『数理法務概論』、第6章はミクロ経済学。
第6章 ミクロ経済学
1 概説
2 競争市場の理論
3 消費者が有する情報の不完全性
4 独占とこれに関連する市場行動
5 外部性
6 公共財
7 厚生経済学
8 読書案内
80頁のほどの分量を割いてミクロ経済学の概要をまとめています。個人的にミクロ経済学の考え方は本書のテーマにもなる「社会の物事を分析的・数理的に考える」ことにおいて極めて重要な基礎を成すものだと思っておりますが、まさに法律家がその考え方を身につける上で必要十分な解説がなされている印象であり、簡潔でわかりやすいです。
序盤は需要曲線→供給曲線→均衡・余剰をおさえて、価格規制や課税が経済行動にどのような影響を与えるのかを分析するという王道なものです。そこから独占の問題について展開していきますが、このあたりは法制度との絡みも十分に意識されます。
さらに終盤では法律家として気になる分配や公正の問題についても議論としてフォローされています。
本書の議論の展開の仕方は余剰の概念をベースにしており「パレート効率的」に関する方法論的な議論など踏み込むと意外に厄介になる部分は大胆に省略しています。消費者理論や生産者理論についても深堀はせず、単に消費者は安ければいっぱい買うけど高ければあまり買わないという話で需要曲線を導出しています。
個人的にはこのやり方は大正解だと思っていて、ミクロ経済学を思考のツールとして用いる大多数のユーザーにとってはこれで十分だし、消費者理論や生産者理論の技術的な(そしてとにかく数理的な)議論に長い時間を費やすあまりに経済学が敬遠されてしまうよりもいい進め方だと思います。
エッジワースのボックスダイアグラムや厚生経済学の第一定理・第二定理あたりはひとつの到達点としてインパクトがあるところなのでもう少し取り上げて欲しかった印象がありますが、まぁ完全競争市場の均衡点で余剰が最大化されるという話で十分かなという気もします。このあたりの考え方は第三章の契約で「契約によるパイの最大化が大事」という話の土台になります。
こういうのを読むとマンキュー経済学を読み返したくなりますね。