租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

〔書籍〕『相続・事業承継業務をクリエイティブにする方法60』

白井一馬『顧問税理士のための相続・事業承継業務をクリエイティブにする方法60』(中央経済社2017)

 

「強い税理士になるための一歩踏み込んだ知識」のオンパレードといった感じの書籍。

それでいて中小企業の顧問をする税理士として無理をしない、お客様にとっても税理士にとっても日常をきっちり守るための予備知識という姿勢がしっくりくる一冊です。

 

制度の理解や実務的な対応のためのためになるお話の数々ですが、5年前の本ということで、かなり強めにアピールしている一般社団法人を使った節税については本書出版直後に改正で対策が打たれてしまっている点が残念です。

財産を一般社団法人に移してしまえば株式会社と違って持分がないため相続税を永遠に課税繰り延べすることができたのですが、現在は同族関係者が支配する一般社団法人を個人とみなして相続税を課税する規定(相続税法66条の2)が創設されています*1

 

これはもちろん本書に対する何かしらの意見ではないのですが、例えばある税理士が本書のようなもので知識を仕入れて顧問先に「一般社団法人を使ったうまい節税があってですね!」と宣伝して回っていたとしたらどうなっていただろうかと想像しました*2

現行の否認規定の穴をついていくようなことも不可能ではないでしょうし、一般社団法人スキームで走り出してしまった人々はそこを追い求めるしかないのかもしれません。しかし白井先生が税務通信の記事で「本制度は税法条文としては大ざっぱな制度です。しかし条文の隙を突いた節税は控えるべきです。今改正は節税を許さないという課税当局の意思表示と捉えるべきです。これからは事実認定による否認や,節税事例が出る度に改正が行われる状況が考えられます」*3と語っておられることに完全同意で、結局、都合のいい節税策は塞がれると考えて日々の指導・助言にあたらなければならないのでしょう。とはいえその辺の責任を取る気がない節税コンサルの方が「積極的に良い提案をしてくれる」存在として有難がられたりする無情。

 

気持ちを強く持って生きていきたいと思います。

*1:参考として、例えば税理士法人チェスターさんのページなど。

*2:もちろん著者の白井先生は行き過ぎた節税は否認されるだろうという冷静な態度をとってはおられますが、ドイツでは既に一般社団への課税があり日本でもその懸念があるのではないかという論点に対しては「登記のみで設立できる持分なし法人に対する相続税のあるべき課税関係を議論する歴史は日本にはない。そもそも、持分のない医療法人に相続税を課税すべきだという議論は聞いたことがない(97頁)」と書かれています。政治の動きを予測することは難しいです。

*3:「実例から学ぶ税務の核心 第24回 平成30年度税制改正による一般社団法人に対する相続税課税の創設」(税務通信3526号)