租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

役員給与条文の読み方

法人税法34条1項の法律効果

 法人税法における役員給与の規定について「定期同額給与(34条1項)に該当すれば、不相当に高額(34条2項)の規制対象から外れる」とする論文を目にしました。

 それは違うと思うし中小企業実務にとっても大事なところなので、条文操作について書いてみます。筆者の方が間違っていたら教えてください。

 

 まず、役員給与の損金不算入についての法人税法34条1~3項を骨子のみ抜き出します。

法人税法第34条(役員給与の損金不算入)【要約】
1 内国法人がその役員に対して支給する給与(退職給与等並びに第三項の規定の適用があるものを除く)のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、損金の額に算入しない。
一 定期同額給与
二 事前確定届出給与
三 業績連動給与
2 役員給与のうち不相当に高額な部分の金額は損金の額に算入しない(前項又は次項の規定の適用があるものを除く。)
3 隠ぺい・仮装経理による役員給与は損金の額に算入しない。
(4項以下略)

 第1項が一番慣れ親しんでいる「定期同額・事前確定・業績連動のどれかじゃないなら損金にしちゃダメだよ」という規定です。

 ここで重要なのは、この34条1項は定期同額・事前確定・業績連動以外を損金不算入にする規定であって、定期同額・事前確定・業績連動を損金に算入する規定ではないということです。というかこれがほぼ本記事の答えなのですが。

 法律は要件と効果を定めるものですが、34条1項適用の効果はあくまでも「損金の額に算入しない」ことです。

 そして問題としている「不相当に高額な部分は損金にしちゃダメだよ」という規定は2項です。

 本記事冒頭の「定期同額給与(1項)に該当すれば2項の適用を受けない」とする見解は、2項の括弧書き「前項又は次項の規定の適用があるものを除く」という点を踏まえて、定期同額給与は1項1号に当てはまっているのだから当該括弧書きにより2項の適用対象から除かれる、という理解のようです。

 しかし34条1項は定期同額給与等の定義をして、それ以外が損金不算入になる、すなわち定期同額給与は1項の適用対象から外れると規定しています。言い換えれば34条1項の適用があるものというのは、例えば頻繁に改定をしていて定期同額給与になっていない役員給与などがこれにあたります。

 きちんと定期同額給与になっているものは34条1項の適用がないのですから、2項の括弧書き「前項又は次項の規定の適用があるものを除く」には当てはまらず2項の適用対象になる、すなわち、定期同額給与に該当しても不相当に高額な部分があれば損金にできないことになります。

 余談までに規定の趣旨から考えても、そもそも損金になるものが対象であることを前提としないのであれば「不相当に高額な部分の金額は損金の額に算入しない」という規定を設ける意味がないとも考えるところです。

 

優先劣後関係の整理と三重のフィルター

 わかりやすさのため3項まで含めて優先劣後関係を整理してみると、1項が「第三項の規定の適用があるものを除く」としており2項が「前項又は次項の規定の適用があるものを除く」としていることから、3項が一番優先して適用されます。隠ぺい・仮装であれば有無を言わさず損金不算入です*1

 次に2項が「前項又は次項の規定の適用があるものを除く」としていることからして、1項と2項の関係では1項が優先して適用されます。不相当に高額かどうかを考える前に、定期同額・事前確定・業績連動の類型に該当しないものは損金不算入となるわけです。

 そして最後に、 隠ぺい  ・仮装でもないし、定期同額・事前確定・業績連動等以外でもないものが残り、2項の適用を受けます。「定期同額・事前確定・業績連動以外でもないもの」というのは「裏の裏」なので、前述の通り定期同額給与は普通にこれに含まれることとなります。

 まとめると、34条の適用順は3項→1項→2項です。

 もちろんこのあたりは筆者が独自に述べているわけではなくて、増井良啓教授も『租税法入門』(有斐閣2014)で明確に指摘しておられます。またその上で「三重に損金算入がガードされている」と述べられています(隠ぺい仮装でなく、定期同額以外でなく、不相当に高額でないことがいずれも必要であるため”三重”というわけですね)。

 濱田康宏先生の『役員給与』(中央経済社2018)17頁の図も同様の理解から導き出されるものかと思います。フローチャートにすると規定の内容がわかりやすいです。

 

役員給与損金算入の根拠

 定期同額給与でも不相当に高額であれば損金不算入となるのは以上で証明終了ですが、そうして考えていくと普段当たり前のように損金にしている定期同額給与は34条の適用を受けていないわけで、では逆に何を根拠に損金になっているのでしょうか。

 これはごく普通に法人税法22条3項によって、会計上の費用だから損金になっているだけです。役員に支給する報酬は定期同額の要件を満たせば34条の損金不算入規制にひっかからないため同規定を素通りしているという話です。

 繰り返しますがこれは、34条の法律効果があくまでも「損金の額に算入しない」ことであると理解されていないと混乱を招く部分かと。

 増井教授も以下のように述べられています。

法人税法34条は、22条3項に対する「別段の定め」である。したがって、34条1項から3項までの損金不算入規定が適用されない場合、役員給与は、22条3項2号の費用として、それが発生した事業年度の損金に算入されることになる。

(増井良啓『租税法入門』252頁(有斐閣2014))

 条文を読めばそのまんまなのですが、ここはすごく不思議な部分で、手堅い解釈を期待したい通達の逐条解説ですら以下のように書いています。

役員給与に関する税法上の主な規定は、次のとおりである。
(1)一定の役員給与の損金算入
 法人がその役員に対して支給する給与(中略)のうち次のイからハまでに掲げる給与のいずれにかに該当するものは、損金の額に算入される(法34①)
イ 支給時期が1月以下の一定の期間ごとである給与(定期給与)で、その事業年度内の各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずる給与(定期同額給与)(法34①一、令69①②)
(佐藤友一郎編『法人税基本通達逐条解説〔九訂版〕』810頁(税務研究会出版局2019)、下線は引用者)

 正面から根拠条文を示していながら真逆の法律効果を書いています。それで問題が生じないのであればわかりやすさ重視でもいいと思うのですが、実際適用関係に影響するためちょっといかがなものかと思っています*2

 さらに言えば、役員給与が34条によって損金になるのか22条によって損金になるのかは、債務確定基準(22条3項)や公正処理基準(22条4項)を考慮するかというさらなる現実的な問題にも影響します。

 だから「規定の文言は『損金の額に算入しない』だけど実質的には定期同額給与なら損金に入れるという規定だよね」と理解するわけにはいかないです。

 

*1:「いや、ちょっと外に見せたくない事情があって役員給与じゃないように仮装してたんですけど、実はちゃんと定期同額になってるし不相当に高額でもないんですよ!」などと主張してもダメだということです。

*2:十訂版の記述は確認できておりませんが、変わっていることを願います