租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

租税法入門書のおすすめ

1.よくわかる税法入門

 独習で租税法に入門するのにおすすめの本は何かと聞かれたのでせっかくだからブログにも書きます。色々読んできましたし「こういう場合にはこう、こういう人にはこう」と書きたいところですがそういう情報はかえってわかりづらいので、絞ります。

 

三木義一編『よくわかる税法入門』(有斐閣

 

 頻繁に改訂されている人気のシリーズです。個人的には、本当に知識がないところから一人で読むなら租税法の入門書はこれ一択だと思っています。

 おすすめポイントは下記の3点です。

 

(1)税理士と学生との対話という会話形式でとても読みやすい。

(2)素朴に興味が持てる話や社会の問題と絡めて説明をしてくれているので無味乾燥な暗記にならず最後まで面白く読める。

(3)上記にも関わらず、法的な観点からの説明がしっかりしている。

 

 ちなみにここでいう入門というのは、単に日本の税制(税金の仕組み)がどうなっているかを知るという意味ではなくて法学としての租税法に入門するという目的を念頭においています。

 私自身は大学で税法を学んで税理士になる準備として本書を読み、大変に助けられました。これを読んだことで講義で基礎的な話題についてはついていくことができたというか、「あぁ、あの辺の話ね」とイメージは湧くようになりますし、租税法的な思考方法のようなものがとりあえず学べます。

 よく法学を学ぶ際には「入門書」と「基本書」が区別されます。基礎的なことがしっかり書いてあるけれども文章が堅く読み進めるのが難しい本はたくさんあり、そうした本は「基本書」に分類されます。そうした本はそもそも大学の講義で教員の説明を受けながら教科書をとして参照する前提になっていることが多いでしょう。

 それに対して本書はまさに「入門書」であり、知識がないところから一人で読み進めることができます。

 

2.これだけは知っておきたい「税金」のしくみとルール

 もうひとつだけ挙げておきましょう。

 

梅田泰宏『これだけは知っておきたい「税金」のしくみとルール』(フォレスト出版

 

 Amazonのランキングなど見るとこちらもかなり人気のようです。

 こちらに関しては法律としてというよりも社会人・ビジネスパーソンの一般知識として、日本の税金がどういう仕組みになっているのかを簡潔な文章と図解で手っ取り早く知るのに適した一冊です。

 とりあえず税金についてざっと知りたいという気持ちに対して分量も内容もちょうどよく、よくできている本だと思います。自分は前述の『よくわかる税法入門』と併読しました。

 法律論でないからといって侮ることはできません。というより、税法を本格的に勉強しようと思って例えば大嶋訴訟(超基本の重要判例)を勉強しても、そもそも給与所得と事業所得ってどう違うんだっけ、ていうか所得税ってどうやって計算されるものだっけ、というのがわからなければ議論の筋を見失います。

 ましてや判例研究など学習が進めば進むほど限界事例ばかりになり、大枠や本筋がどこにあったのかわからなくなってきます。まずは典型例や基本が大事です*1

 さらっと読めますから頭に染み込ませるために3周くらいしても全然苦になりませんし、ちょっと思い出したくなったときにちょちょっと読み返すのも簡単です。

 

 ひとまず上記の2冊を読んでから好みの基本書を探すなどしても損はしないと思います。

 

*1:当然と言えば当然なのですが世間の申告の大多数を占める「典型的な事業所得者」や「典型的な不動産所得者」の取引・処理については訴訟で問題になりませんので判例学習を通じて学ぶことはできません。これが民法のようにそもそも揉めたときに使う法律であれば紛争の事例から内容自体を学ぶことも妥当かもしれませんが、租税法の内容理解は判例だけからは難しいと個人的には考えています。