租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

贈与税の取得費・必要経費該当性

 「大阪勉強会からの税法実務情報」ブログを見て、贈与により土地を取得した際に支払った贈与税が取得費にあたるか争われている事案があると知りました。

 上記によると審判所の判断は「通常必要と認められる費用ということはできず…」というもののようですが、所得税法38条の取得費は「その資産の取得に要した金額」であって、通常性は要件とされていないはずなので書きぶりには少し違和感があるなと思いました。

 不動産所得の必要経費に関して似た事案がなかったかなと調べてみたところ『裁判例からみる所得税法〔二訂版〕』に大阪の事案の紹介がありました*1(大阪地裁平成29年3月15日判決・大阪高裁平成29年9月28日判決・最高裁平成30年4月17日決定)。

 


 これは贈与によって土地建物を取得した納税者が、その贈与にあたり支払った贈与税の金額を必要経費に算入したいという旨の更正の請求をしたものの棄却されたという事案です。

 大阪地裁は費用収益対応の原則を前提とし、所得税法37条では不動産所得を生ずべき「業務について」生じた費用が必要経費とされるという文理から解釈して「少なくとも、当該費用が不動産の賃貸業務と関連することを要することを解される」とし、贈与税はその関連性を欠くとして必要経費該当性を否定しています。通常性は論じていないようです。

 大阪高裁は、贈与税は「贈与以外の手段で当該不動産を取得すれば支払う必要がない」と言ってみたり、相続税の補完税である贈与税所得税の必要経費として認めると所得税の減少という形で贈与税の負担を一部免れることを是認する結果となり「我が国の租税法体系に混乱をもたらす」と言ってみたりしていますが、これは議論自体が混乱している印象を受けます。

 酒井教授も租税特別措置法には譲渡所得における相続税の取得費加算があること、必要経費は絶対的なミニマムを追及するものではないこと*2に触れ「そう考えると、やはり本件大阪地裁判決が示すように、費用収益対応の原則を論拠とする方が分かりやすいように思われる」とコメントしておられます。

 いずれにせよ実務的な結論としては贈与による取得にかかる贈与税は取得費・必要経費にならないということなのでしょう。実定法上の論拠としては無理に色々な理屈を持ち出さなくても必要性・業務関連性で読み込めば足り、あえて付言すれば措置法における相続税取得費加算の広い意味での反対解釈として租税を必要経費に算入するには立法による対応を必要とすると考えるのが体系的にも妥当なように思われます。

 

 余談ながら、逆に贈与により取得したときの不動産取得税や登録免許税は必要経費にできることを気付かずに申告してしまっている実務も多そう。

 

*1:酒井克彦 『裁判例からみる所得税法〔二訂版〕』576頁  (大蔵財務協会2021)。

*2:「他にどんな手段を使っても絶対にかかってしまう支出だけが必要経費への算入が認められる」とはどう頑張っても所得税法の文理からは読み取れませんし、実務もそうなっていないのは当然です。