租税法の迷宮

とある税理士による租税法・税実務の勉強ノートです。

通信費半額非課税の話

 昼休みにスマホを見ていると日経新聞にこんなニュースが出ていました。

 

www.nikkei.com

 

 「非課税に」と言葉で言うのは簡単ですが租税法律主義(中里実先生に言わせれば租税議会主義)ですから、議会で話し合いもしていないのに勝手に政府が金銭の支給を非課税にするわけにはいきません*1

 そうすると所得税法9条(非課税所得)や36条(収入金額)の解釈でやるのか?などと想像していたのですが、国税からこんなQ&Aが出ました。


在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ

 

 ここでは「月の通信料に一ヶ月の日数のうちの在宅勤務の日数の割合を乗じたものの2分の1」については「給与として課税しなくて差し支えありません」とされています。

 2分の1がどこから来たのかというと、24時間から平均睡眠時間の8時間を引いたうちの法定労働時間の割合は50%だから、というところからだそうです。

 国税が正面からサラリーマンの「起きている時間のうち労働している時間の割合」を計算しているのはなんか笑えますね。

 それはさておき、検討したいのは法的根拠でした。

 このFAQを見ていると、ここに出て来る視点は給与としての課税の緩和ではなく「会社の経費と個人の生活費の曖昧な部分をどのように分けるか」です。

 逆に言うとただそれだけで、例えば永年勤続表彰など現物給与に関する「課税しなくて差し支えない」という緩和通達とはだいぶ意味合いが異なるように思われます。

 例えば「タナカさん、ちょっとクリアファイル切れたから買ってきて」と上司に頼まれて文房具店に買いに行ったタナカさんが領収書を出して会社の経費として精算しお金を受け取った場合にそれがタナカさんの給与収入を構成せずに単に会社の経費(損金)となるだけなのは当然です(実費精算)。

 在宅勤務の通信費に関してクリアファイルの例に置き換えて考えると「クリアファイルのうち何枚を会社が、何枚を給与所得者が使ったのかわからないため、合理的な割合で計算して分ければ実費精算に準じるものとして認めますよ」という趣旨のようです。

 強いて条文の根拠を持ちだすのであればそもそも7条の「所得」ではないとか36条にいう「収入金額」にあたらないということになるのでしょう。この理解が正しいとするならばただ単に「実費精算は給与ではない」だけの話であって「非課税」という表現はしっくりこないように思います。

 しかしこのような発想からいくと消費税の課税仕入れも認められることになるのでしょうか?

 

*1:国民に有利な取り扱いならいいか?というともちろんそうではなく、特定の側面について課税を緩めるのは対象者に対して一度徴収した税金を還付するのと同じことですから、議会の承認を経ていない国家の支出を認めることになります。