租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

2020-01-01から1年間の記事一覧

源泉徴収義務と家事使用人

2人以下なら源泉徴収不要? 先日、以下の質問を受けました。 当方個人事業主なのですが、親戚の手伝い2人に少額の給料を払っているだけなら源泉徴収をしなくていいのですよね? これは誤解です。 この問題はおそらく所得税法184条・200条の「家事使用人」と…

「金銭債権と租税」『財政と金融の法的構成』

中里実『財政と金融の法的構造』(有斐閣2018)より、本日は第7章第2節「金銭債権と租税」。 他の箇所でも度々述べられているように租税債権は本質的には(民法の)金銭債権であること、制定法の解釈には普通法がベースにあることが確認されます。 そうした…

「財政制度と法の関わり」『財政と金融の法的構成』

中里実『財政と金融の法的構造』(有斐閣2018)より、本日は第4章第1節「財政制度と法の関わり」。 本節では財政の法的な検討として手続き的・行政法的な検討だけでは不十分で、実体法的・私法的な把握が大事だということで「国家活動の概念図」(165頁)な…

「財政法と憲法・私法」『財政と金融の法的構成』

中里実『財政と金融の法的構造』(有斐閣2018)より、本日は第4章第2節「財政法と憲法・私法―財政の法的統制」。元論文はフィナンシャル・レビューでオープン(PDF)です。 本節は、財政に関する法的統制を考えるにあたって憲法や財政法の国家内部の手続きを…

「財政法の私法的構成」『財政と金融の法的構成』

中里実『財政と金融の法的構造』(有斐閣2018)より、本日は第2章第2節「財政法の私法的構成」。 本節は憲法・行政法の文脈で議論されがちな財政が「国民に対する国家の対外的な関係においては基本的に民法や商法により規律される法領域であるという点につい…

「制定法と普通法」『財政と金融の法的構造』

中里実『財政と金融の法的構造』(有斐閣2018)より本日は第3章第1節「制定法と普通法」。 元論文はジュリストの「制定法の解釈と普通法の発見―複数の方が併存・競合する場合の法の選択としての「租税法と私法」論(上)(下)」ですね。 個人的には勝手に思…

「貨幣制度と法」『財政と金融の法的構造』

中里実『財政と金融の法的構造』(有斐閣2018)より、本日は第6章1節「貨幣制度と法―法・言語・貨幣のソフト・ローの観点からの共通性」。元論文はネット上でオープン(PDF)ですね。 中里先生ご自身が最後に「とりとめもなく色々述べてきた」と書かれている…

「財政と国家活動に関する1つの試論」『財政と金融の法的構造』

中里実先生の『財政と金融の法的構造』(有斐閣2018)より「財政と国家活動に関する1つの試論」という節(論文)。 はっきり言って自分の手には余る難しい本(けど憧れるし読みたい本)ですので、ところどころつまみ食いしつつ読んでいます。思いついたとき…

〔書籍〕『プログレッシブ税務会計論Ⅲ』

酒井克彦『プログレッシブ税務会計論Ⅲ』(中央経済社2019)。こちらもやっと通しで読みました。 本書では法人税法22条4項の「公正処理基準」に焦点を当て、種々の議論が展開されています。 第一章はまさに「法人税法22条4項における公正処理基準」と題して同…

〔書籍〕『プログレッシブ税務会計論Ⅱ』

1.法人所得計算の勘所 前回の『プログレッシブ税務会計論Ⅰ』に続いて、『プログレッシブ税務会計論Ⅱ』。 taxlawlabyrinth.hatenablog.com (前著もそうでしたがこちらも第1版を買って読み切れないうちに第2版が出ておりました…。22条の改正がありましたか…

〔書籍〕『プログレッシブ税務会計論Ⅰ』

1.税務会計論とは 尊敬する酒井克彦先生の税務会計本。ずっと積読というかつまみ読みの状態だったので、リンク先は第2版ですが読んだのは旧版です……。*1すみません……。とりあえず自分のノートとして。 巷に「税務会計論」と銘打った書籍は多数ありますが、…

