租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

〔書籍〕『争えば税務はもっとフェアになる』

北村豊『争えば税務はもっとフェアになる』(中央経済社2020)

 

納税者勝利の裁決事例をドラマ仕立てで紹介

 本書は国税不服審判所の裁決事例をテーマとしており、最近の裁決事例で納税者側が勝利したものを14本紹介しています。あまり専門用語は使っておらず、各事例をストーリー仕立てでコンパクトにまとめているので読みやすいです。

 また事例ごとにどういった点がポイントになったかも簡潔に指摘されていて、全体としてカギを握るのは(法令解釈ではなく)事実認定の部分であることが主張されます。この点については納得感が高いです。

 ポイントとして指摘されている部分は日頃の税務にも役立つような実践的かつ具体的なものも多いですし、事実の争いにしても「税務当局はどういった事実に強くてどういった事実に弱いか」というリアルな温度感のようなものまで意識されていて唸りました。

 例えば預金の動きなどは国税は開示請求ができますから調べればすぐにわかりますが、具体的なビジネスの進み方や契約書の内容などは申告書からはわかりませんからね。納税者は事実関係の入手に関しては税務当局よりも有利な立場にいるため、それを武器にして戦うのが得策、というわけです。

 私は税理士ですのでどうしてもその立場から読んでしまいますが、紛争事例は翻って「こうした揉め事に発展しないためにどうすればいいか」を考える参考になります。これは裁判例の研究でも同じことが言えますが、紛争事案として上がってきている時点で税務としては筋の悪いものであるとも言えてしまいます。裁決や裁判でどのような判断が下されているかの先例は、そもそもそこに持ち込まないためにどうすればいいかのいい参考資料です。

 他方でもちろん、そうは言っても税務調査で納得がいかない処分がなされる場合はあり、その場合にどのような心構えと具体的な対応でのぞめばいいかの勉強になります。租税の裁判は実務家の間でもよく話題になりますが、考えてみれば不服審判所の審査請求は裁判より身近な存在です。本書は制度の詳細を説明する趣旨のものではありませんが、審査請求について考えるとっかかりとしては手に取りやすいものであると思いました。