(1)・(2)からの続き
taxlawlabyrinth.hatenablog.com
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後輩「先輩直伝の〔ちぎりCF計算書〕で、とりあえず簡易的なCF計算書が作れることはわかりました。しかしどうしてこういうやり方でCF計算書ができるのかはいまひとつよくわかりません」
先輩「そうだよね。会計学の試験を受けるわけではなくていまは実務を考えているからとりあえずは”自分にCF計算書が作れる”感覚を持ってもらうことを優先したし、実際に作ってみたほうが理屈がわかることもある。でも理論がわからないのも気持ち悪いだろうから、少し整理しておこう」
後輩「お願いします。どうしてBSの期首・期末を比べていくとCF計算書ができるのでしょうか」
先輩「普段仕訳の実務に触れている鈴木君のような人は、仕訳で考えるのがわかりやすいと思う。今から当たり前のことを言うね。
現預金/収益
費用/現預金
こういう利益計算と現預金の動きが対応した仕訳だけが出て来る世界なら、利益とキャッシュフローは常に一致する。CF計算書を作る必要がない」
後輩「そうですね。要するに現金主義会計ですね」
先輩「利益とキャッシュフローがズレるのはこの”収益・費用”と”現預金”のカップリングがバラバラになるときだ。論理的に言ってこのズレには(1)収益・費用の相手勘定が現預金じゃない場合と(2)現預金の相手勘定が収益・費用じゃない場合がある」
後輩「えーと、たしかに、そうですね。一致してれば問題ないけど、どっちかがズレたらズレると。間違いないですね」
先輩「まず(1)収益・費用の相手勘定が現預金じゃない場合を考える。このとき収益・費用の相手勘定は必然的に現預金以外の資産・負債になる(資本もあり得るが稀なのでとりあえず無視する)。*1
現預金以外の資産・負債/収益
費用/現預金以外の資産・負債
さっき鈴木君が例に挙げてくれた売掛金の売上や減価償却費はまさにこれらの類型だね」
後輩「たしかにこの場合、利益は増えたり減ったりしますが現預金は動いていないから利益とキャッシュフローがズレますね」
先輩「次に(2)現預金の相手勘定が収益・費用じゃない場合。この場合も現預金の相手勘定は必然的に現預金以外の資産・負債になる(稀に資本)。
現預金以外の資産・負債/現預金
現預金/現預金以外の資産・負債
具体的な取引としては固定資産の取得や借り入れによる収入がこれにあたるね」
後輩「あー、こういう取引に関しては損益計算書にそもそも登場しないけど現預金が動いているわけですね。現預金が動いて、収益・費用を相手どらないから、現預金以外の資産・負債を動かすしかないと」
先輩「そういうことだね。このように、資産・負債・資本・収益・費用の増減を記録する簿記の原理からして、利益計算とキャッシュフローがズレる場合にはそのズレは現預金”以外”の資産・負債(稀に資本)に必ず吸収される。いきなり感覚として掴むのは難しいかもしれないけど理屈としてはこういうことだ。なんかちょっと、簿記って面白いなと思わない?」
後輩「悔しいけど少し思ってしまいました。だから、現預金以外のBS科目の変動を見ると間接法のCF計算書が作れるんですね」
先輩「そう。そしてはじめに計算した”利益とキャッシュフローのズレ”というのは”現預金以外の資産・負債変動の集積”だったというのが種明かしだ。あとはCF計算書を作るたびに”減価償却費は費用だけど現金支出がないからキャッシュに足すんだな”、”借入金の返済はPLに載らないけど現金支出だからキャッシュから減らすんだな”と毎回意味を確認していけば、いつの間にか当たり前のようにCF計算書が作れるようになると思うよ」
後輩「途中で言っていたCF精算表とかいうやつもいずれは覚えなくちゃいけないですかね…」
先輩「面白いもので、ここまで具体例から考えて〔ちぎりCF計算書〕を作り慣れてくると、理論的で正統なやり方も理解できるようになるよ。むしろ、形式的で難しく見えていたのがなるほど合理的で効率的な方法だと思えてくる。もちろん、地道に”ちぎって”いって投資活動のものは投資活動区分に、財務活動のものは財務活動区分に分けていってもちゃんとしたCF計算書はできるよ」
後輩「これからは決算ごとに各社作ってみます!」
先輩「これは余談だけど、国際的な潮流では間接法のCF計算書は情報としてわかりづらいから直接法が大事だと言われる。でも、我々会計事務所としては、納税という問題も重要だ。そして法人税の課税は所得≒利益にもとづいて行われるから、利益計算とキャッシュフローの相互関係を常に意識していないといけない。そういう意味で、利益とキャッシュとの関係を表した間接法のCF計算書もとても重要で面白いものだと思うよ」