年末調整の電子化

1.年末調整電子化の概要 あまりアンテナを張っていないうちに年末調整に関する手続きの電子化が色々と具体化されていました。 年末調整手続の電子化に向けた取組について(令和2年分以降) 年末調整手続きの電子化及び年調ソフト等に関するFAQ(PDF/2,6MB…

クラウドファンディングの税務と課税要件

1.クラウドファンディングってなんだっけ 顧問先の帳簿でクラウドファンディングの支出を見つけました。 クラウドファンディングとは、おそらく厳密な定義は存在しませんが、一般的な用法としては「特定の目的のためにインターネットを通じて不特定多数か…

キャッシュ・フロー計算書を理解してなくても100%作れる「ちぎりCF計算書」(3)

(1)・(2)からの続き taxlawlabyrinth.hatenablog.com taxlawlabyrinth.hatenablog.com 後輩「先輩直伝の〔ちぎりCF計算書〕で、とりあえず簡易的なCF計算書が作れることはわかりました。しかしどうしてこういうやり方でCF計算書ができるのかはいまひと…

キャッシュ・フロー計算書を理解してなくても100%作れる「ちぎりCF計算書」(2)

(1)からの続き taxlawlabyrinth.hatenablog.com 後輩「利益と現預金増減の差がキャッシュ・フロー計算書(以下、CF計算書)の内容になるのだというのはわかりました。漠然と計算書を見るより一番上と一番下をまず見ればいいんですよね」 先輩「そういうこ…

キャッシュ・フロー計算書を理解してなくても100%作れる「ちぎりCF計算書」(1)

「損益計算書と貸借対照表は見慣れているけどキャッシュ・フロー計算書がよくわからない。特に間接法がわからない」とよく言われます。 これに関して「簡単にわかる説明」のようなものはネット上にもたくさんありますので、私がさらに似たような試みを行う意…

実現主義と売掛金の理屈についてよくわからないこと

1.実現主義の2要件 税理士試験の財務諸表論を勉強しているときから、実現主義の説明について何か腑に落ちないものを感じていました。自分が何か基本を勘違いしている気がしてならないのですが頭の整理のために少し書いてみます。 (新しい収益認識に関する…

中小企業における予算作成の意義(税理士視点から)

1.血の通った管理会計実務本 本日のお題は、こちらを読んで考えたことです。 梅澤真由美『今から始める・見直す 管理会計の仕組みと実務がわかる本』(中央経済社2018) 書店でぱらぱらと立ち読みしたときは少し堅くて教科書的すぎるかなぁと思いましたが…

所得概念論を税理士実務に活かす

1.とある確定申告書 今回は所得概念と実務について思いつき程度に少し考えてみたいと思います。 考えるキッカケは今年の確定申告業務において新しくご依頼いただいたお客様の過去の申告書を見たことです。 そのお客様は個人事業主なのですが物を仕入れて売…

相続税申告が不慣れな税理士のための超実務本

1.相続税申告業務の特殊性 確定申告時期に久しぶりの相続税申告を行ったので情報の整理として。 相続税の申告というのは、特化型としてやる税理士事務所はたくさんやる一方で、オーソドックスな法人顧問を中心とする税理士は稀にしかやらない傾向があるや…

〔書籍〕『ホームラン・ボールを拾って売ったら二回課税されるのか』

浅妻章如『ホームラン・ボールを拾って売ったら二回課税されるのか』(中央経済社2020) 1.二重課税を鍵に課税を考える エッジの効いた知性と発言という印象のある、浅妻章如立教大学教授(ウェブサイト・Twitter)による初の単著だそうです。 タイトルは…

確定申告の「撤回」

1.申告不要制度 給与所得者で給与収入が2,000万円以下でありその他の所得が20万円以下の場合、年金受給者で年金の額が400万円以下でありその他の所得が20万円以下の場合、確定申告は不要です(所得税法121条)。 この制度を知らずに20万円以下の所得を申告…

経費家事按分の原則論を確認する

1.実務上の取り扱い 確定申告の時期になったので個人所得税らしいネタで。 例えば個人事業主の車で、仕事とプライベート両方に使っているものがあるとします。 このとき、例えば「だいたい仕事とプライベート半々で使っているから減価償却費のうち50%を必…