租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

高額特定資産の取得に関する規定のおさらい

簡易課税の選択の検討をしていて、初めて高額特定資産の規定にひっかかることに気が付きました。

高額特定資産を取得した場合の規定というのは消費税法平成28年改正における目玉と言われたものです。

このあたりの消費税の部分的な租税回避規定は体系性がない上に数が多く、「なんとく聞いたことはあるがいちいち日々気にかけてはいない」ものになりがちなので簡単におさらいします。

 

ごく単純化して一言で言ってしまうと、高額特定資産の規定(消費税法第12条の4、37条3項3号)というのは「本則課税のときに高額特定資産(税抜1,000万円を超える棚卸資産・固定資産)を取得した場合は3年間免税・簡易課税に制限がかかる」というものです。

例えば本則課税の5期に高額特定資産を取得したら6期と7期も課税事業者になり、簡易課税の届出も出せません。

どうしてこのような規定が用意されたかというと、簡単に言えば「本則課税の期に高額な資産を買い入れて多額の税額控除を享受し、その後の期で簡易を適用して売却しみなし仕入れ率による税額控除を重ねて受ける、または免税事業者になって売却することで売却時の消費税負担を逃れることを防止するため」ということのようです。

この辺を押さえておけばなんとなく「1,000万超の買い物をした後は簡易・免税に制限が生じるな」ということはアンテナとして頭にインプットできるかと思います。

 

 

私が今回検討していたのはなんでもない節税会社(所得分散のために設立され本体会社の事業の一部を行っている小規模な会社)でしたが、たまたま1,000万円を超える車両を購入しており、簡易の適用が受けられないという状況でした。

それほど処理上の論点がある会社ではなくもちろん当事者に租税回避的な意図もないところでしたので、何も考えずに簡易課税の選択届出を出してしまうところでした。そのような会社でも規定の対象になることに注意が必要です。 

説明は物凄く単純化したものでしたので以下に条文を掲げておきます。課税貨物の引取りや自己建設資産でも対象があるためご注意ください。納税義務の免除の制限が12条の4、簡易の届出の制限が37条3項3号で、後者は前者の場合に簡易の選択届出が出せないと規定するのみです*1

 

消費税法第十二条の四

 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、第三十七条第一項の規定の適用を受けない課税期間中に国内における高額特定資産棚卸資産及び調整対象固定資産のうち、その価額が高額なものとして政令で定めるものをいう。以下この条において同じ。)の課税仕入れ又は高額特定資産に該当する課税貨物の保税地域からの引取り(以下この項において「高額特定資産の仕入れ等」という。)を行つた場合(他の者との契約に基づき、又は当該事業者の棚卸資産若しくは調整対象固定資産として自ら建設、製作又は製造(以下この項において「建設等」という。)をした高額特定資産(以下この項において「自己建設高額特定資産」という。)にあつては、当該自己建設高額特定資産の建設等に要した政令で定める費用の額が政令で定める金額以上となつた場合(第二号において「自己建設高額特定資産の仕入れを行つた場合」という。))には、当該高額特定資産の仕入れ等の日(次の各号に掲げる高額特定資産の区分に応じ当該各号に定める日をいう。)の属する課税期間の翌課税期間から当該高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間(自己建設高額特定資産にあつては、当該自己建設高額特定資産の建設等が完了した日の属する課税期間)の初日以後三年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間(その基準期間における課税売上高が千万円を超える課税期間及び第九条第四項の規定による届出書の提出により、又は第九条の二第一項、第十条第二項、第十一条第二項若しくは第四項、第十二条第二項から第四項まで若しくは第六項、第十二条の二第一項若しくは第二項若しくは前条第一項若しくは第三項の規定により消費税を納める義務が免除されないこととなる課税期間を除く。)における課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについては、第九条第一項本文の規定は、適用しない。
一 高額特定資産(自己建設高額特定資産を除く。) 当該高額特定資産の仕入れ等に係る第三十条第一項各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める日
二 自己建設高額特定資産 当該自己建設高額特定資産の仕入れを行つた場合に該当することとなつた日
2 前項に規定する高額特定資産の仕入れ等が特例申告書の提出に係る課税貨物の保税地域からの引取りである場合における同項の規定の適用その他同項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。

 

 

*1:つまり元々簡易課税の選択届出を提出していて、その後たまたま5,000万円を超えて原則課税が適用されている期に高額特定資産を取得してもこの規定は関係ありません。”新たに”出せないというだけです。簡易課税の適用そのものがブロックされるわけではありません。