租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

「制定法と普通法」『財政と金融の法的構造』

 中里実『財政と金融の法的構造』(有斐閣2018)より本日は第3章第1節「制定法と普通法」。

 

 

 元論文はジュリストの「制定法の解釈と普通法の発見―複数の方が併存・競合する場合の法の選択としての「租税法と私法」論(上)(下)」ですね。

 個人的には勝手に思い出深い論文です。学生時代、簿記から税務(法律)に入った身としては最初法律の解釈方法なんて「法学入門」みたいなタイトルの本を読んで「なるほど文理解釈と目的論的解釈かぁ」くらいに思っていたのですが、税大ジャーナルの中里先生の講演録*1 なんかを読んでいると「制定法と普通法は違って、民法の解釈手法で租税法を解釈するなんてとんでもない」なんて話が出てきて「えっ、そうなの?」と驚いたり。*2

 「法人課税の時空間(クロノトポス)」とかもそうですが、中里先生の使うフレーズとか理論ってなんとなくカッコイイじゃないですか。それで「制定法の解釈と普通法の発見」も図書館の書庫に潜ってコピーしていたんですが、税理士試験の勉強や自分の研究テーマの論文作成でなかなかじっくり読む時間が取れず、研究室のファイルに眠らせながらいつか大人になって落ち着いたら読もうと思っておりました。

 

 そして一応は今がその「いつか」ということで改めて本論文を読んでみました。

 内容としては、租税法の厳格解釈や借用概念論(統一説)の裏付けになる理論的・歴史的背景が叙述されています。

 民法のような普通法に対して租税法のような制定法は劣後するから、解釈はあくまでも厳格に、そして制定法の中に普通法の概念が出てきたら(明文の定めがない限り)普通法に従って解釈するのは当然であるというのが中里先生の主張です。

 金子宏先生は法的安定性・予測可能性などの機能的な観点から借用概念の統一説を展開されますが、これに別の角度からの論拠を与えるものですね。

 当然ですが税理士試験では全く習わないような内容であり非常に刺激的で面白いです。

 素人の素朴な疑問としては、議会の歴史的背景などはそれはそれでわかるとしても、その背景を現代の日本の租税法解釈適用論に当てはめることの妥当性・必然性はいまひとつよくわかりませんでした。

 広い世界の長い歴史の中で中世ヨーロッパの部分が天下り的に与えられたような印象があり、少なくとも形式的には民法も租税法も議会の制定法である日本においてそうした文脈が(抽象論としてではなく)具体的な解釈論の方向を決定付ける正当性というか、そのあたりについて議会の歴史や「法曹の態度」だけで説明ができるのかどうなのか。

 法制史などの基礎法学を学ばれた方々には説明するまでもない当然のことなのかもしれませんが、租税法学界で当然には認識されていることではないから中里先生もわざわざ論文を書かれているわけですよね。このあたりはまだまだ勉強しなければと思いました。

 

*1:中里実「フランスにおける流通税の歴史」(税大ジャーナル2009)https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/backnumber/journal/11/pdf/11_01.pdf

*2:この文脈での制定法・普通法という用語法は現代の日本の法学においてどの程度一般的なのでしょうか。手元の教科書類やインターネットを検索してもあまり見ません。