租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

「副業収入20万円以下なら確定申告不要」の注意点

 「センセー、今年〇〇の収入があるんですけど、確定申告必要ですかね?」といった会話をする季節になってきました。

 ここで、給与所得者が給与所得以外の所得が20万円以下なら確定申告不要所得税法121条)の規定を適用することは実務上結構多いかと思いますし、不思議とこの制度は非専門家の人々にもよく知られているようです。

 その反面、この「20万円以下なら申告不要」は所得税のみの規定であり、住民税にそのような規定は存在しないから所得税の確定申告をしないとしても住民税の申告は必要になることはあまり知られていないように思います。

 検索すると上の方に出て来る大阪市のQ&Aを引用してみましょう。

 

(質問)私は給与所得者ですが、昨年は給与とは別に、原稿料として18万円の所得がありました。所得税の確定申告は不要と聞いていますが、個人市・府民税の申告は必要ですか。なお、私の昨年の給与収入は500万円で、家族は妻と子ども2人です。


(回答)所得税については、原稿料が支払われる際に源泉徴収されていることなどから、給与所得や退職所得以外の各種の所得金額の合計額が20万円以下であれば確定申告は不要とされています。

 一方、個人市・府民税では、原稿料支払時に源泉徴収する制度がなく、前年の給与所得と給与所得以外の所得を合算して税額を計算することとされており、その合算した額が、同一生計配偶者および扶養親族がいない場合は35万円、同一生計配偶者または扶養親族がいる場合は35万円にあなたの同一生計配偶者および扶養親族に1を加えた数を乗じて得た額に21万円を加えた額(夫婦と子ども2人の標準世帯では161万円)を超える場合は申告していただくことになっています。

 あなたの場合は、給与所得346万円(給与収入金額500万円-給与所得控除額154万円)と給与所得以外の所得18万円との合算額364万円となり、161万円を超えていますので、申告していただかなければならないことになります。

www.city.osaka.lg.jp

 

  制度趣旨を説明されるとたしかにそうか、と思いますね。雑所得を得ているとして、所得税法においては源泉徴収があるため仮に受給者が確定申告をしなくても一定程度の課税を行うことができます(もちろん不完全なので少額しか許容されませんが)。

 しかし住民税についてはそもそも源泉徴収がないため、所得税とは話が違ってくるというわけです。

 税理士的には、それなら手続きの簡素化にならないではないか、と思ってしまいますが*1

 

 この他「20万円以下」については間違えやすいいくつかの論点があります。

  • この申告不要制度を知らずに一度申告してしまっても申告を「撤回」することができる(過去記事参照)。
  • 給与以外の所得が20万円以下なら「確定申告をしないことができる」のであって、仮に医療費控除や寄付金控除で申告をするなら20万円以下の所得も計上しないといけない。
  • 同族会社の役員がその会社から受ける利息や賃貸料は20万円以下でも申告が必要。
  • 一時所得が20万円以下になるかどうかは50万円の特別控除を引いて2分の1にした後で判定する。すなわち収入金額では90万円まで申告不要。

 これらの点の一部はお馴染みの「図解・表解 確定申告書の記載チェックポイント(令和3年3月15日締切分)」(中央経済社)にも載っていました。

 毎年この本を買って改正点をさらいつつ所得税を総復習するところから確定申告業務が始まります。今年も買いました。事務所で書籍費も出るのですがこれは自腹で買って常に手元に置いておきたいんですよね…。やはり実務本では「記載例」最強です。

 

 

 また書店で隣に同じ天池先生による「図解・表解 純損失の繰戻しによる還付請求書の記載チェックポイント」なる本が置かれているのを目にしました。新型コロナウイルスの影響で今年は増えるのではないかというわけですね。なるほどなぁ。

 

*1:なんなら「住民税の申告」という慣れない業務より所得税の確定申告をする方が楽です。