租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

個人事業と法人成りの税・社会保険負担に関する研究報告

今月の東京税理士会の会報誌「東京税理士界」を読んでいたら税務会計学会の研究報告が興味深いものでした。

 

実務研究「事業体選択と税・社会保障事例研究」(リンク先PDF)

 

個人で事業を行うのと、法人化して事業所得相当額の給与をとるのと、どちらが税制上有利なのかということについてはしばしば議論に上がります。本報告はこの問題の射程をさらに社会保険料の負担にも広げ、税金と社会保険料負担を合わせて考えるとどちらが有利なのかを計量分析しています。

結論としては税制よりも社会保険の方がむしろインパクトは大きく、税制上は法人成りが有利に見えるが社会保険料負担を考慮に入れると所得2,500万円までは個人事業が有利ということです。

この問題は小規模事業者に対する課税の中立性という意味で税・財政的にも重要ですが、個人事業主から「法人化したほうがよいのでしょうか」と相談されることが多い我々税理士にとっては実務的にも大変重要な問題です。

自分でもExcelにモデルを作って計算してみたいと思いました(お客様に合わせてパラメータも変えられますし)。

またここでの論点は税と社会保険ですが、現実的に法人成りのコストということで考えると各種の登記費用や税理士報酬についても考えなければならず、それほど高くない所得水準の中では(そしてこうした判断で悩むのはそもそも所得が微妙な水準の方々です)看過できないインパクトを持ちます。「税負担が下がります」と法人成りをオススメしておいて税理士報酬が上がってむしろ損になるなどという事態があっては笑えないですからね。

もちろん法人化することで退職金がとれることや親族への給与が出せるといった税務的なメリットはありますし、さらに定量化できないメリットとして取引先に対する信用力の向上やステータスとしてのモチベーションアップ、採用力の向上なども挙げられます。

このあたり、変数となるものを整理した上でお客様の状況や将来プランをヒアリングしてモデルに落とし込むような形で有利不利の見積もりを提示できれば理想的だなぁという風に思います。