌日から四月を経過した日の前日(同日前に当該相続人が出国をする場合には、その出国の時。以下この条において同じ。)までに、税務署長に対し、当該所得税について第百二十条第一項各号に掲げる事項その他の事項を記載した申告書を提出しなければならない。

申告義務の主語は「相続人」です。民法の規定により、相続放棄者は初めから相続人ではなかったものとみなされますから、申告義務はありません(ただし所得税法2条により、包括受遺者は相続人に含まれます)。

 

民法にいうところの相続財産法人に所得税法125条が適用されるのかは解釈の問題となるのですが、この点は国税が質疑応答事例で正面から答えています。

 

民法上の相続人が不存在の場合の準確定申告の手続

民法上の相続人も包括受遺者もいない場合(相続人不存在)、相続財産は相続財産法人になるとされています(民法第951条)。この相続財産法人の申告手続については、所得税法上何らの規定もされていないことから、相続財産法人に所得税法第125条の規定が適用できるかどうかが問題となります。
 この点については、相続財産法人は、国税通則法第5条第1項《相続による国税の納付義務の承継》の規定に基づき納税義務を承継することとされていますから、所得税法第125条の規定を類推解釈して相続財産法人に対して適用することが合理的であると考えられます。

 

また、公益財団法人日本税務研究センターの相談事例Q&Aにも相続放棄の場合を前提として同旨の回答がありますので、参考までにリンクだけ貼っておきます。

 

公益財団法人日本税務研究センター「相続人全員が相続放棄した場合の準確定申告」

 

相続財産法人の管理人というのは、地域の弁護士さんがやったりするもののようです。