租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

〔書籍〕金子宏『租税法〔第22版〕』

 

ブログをはじめて最初の記事に何を書くかは悩むところですが、書籍の紹介などもやっていきたいので、やはりこの本をまず紹介しておくことにしました。

租税法、基本書中の基本書

この本とは、租税法学の世界で最も権威ある金子宏先生(東京大学名誉教授)による租税法の基本書である『租税法〔第22版〕』(弘文堂2017)です。

本書は租税法に関する最も有名で権威ある基本書であり、租税法学について何かを語るのであればまず参照しなければならない一冊です(よく「金子租税法」なんて言われますね)。研究者や大学院生は必ず読みます。

租税法について体系的な整理がなされており、租税法解釈の基本や各種の個別税法についての説明が網羅的に記述されています。

基本書としての特徴

学問的に議論になる重要な論点についてはほとんど網羅されており、各種の論点に関する重要な判例・論文を脚注で大量に挙げていくスタイルです。そのため何かの論点を勉強するための入り口としても大変に優れた本です。

逆に言うと各論点に関する本書の記述自体は通説的な結論を簡潔に示すものが多いため、詳しい議論の中身は引用されている参考文献を読んではじめて理解できるという側面も多々あります。私は本書を通説的な見解を整理した辞書として、参考文献を辿るためのインデックスとして使う場合が多いです。

もっとも、中には著者の視点で切り込んだ記述もあり、「金子説=通説」と言い切ってしまうのも少し違うのかなと思います。例えば法人税法の損金の計上時期に関するいわゆる債務確定主義は、通説及び実務は通達の3要件でまわっていますが、金子先生はもう少し緩く解する説を唱えています。

租税法に関わる人であれば

受験予備校のテキストで勉強して税理士試験に受かった税理士は、本書を存在すら知らなかったりします。別にそれが悪いことだと言うつもりはありませんが、本書は素晴らしい本ですし、アカデミックな租税法の研究者だけでなく、税実務に携わる人であれば必ず手元に置いておくべき一冊だと個人的には思います。

ただし、本書を入門書として租税法を勉強するというのはかなり難しいことだと思います。もう少し通読しやすい基本書としては谷口先生の『税法基本講義』がありますし、基本書というよりも入門書的な色合いが濃い本という意味では他にたくさんの良書があります。本書は入門や通読というよりは辞書的に使うのが向いている本なのかなと思います。