租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

合同会社の持分の相続税評価

 以前も書きましたし、ちょくちょく聞く話なのですが、日頃お客様と会話するときにも忘れないように話題に出る度に触れていこうかと。

 直近の「東京税理士界」の論壇「持分会社をめぐる考察」(リンク先PDF)で持分会社の出資の評価について触れられています。

 出資者が死亡した場合に死亡退社により払い戻しを受けるか、相続人が持分を引き継ぐかによって評価が変わるという話ですが、少し具体的に書いてくださっています。

 

まず、死亡退社により出資の払い戻しを受ける場合。

 

 持分会社の社員が退社する場合には、出資に対する払戻請求権が認められており(会法611①)、その計算方法については、「退社した社員と持分会社との間の計算は、退社の時における持分会社の財産の状況に従ってしなければならない」(会法611②)とされている。

 実際には会社の純資産価額から持分の払戻しが行われることになるが、持分の払戻請求権は有価証券ではなく、債権としての評価となる。

 この場合の純資産価額の計算は、一口当たりの課税時期における各資産の相続税評価額の合計額から各負債の相続税評価額の合計額を控除した残額に持分を乗じた金額により評価され、評価額と簿価との差額に係る法人税等相当額の控除は行わない。これは退社に伴う持分の払戻しは、会社法611条2項の規定に基づくものであり、財産評価上の規定とは関係ないためである。

 

 また、払戻額が出資額を上回る場合にはみなし配当も生じ得るということで注意を促してくれています。

 他方、相続人が持分を承継する(つまり合同会社の社員という地位を引き継ぐ)場合には、財産評価基本通達による取引相場のない株式の評価に準じて評価を行うことになります。

 

 一点素朴な疑問として気になるのは、出資の払い戻しを受ける場合、会社法における払戻持分の計算が「財産評価上の規定とは関係ない」のは当然だと思うのですが(会社法プロパーの問題ですから)、それなら何故その場合の純資産額の計算を「課税時期における各資産の相続税評価額の…」とするのかという部分です。

 例えば、会社の簿価純資産が1億円で、50%の持分を有していた社員が5千万円の払い戻しを受けたとすると、この「純資産1億円」の計算の中身がどうであろうと(財基通に沿っていようといまいと)相続人が取得する金銭(債権)は5千万円です。これを、会社の資産を時価評価すると含み益があるからそれよりも高く評価する、あるいは低く評価するということが妥当なのかどうか。財産評価基本通達において未収金などの金銭債権は元本とその利息で評価されることは言うまでもありません(財基通204)。

 この点、会社法上いくらを出資者に払い戻すべきかという話と、相続人の立場から見て取得した財産(この場合には金銭債権)を相続税法上いくらで評価すべきかという話が混同されているのではないかという懸念も抱くところです。会社法上の払戻価額が相続税法を参照しないと決められないということはないはずです。当方が記事を読み違えていますでしょうか。

 太田達也先生の本を参照すると、以下のように書かれています。根拠としては会社計算規則30~32条が挙げられています。

 社員の退社により、払い戻される持分は、持分に相当する財産である。持分に相当する財産は、その社員が過去に履行した出資とその社員に帰属している損益である。持分の払戻しにより、その社員の出資に対応する部分と利益に対応する部分の資本金、資本剰余金及び利益剰余金が減少することになる(太田達也『〔改訂版〕合同会社の法務・税務と活用事例』58頁(税務研究会出版局2019))。

 過去に履行した出資と帰属する損益は随時計算されているものであるはずであり、こちらの方が説明としてはしっくりきますが、果たして。