租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

給与が変動したらもらえる年金はどのくらい変わるのか

給与額決定の一要素

 中小同族企業が役員の報酬を決定する際には会社の財務状況や個人の所得税など種々の事情を勘案します。

 税理士だと立場上どうしても税金のことを主軸に考えてしまう傾向があるのですが、社会保険分野においては負担のみではなく受益の問題も考える必要があります。

 そこで今回はひとつの試論として年金受給額への影響を把握することを考えてみたいと思います。私は年金分野の専門家ではありませんし概算しかできませんが、おおまかにでも桁間を掴めているか否かでは大違いです。またもちろん、中小企業の役員だけでなくあらゆる厚生年金保険加入者に共通する問題です。

 なお、以下では、議論の対象を老齢厚生年金の報酬比例部分に絞ります。受給できる年金には他に定額部分や老齢基礎年金がありますが、給与の変動に影響を受けないためここでは考えません。

 

給与と年金の関係

 日本年金機構のウェブサイト等を参照すると、(平成15年4月以後被保険者の)老齢厚生年金の報酬比例部分は次の式で概算できるようです。

 

報酬比例部分の年金額=平均標準報酬額×0.005481×被保険者月数

 

 ここで「平均標準報酬額」とは「平成15年4月以後の被保険者期間の各月の標準報酬月額と標準賞与額の総額を、平成15年4月以後の被保険者期間の月数で除して得た額」です。年金額は1年間で受け取る金額です。

 給与の金額を変えた場合の影響をダイレクトに把握したいため逆に平均額に月数を掛けて「生涯給与額=平均標準報酬額×被保険者月数」を定義してみます。ざっくりとした意味は「生涯で受け取る給与の総額」です。厳密には標準報酬で計算しますから正確ではありませんが、意味はわかりやすいのではないでしょうか。

 そうすると年金の受給額は生涯年収に0.005481を掛けるだけというシンプルな形に整理することができます。

 

報酬比例部分の年金額=生涯給与額×0.005481

 

 この式は解釈が簡単で、生涯給与を1円減らせば年金の額が0.005481円減ることを意味しています。

 例えば役員報酬を800万から500万に1年間減額した場合年金が16,443円減ります。もちろん年金のトータルの影響はさらに受給年数を掛けてみないとわかりません。仮に20年受け取るとするとインパクトは単純に20倍になります。0.005481の20倍で0.10962、生涯給与が300万経ると年金総額は328,860円減ります。

 「年金を20年受け取るとするなら生涯収入の約11%が年金額に跳ね返る」というようなまとめ方もできるでしょうか。

 生涯の給与収入が1,000万減る行動をとったら年金は総額で110万減少、2,000万増えたら220万増加……。目安としてはわかりやすいかもしれません。