租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

事業年度変更で短い課税期間の消費税中間納付に関する条文操作

例えば3月決算法人が事業年度変更で8月決算法人に変わった場合、その期に中間納税の納付書がやってきたときにどのように対応したらいいのかと戸惑うことがあります。

 

X1期 X1年4月1日~X2年3月31日(年税額48万円超400万円以下)

X2期 X2年4月1日~X2年8月31日 ※5ヶ月

 

X2期は8月31日で期末がやってきて、当然ながら10月31日までに消費税の確定申告・納付をする必要があります。

同時にX1期が年税48万超ですので普通でいくとX2期は中間の申告・納付の義務があり、4~9月の半年分について前年の税額の半額を記載した納付書が税務署から送られてきます。

この中間の納付書が10月末に届いたりすると*1会社さんとしては「あれ? これはどうしたらいいんだ?」と思うようです。

結論から言うとこの場合は中間納付をする必要はありません。

 

4~9月の期間について仮で税金を納めるどころかその前に確定申告をするわけですから直感的にも当然の結論ではありますが、根拠条文を載せているブログを見かけなかったので調べてみました。

 

 

まず、消費税の中間申告について書いた条文は消費税法42条です。1ヶ月ごとの中間(1項)→3ヶ月ごとの中間(4項)→6ヶ月の中間(6項)、という書き方になっています。今回の事例としている6ヶ月の期間に係る中間である6項を引用してみます。

消費税法42条6項(1号・2号省略)

事業者は、その課税期間(個人事業者にあつては事業を開始した日の属する課税期間、法人にあつては六月を超えない課税期間及び新たに設立された法人のうち合併により設立されたもの以外のものの設立の日の属する課税期間を除く。)開始の日以後六月の期間(以下この項、第八項、第十項及び第十一項において「六月中間申告対象期間」という。)につき、当該六月中間申告対象期間の末日の翌日から二月以内に、次に掲げる事項を記載した申告書を税務署長に提出しなければならない。ただし、第一号に掲げる金額が二十四万円以下である場合又は当該六月中間申告対象期間が第一項若しくは第四項の規定による申告書を提出すべきこれらの規定に規定する一月中間申告対象期間若しくは三月中間申告対象期間を含む期間である場合における当該六月中間申告対象期間については、この限りでない。

括弧書きの色を変え、注目したい部分を太字にしました。

42条は「これこれの場合に、中間申告書の提出義務がある」ことを規定した条文ですが、6ヶ月の期間に対する中間申告については6ヶ月を超えない課税期間は除かれています。

つまり最初に挙げた例でいくと、X2年は事業年度(課税期間)が5ヶ月しかないため、この規定の対象にならない、その期に中間申告書を提出する義務がないことがわかります。

他方、これだけでは納付義務の有無がわかりません。

納付については飛び飛びで48条に定められています。

消費税法48条

中間申告書を提出した者は、当該申告書に記載した第四十二条第一項第一号、第四項第一号又は第六項第一号に掲げる金額(第四十三条第一項各号に掲げる事項を記載した中間申告書を提出した場合には、同項第四号に掲げる金額)があるときは、当該申告書の提出期限までに、当該金額に相当する消費税を国に納付しなければならない。

主語は「中間申告書を提出した者は」です。すなわち、中間申告書の提出義務がなく提出をしていない者は納付の義務がありません。

これでX2期に納付義務がないところまで話が繋がりました。

ネット上で見た情報によっては「中間申告書の提出期限に中間の納税義務が発生するからその時点で事業年度が切れていれば納付義務はない」というような説明もありましたが、やはり条文から順を追って確認しないといけないと思います。

 

ちなみに混乱を避けるための念押しですが、中間申告書の提出義務があるにも関わらず提出していない場合は44条により提出期限に提出をしたものとみなされますから、(課税期間が6ヶ月を超えるのに)意図的に提出しなかったからといって納付を免れるものでないことは言うまでもありません。

 

(中間申告書の提出がない場合の特例)

第四十四条 中間申告書を提出すべき事業者がその中間申告書をその提出期限までに提出しなかつた場合(第四十二条第十一項の規定の適用を受ける場合を除く。)には、その事業者については、その提出期限において、税務署長に同条第一項各号、第四項各号又は第六項各号に掲げる事項を記載した中間申告書の提出があつたものとみなす。

 

 

*1:本当は中間申告納付の義務がないため送られてくること自体が間違っているわけですが、税務署としては早々に異動届が出ているのでなければ事業年度が短くなっていることを知りようがないため送ってくるのも仕方がありません。