租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

キャッシュ・フロー計算書を理解してなくても100%作れる「ちぎりCF計算書」(2)

(1)からの続き

taxlawlabyrinth.hatenablog.com

 

後輩「利益と現預金増減の差がキャッシュ・フロー計算書(以下、CF計算書)の内容になるのだというのはわかりました。漠然と計算書を見るより一番上と一番下をまず見ればいいんですよね」

 

先輩「そういうこと。まずは利益とキャッシュのズレをひとつの項目にまとめた超簡単なCF計算書を作ってもらったね」

 

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先輩「ところで、利益とキャッシュがズレるのはどんな場合があるっけ?」

 

後輩「売上があっても売掛金の状態ならキャッシュになってないですし、減価償却費は逆に、費用だけどキャッシュアウトはないですね」

 

先輩「素晴らしい。間接法を考える上で重要なのは”利益と対比して”キャッシュの動きにズレがあるかどうかだ。収益でありキャッシュも入る、費用でありキャッシュも出る、というように増減が連動しているなら〔利益=キャッシュフロー〕であり調整は必要ない」

 

後輩「ひとつひとつのそういうのはわかります」

 

先輩「まずは一番わかりやすい減価償却費で考えてみよう。PLを見るとこの会社には減価償却費が2,350,000円ある。これは費用だけど支出じゃないから、利益と対比して考えるとキャッシュはその分だけ多いことになる。鈴木君の作ってくれた簡易CF計算書に6番目の数字として書き入れてみよう」

 

後輩「ただ減価償却費の金額を打てばいいですか」

 

先輩「そうだけど、減価償却費は利益とキャッシュのズレの一部なのだから、既にある”利益とキャッシュのズレ”から取り出してあげる必要がある。要するに減価償却費を抜き出したら”利益とキャッシュのズレ”はその分減らさないといけない」

 

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後輩「わかるようなわからないような…。”利益とキャッシュのズレ”には、減価償却費以外のズレが残るわけですかね」

 

先輩「そういうことになるね。売掛金もやってみよう」

 

後輩「売掛金は…えっと、期末の売掛金が7,800,000円あるから、この分をズレとして書く必要がありますね」

 

先輩「あっと、それは惜しい。ここでは個別の取引を考えているのではなく、一定の期間(事業年度)の利益とキャッシュフローを見ていることに注意してほしい。例えば仮に期首の売掛金も同額の7,800,000円だったとしたら、この期間について見れば、売り上げた分の金額はきっちり入金していることになる」

 

後輩「あー……言われてみればそうですかね。そうすると、期首の売掛金は5,000,000円だから……?」

 

先輩「期首に比べて期末の売掛金が2,800,000円増えている。これは、この期間の売り上げで入金していないものが2,800,000円あるってことだ。利益と対比すると、キャッシュはもっと少ないという意味だからCF計算書で減算する必要がある」

 

後輩「2,800,000円をマイナスとして載せるわけですね。どうもこの辺がキャッシュフローのわかりづらいところなんだよなぁ」

 

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先輩「まぁそこは”利益とキャッシュの対比”ってのを常に意識して、やり慣れて感覚を掴んでいくしかないかもね。でも、この作業をずっと続けていくと、やがては最初に見たような細かいCF計算書になる気がしない?」

 

後輩「まぁ、何も見ずに自分で作れと言われたら不安ですけど、出来るんだろうなとは思います」

 

先輩「今はそれでいい。ちなみにこれは僕が考えた邪道なCF計算書の作り方だ。僕はまずズレの塊を作って気になるズレ要因を取り出す操作を指して”ちぎる”といっている。ちぎって作るから〔ちぎりキャッシュフロー計算書〕というわけ。某コンビニの”ちぎりパン”て知ってる? それからヒントを得たんだけど」

 

後輩「先輩、コンビニのご飯食べすぎですから。これは、王道の作り方ではないけどわかりやすい作り方という感じですか?」

 

先輩「そうだね、わかりやすいというのもある。正統なCF計算書の説明を一応読んだ上でこういう邪道も試してみると理解が深まりやすい。そして何より実際の作成作業として、このやり方なら絶対に失敗しない。①~⑤の利益とキャッシュ増減の結論は先に決めてしまって、あとはズレの内訳をごにょごにょやっているだけだ。ひとつひとつちぎれば、計算が合わなくなることは決してない」

 

後輩「そう言われれば、たしかに。ズレの合計額はずっと同じでキープするからキャッシュ増減の計算結果がうまく合わなくなることはないですね。あとは勘定科目を割り振るように内容をどれだけ取り出すかだけで」

 

先輩「正統な作り方ではCF精算表というものを作ってBSの増減を網羅的に整理していくんだけど、初心者がいきなりこれをやるのはわりと大変で、作り方を理解するのが大変だし、やってもうまく結果が合わなかったりする。利益とキャッシュのズレの整理について感覚も掴めないままに〔営業活動・投資活動・財務活動〕みたいな区分もキレイに頑張ろうとすると余計にわからなくなる」

 

後輩「とにかく利益とキャッシュのズレは結論として最初から最後まで決まっていて、あとはその中身をどう表していくかだけの話なんですよね」

 

先輩「そうそう。繰り返しだけどそれが大事。そして、とりあえず中身を把握するなら、制度上の〔営業活動・投資活動・財務活動〕みたいな区分にこだわらなくても、BSの期首・期末で大きく増減している科目を”ちぎって”みれば、内容はわかってくる。例えばこの会社でいったら利益は出てるけど売掛金として滞留しててキャッシュになってない部分も多いなとか」

 

後輩「なるほど」

 

先輩「〔ちぎりCF計算書〕は、超簡単な土台から出発してとにかく結果の合うCF計算書を作るための邪道な手法だ。最後に、CF計算書の理論的なことも一応話して終わろう」

 

→(3)へ続く

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