租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

〔書籍〕『裁判例からみる所得税法〔二訂版〕』

酒井克彦『裁判例からみる所得税法〔二訂版〕』(大蔵財務協会2021)


 

旧版の所有者ですが改訂版が出たということで早速ゲットしました。

本書はタイトルの通り裁判例を素材に所得税法を体系的に整理しています。

所得税法について知っておいたほうがいい裁判例が条文の配列に沿ってすっきりまとめられているので、どの辺に法的な論点というか勘所があるのかという温度感を掴みやすいですし、事例集としても使いやすいです。

事案の内容のまとめ方や解説も過不足なく、ちょうどいいです。

 

税理士の目線で考えたとき、所得税法法人税法消費税法よりも実務と法的判断との距離が近いと感じます

法人税に関してはわりかし定型的な取引が反復継続して行われるところがありますし、処理は会計との関わりで枠組みが決まる場合が多く、条文や判例をベースにした法的な判断という気持ちで処理を行う場面は意外と多くありません。

消費税も条文の造りがざっくりの法律ですから、法的な解釈とあてはめというよりは課税対象の4要件と非課税の種類によって課税区分を分けるだけ、というのが日々のイメージです。

その点所得税法は条文の造りも繊細で、かつ起こる事象が個人の生活と密接に関わっていて内容も単発的・個別的です。

「こういう収入があったのですが何の所得になるんでしょうか」

「これは雑損控除とれるでしょうか」

といった相談になってくると、限界事例をもとにした条文解釈の知識が直接的に効いてきます。

 

例えば先日損害賠償金の非課税について改めて調べていてふと本書を開いたのですが、本書では「商品先物取引に関し商品取引員から不法行為に基づく損害賠償金として受け取った和解金が非課税所得に該当するとされた事例」として名古屋高裁平成22年6月24日判決が紹介されています。

そこでは所得税法施行令30条2号にいう「不法行為その他突発的な事故」という文言から、非課税になるためには突発的な不法行為じゃないとダメなのかというのが争われています。

この点地裁は、条文は「不法行為その他突発的な事故」であって「不法行為その他の突発的な事故」とは書いていない、この場合は普通条文の読み方としては並列だから不法行為が突発的なものに限られるわけではないのだと判断しています。

こういうのを読むと規定を適用する具体的な事例としてイメージが湧くし、条文の読み方も掴めるのでためになりますね。