M&A売り手の税負担についての検討メモ。
株式の譲渡対価を退職金でもらうのが有利ではないかという論点に関して。
譲渡する株式の取得原価を割り込まない範囲において、譲渡対価への課税は定率の20.315%。
退職金に対する限界税率がこれを超えない限りなるべく退職金にするのが売り手にとっては有利。
2分の1課税であれば所得税率でいうと6,950,000~8,999,000円の区分が所得税23%・復興税0.483%・住民税10%合わせて33.483%の半分、すなわち16.7415%で株式譲渡より有利。9,000,000円を超える区分は21.8465%の課税となり株式譲渡に比べて不利。
2分の1課税で上記の税率区分に入る退職金額ということは退職所得控除額を900万×2だけ超える金額ということ(8,999,000は数字が汚いので便宜上900万と置くことにする)。
言い換えると最適な退職金額は
最適退職金額=1,800万円+退職所得控除額
で求められる。
当然ながら退職所得控除額は勤続年数によって決まるため、最適退職金額を求めるためには対象となる役員の勤続年数を知る必要がある。
この最適金額は仮に勤続年数40年(退職所得控除額2,200万円)だとしても4,000万円であり、1年につき70万円しか増えないので、案外退職金はすごく有利でもないことがわかる(退職金がそれほどの金額にならないのに加えて、退職金部分が完全に無税なわけでもない)。
例えば、税務上の功績倍率法で計算して1億円の退職金が支給できるとして、退職金に対する所得税・住民税を計算した結果が15%相当になったからといって「よし、譲渡益に対する税負担20.315%よりも有利だからこれでいこう」と決めてしまわないよう注意(この場合、退職金に対する「平均」税率は譲渡益課税より低いが、「限界」税率は超えてしまっているため退職金額を下げて譲渡対価に振り替えることで税負担を減少させる余地がある)。
なお、上記は全て売り手目線の議論であり、買い手目線では退職金の損金計上が有利というまた別の問題が生じる。株式の譲渡対価と退職金とではキャッシュの出所が違うことにも注意。