租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

〔書籍〕『プログレッシブ税務会計論Ⅲ』

 酒井克彦『プログレッシブ税務会計論Ⅲ』(中央経済社2019)。こちらもやっと通しで読みました。

 

 本書では法人税法22条4項の「公正処理基準」に焦点を当て、種々の議論が展開されています。

 第一章はまさに「法人税法22条4項における公正処理基準」と題して同条項の解釈を真っ向から論じています。最高裁判例や学説の検討を通じて、これを単なる「確認的規定」としては説明ができないといった趣旨の指摘がなされます。

 第二章は「公正処理基準該当性の判断アプローチ」。任意の会計処理の基準が22条4項にいう公正処理基準に該当するか否かについてどのようなアプローチが考えられるのかについてです。

 ここでは慣行該当性アプローチという事実解明的な視点と基準内容アプローチという規範的な視点の二重の基準を提唱しつつも、法人税法の趣旨目的(適正課税)を過度に強調することは租税法律主義の観点から危険であるとの冷静な解釈論が展開されています。

 第三章で慣習、第四章で別段の定めの位置付けの整理があったあと、個人的に新鮮だったのが第五章の「中小企業会計法人税法22条4項」。私自身日頃中小企業の実務を行っている税理士でありながら意外と掘り下げたことがなかった整理がされています。中小企業会計指針や基本要領が公正処理基準に該当するかについてなど。

 損金経理要件などを通じて法人税法の規定が会計に影響を与えてしまう「逆基準性」がよく指摘されますが、法人税法の規定に従った計算に比重を置く中小企業の会計慣行が「基準内容アプローチを無試験で合格したことを意味しているといってもよいように思われる(137頁)」という面白い指摘もなされています。

 つい「講学上の解釈論は解釈論、実務は実務」と無意識に区別してしまっている部分もありますが講学的な解釈論と実務との関りを常に意識していたいところです。

 そしてホットなトピックとして、第六章「『収益認識に関する会計基準』と法人税法」には本書のほぼ半分のページ数が割かれています。ここでは新たに設定された収益認識に関する会計基準法人税法との関係、同基準の公表に伴って改正された法人税法22条の2周りの解釈論が検討されます。

 このあたり、私としては通り一遍の解説を読んだだけで踏み込んだ解釈の検討ができていなかったため勉強になりました。特に同改正に伴って法人税法22条4項に「別段の定めをあるものを除き」という文言が追加されたことの重要性を見過ごしておりました。

 本書によれば「22条の2は22条2項の別段の定めか22条4項の別段の定めか」という問題があり、22条4項の別段の定めと考えるなら22条4項では「次条によるものを除き」とすればよかったのではないかとの反論、22条2項と22条4項両方の別段の定めと捉えるならそもそも22条4項に別段の定めによるものを除くと書く必要があったのかという指摘がそれぞれあり得るとされています。

 このあたりは酒井先生の議論を参考に前提を整理しつつ、今後の学説の蓄積を待ちたいところです(というよりもう出ているのでしょうから論文を検索してみたいと思います)。それにしても、建付けという意味ではシンプルな形をしていた22条が随分ややこしくなったなぁという印象です。法人税法の基本規定であることに変わりはありませんから、実務家としては理解しておかないわけにはいかないでしょう。

 

 

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