租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

6月までに死亡した納税者に予定納税義務はない

納税者が上半期に死亡した場合の予定納税

税務署は6月15日までに、予定納税の通知を送ってきます(所得税法106条)。

しかし例えば5月にその納税者が亡くなっている場合はどうなるのでしょうか。結論としてはこの場合、予定納税の納付義務はない、すなわち納める必要がないということになります。この結論自体は国税の担当者とも確認がとれました。

本記事ではその根拠となる条文操作について確認します。

 

国税通則法所得税法

まず、納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定については、国税通則法15条がこれを横断的に定めています。

同条3項1号によれば

「予定納税の規定により納付すべき所得税」は「納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する」

こととなっています。

では納税義務の成立とは何か……という点は所得税法の予定納税に関する規定を見ることになります。

所得税法104条には予定納税の義務と金額の計算方法が、105条には計算の基準日等が規定されています。

104条をかいつまんで書きますと

「居住者は、予定納税基準額が十五万円以上である場合には、その三分の一に相当する金額の所得税を納付しなければならない」

そして105条は

「予定納税基準額の計算については、その年五月十五日において確定しているところによるものとし、居住者であるかどうかの判定は、その年六月三十日の現況によるものとする」

としています。

どの時点をもって成立という文言が明確に書いてあるわけではないのですが、納税義務の主体(104条の主語)は「居住者」であり、居住者であるかの判定は6月30日の現況によるとされていますから、6月30日より前に亡くなっている方については居住者ではなく納税義務が成立しないと読むことになるのでしょう。

この点は国税所得税基本通達でも確認されています。

 

(居住者でなくなった場合の予定納税の義務
105-2 法第104条((予定納税額の納付))の規定を適用する場合には、居住者であるかどうかはその年6月30日を経過する時の現況により判定すべきものであるから、当該時の現況において居住者に該当しない次に掲げる者は、たとえ予定納税額等の通知がされている場合であっても、予定納税額を納付する義務はないことに留意する(平28課2-4、課法11-8、課審5-5改正)。

(1) 当該時までに死亡した者

(2) 当該時までに非居住者となった者(当該時の現況において総合課税を受ける非居住者(法第164条第1項((非居住者に対する課税の方法))の規定の適用を受ける非居住者をいう。105-3において同じ。)を除く。)

 

 

 

以下、参照条文

 

国税通則法15条】

(納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定)

第十五条 国税を納付する義務源泉徴収等による国税については、これを徴収して国に納付する義務。以下「納税義務」という。)が成立する場合には、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税を除き、国税に関する法律の定める手続により、その国税についての納付すべき税額が確定されるものとする。

2 納税義務は、次の各号に掲げる国税(第一号から第十三号までにおいて、附帯税を除く。)については、当該各号に定める時(当該国税のうち政令で定めるものについては、政令で定める時)に成立する。

一 所得税(次号に掲げるものを除く。) 暦年の終了の時

二 源泉徴収による所得税 利子、配当、給与、報酬、料金その他源泉徴収をすべきものとされている所得の支払の時

(中略)

3 納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税は、次に掲げる国税とする。

一 所得税法第二編第五章第一節(予定納税)(同法第百六十六条(申告、納付及び還付)において準用する場合を含む。)の規定により納付すべき所得税(以下「予定納税に係る所得税」という。)

(後略)

 

所得税法104条】

(予定納税額の納付)

第百四条 居住者(第百七条第一項(特別農業所得者の予定納税額の納付)の規定による納付をすべき者を除く。)は、第一号に掲げる金額から第二号に掲げる金額を控除した金額(以下この章において「予定納税基準額」という。)が十五万円以上である場合には、第一期(その年七月一日から同月三十一日までの期間をいう。以下この章において同じ。)及び第二期(その年十一月一日から同月三十日までの期間をいう。以下この章において同じ。)において、それぞれその予定納税基準額の三分の一に相当する金額の所得税を国に納付しなければならない。

(後略)

 

所得税法105条】

(予定納税基準額の計算の基準日等)

第百五条 前条第一項の規定を適用する場合において、予定納税基準額の計算については、その年五月十五日において確定しているところによるものとし、居住者であるかどうかの判定は、その年六月三十日の現況によるものとする。ただし、予定納税基準額の計算は、その年五月十六日から七月三十一日までの間におけるいずれかの日において確定したところにより計算した金額が本文の規定により計算した金額を下ることとなつた場合は、その日(その日が二以上ある場合には、その計算した金額が最も小さいこととなる日)において確定したところによるものとする。