租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

『全ビジネスパーソンのための 分かりやすい「法人税法」の教科書』を読んで

法的な法人税法学習のベースキャンプ

 税法をわかりやすく解説することに関して当代随一の感がある木山泰嗣先生による法人税法の入門書。私は以前から木山先生の書籍のファンであり本書も出版を楽しみにしておりました。前著の『弁護士が教える分かりやすい「所得税法」の授業』神本中の神本です。

 本書は法律学の見地からの法人税法をきちんと、しかしすっきりと解説した入門書・基本書となっています。「全ビジネスパーソンのための」とはありますが、読んでみると内容はかなり手堅く、法人税を全く知らないビジネスマンがこれによって簡単に仕組みを学ぶための書籍というよりは、しっかりとした法的学習のための基礎固めに有益な一冊という印象です。

 内容の網羅性が高いうえに用語の説明などはかなり丁寧ですし、各論点について一面的な情報を流して終わりというよりはカッコ書きで補足的な情報(少数説など)も付記されています。その意味で、アカデミックな見地からとても真面目でしっかりしています。

 したがってやはり、軽く法人税の内容を勉強したい人がいきなり読むというよりは、例えば法律学として法人税法を学習したい法学部生や大学院生が導入として、あるいは判例学習を進める上で基礎理論の整理に繰り返し立ち戻るベースキャンプとして活用するのが非常にしっくりくる本書の使い方なのではないかというイメージを持っています。

法律学の教科書としてはとてもとっつきやすい

 これは以前『スタンダード法人税法』のレビューでも書いたことですが、法人税法法律学的な基本書は非常に少ないのが現状です。

 

taxlawlabyrinth.hatenablog.com

 

 『スタンダード法人税法』と比較すると、本書の方がやや内容的にオーソドックスで柔らかい印象があります。

 毎回感心させられてしまうところですが、条文や裁判例の引用を「さばく」手際が物凄くうまく、ある内容について条文はこう言っている、解釈問題となる論点について裁判例はこう判断している、この部分については通達で実務的にこう処理されている、といったあたりがサラサラっと整理されていて流れるように理解できます。

 自分でいきなり読むと果てしなく難解に感じる条文や判例が木山先生のガイドがあると何故かすらすら読めてしまうという感覚は不思議です(※1)。

 特に近年ホットなトピックである役員退職金のあたりや、伝統的な議論でありながら意外に理解がしづらい権利確定や違法所得周りの説明が、所得税法も交えたところで流れ良く丁寧に説明されているところはとてもためになりました。

 本書以外でそういうことを勉強しようと思うと急に難しい法学の専門書になりがちですので、それを思うと本書のとっつきやすさは卓越しているかと思います。

 また興味深かったのが、会計との絡みやトライアングル体制のあたりが法人税法のテキストにしては深く掘り下げられていた点です。法律学と言いつつもやはり法人税に関しては「会計・簿記との関係を理解しないとわかったことにはならないし実務に全く触れない」というのが私も税理士として日々実感するところで、そのあたり、本書で初めて学ぶ人がどこまで理解できるかどうかということは別として認識が必要であることをしっかりと指摘している点は誠実であるように感じました。

 

 

※1 個人的にこの感覚を強く味わえるのが『税務判例が読めるようになる―リーガルマインド基礎講座・実践編』です。租税法の判例は難解で読みながら色々考えてみるものの「結局何があってそこから何が学べたのか」がうやむやになってしまいがちですが、本書は本当にわかりやすいです。